カヴァレリア・ルスティカーナ 美しいもののゆくえはかすかだ | 翡翠の千夜千曲

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  私が最初に観たオペラは、カヴァレリア・ルスティカーナです。私が生まれた地方都市では、高校生の頃でも小さな公会堂らしきもの以外音楽会をする大きなホールはありませんでしたから、オーケストラでさえ聞く機会は殆どありませんでした。私は当時合唱部にいましたが、私の通う学校の近くに私立の女子校があり、そこに藤原歌劇団がきてオペラをやるというのでいそいそと出かけて行きました。演奏会場は、女子校の体育館でした。それが、最初に観たオペラです。

 

マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」より間奏曲 吉田裕史指揮 ボローニャ歌劇場フィルハーモニー

 

  まだ色々な音楽を知らなかった私にとっては、相当なインパクトを受けたことは事実です。特に、間奏曲とアヴェマリアはその美しいメロディで私を魅了しました。音大に進んでも貧乏学生の私は、アルバイトで手いっぱいで、演奏会のチケットなど手に入れることができませんでした。ましてや、数万もするオペラのチケットなど夢のまた夢です。

  そのうちに知りましたが、マスカーニはこの曲以外はヒットせず、それでもこのオペラだけで食べていけたようです。その後は2・3のオペラを観ましたが、オペレッタのこうもり以外はいつのまにか寝てしまうありさまで、懲りてしまいました。ヴェリズモ・オペラと言うのですが、ヴェルガの出身地シチリアの山間部を舞台として、貧しい人々の暮らし、三角関係のもつれから起きる決闘と殺人を描いたこの小説は、イタリアにおけるヴェリズモ(リアリズム文芸運動)の典型的作品とされています。

  オペラと言えば、神話や伝説、愛と恋、悲しい別れといったメロドラマ、オペレッタと言えば滑稽な話やコミカルで笑えるような軽いものが多く、言わばヨーロッパの貴族や市民の憩いの場にふさわしい雰囲気を求めたのです。ですから、最初はもてはやされたヴェリズモ・オペラはやがて衰退していきます。なぜなら、暴力やら性的な描写などをオペラに持ち込むのは、あまり受けなかったからです。アバドは、プッチーニやヴェリズモ・オペラは一切振らなかったと言うのはこの辺にあるのかもしれません。エロやドメステックな話題を音楽で描けるのは、リヒアルト・シュトラウスくらいのものでしょう。

 

        Elīna Garanča - Ave Maria (Mascagni)

 

  それでも残るのは、美しい音楽で、今は全く忘れ去られたオペラの一部分が人々の口元に残るのです。イタリア歌曲集に掲載されてある歌の中にはオペラのアリアが多くあります。その他宗教曲も結構入っています。例えば、Ombra mai fu、Lascia ch'io piangaはヘンデルです。バッハでさえ、メンデルスゾーンが大々的に取り上げるまでは市井からは忘れ去られていました。美しいもののゆくえはかすかだ、と八木重吉は言いました。

 

 

オペラ間奏曲集
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
UCCG-40067
ユニバーサル ミュージック

指揮  ヘルベルト・フォン・カラヤン
1 .歌劇≪椿姫≫第3幕前奏曲
2 .歌劇≪カヴァレリア・ルスティカーナ≫間奏曲
3 .歌劇≪修道女アンジェリカ≫間奏曲
4 .歌劇≪道化師≫間奏曲
5 .歌劇≪ホヴァンシチナ≫第4幕間奏曲
6 .歌劇≪マノン・レスコー≫第3幕間奏曲
7 .歌劇≪ノートルダム≫間奏曲
8 .歌劇≪タイス≫~瞑想曲
9 .歌劇≪フェドーラ≫第2幕間奏曲
10 .歌劇≪アドリアーナ・ルクヴルール≫第2幕間奏曲
11 .歌劇≪マドンナの宝石≫第3幕間奏曲
12 .歌劇≪友人フリッツ≫間奏曲