今回の名古屋取材の目玉というか、まさに乗り越えなければならない壁的なスポットというべき喫茶「マウンテン」(http://wind.ap.teacup.com/taroimo/226.html参照)は、地下鉄鶴舞線いりなか駅から徒歩数分の昭和区滝川町というところにあるらしい。空港から市内まで帰ってきた頃には既に暗くなっていたが、店は夜までやっているようだし、思い切って今日のうちに訪ねてみることにした。
名古屋市内とはいっても、住宅街であるこのあたりは冬の18時過ぎともなると街路は暗く、人通りも閑散としている。「マウンテン」への地図は手元になく、あらかじめ控えてあった番地だけを頼りに、見るからに物騒な道を私は歩き出した。
いちおう名古屋生まれの私だが、街を離れてからは既に30年以上経っているので、ほとんどアカの他人の町である。ただ--これは私自身がそういう星の下に生まれているらしいとしか説明ができないのだが--どうも私の場合「できたら道に迷ったのをいいことに、このまま訪ねずに済ませたい」という場所に限って、あっけなく辿り着いてしまう傾向があるのだ(それで入社したのが新卒採用された広告業界誌)。で、結局この日も交差点で不意に目を転じたところ、薄闇の中に目指す、というかできることなら目指したくなかった「マウンテン」のデカデカとした看板が見えてしまった。まるで「見つけてください」という悪意でもこもったかのような趣味のよろしくない看板だ。

店そのものは外装・店内ともに特に変哲のない、ごく普通の喫茶店だった。客層もまともで、カップルの姿もちらほら。そこそこ繁盛しているらしく、若い店員がきびきびと客席を回っている。

「甘口抹茶小倉スパ(http://members.at.infoseek.co.jp/rimssecret/mountain01.htm参照 )をください」と、私は極力平静を装って注文し、店員も特に表情を変えることなくオーダーをとっていった。待つこと10分ほど、例の「奇食の館」で見たのとまったく同じ(当たり前だ)「甘口抹茶小倉スパ」が出てきた。

「食うぞ」と、思わず内心で気合を入れる。これも仕事だ。余計な先入観はこの際捨てろ--と自分に言い聞かせながらまず一口目を口に運ぶ。まずは心をまったく白紙の状態にするのだ! 真っ白に--
---う、う、う、うげえ(吐)。
いや、本当に吐きはしなかったが、結局盛りの半分も喉に下しこむこともできないまま、もろくも挫折してしまったのだった……。
小倉スパの麺自体は悪くなく、味付け次第では結構いけるのではないかとも思ったのだが、いかんせんクリーム&アンコとの相性が最悪なのだ。というか、もしかしたら甘党の人間には思わずよだれがでまくりといったメニューなのかもしれないが、毎晩寝酒にビールをあおっている私のような人間にとって、これははっきり言って拷問に等しい。
かろうじて半分弱をクリアしたところでレジに向かう。店員は、よくあることなのか特に訝しがることもなく平然とレジを叩いていた。カウンターの奥にいたマスターに「残しちゃってごめんなさい」と声をかけると、実におっとりとした人で、「また来てください」とにっこり笑いながら言った。「普通のメニューもありますから」
というわけで「マウンテン」初登山は見事な失敗に終わったわけであったが、帰路に思いがけない「出会い」が。
もうろうとした頭ともたれかかる胃袋を支えるような感じで駅までの道を歩いていたところ、ふと通りの反対側にある大きな病院の看板が目に入った。闇夜に電飾でさんさんと輝いていたその名は「社会福祉法人聖霊会 聖霊病院」。
。
一瞬「なんか聞いたことあるな」とふと引っかかり、すぐ思い出した。「ここ、41年前に俺が生まれた病院じゃないか!!」。名前は覚えていたものの、名古屋のどのへんにあるかというのは今日まで全然知らなかったので、いきなり遭遇したのには結構ビックリした。いちおう念のため静岡の実家の母に携帯で確認したら、この病院で間違いないらしい。「いや~、あたしも紹介されてそん時に入院しただけだもんで、それっきりだだよ。あんたを最初に抱き上げたのはシスターだっけねえ……」などと、静岡弁丸出しで懐かしむ声が受話器の向こうから聞こえた。
私としても感慨しきりであった。いやあ初めてきちゃったよお――って馬鹿なこと言うんじゃないよ、お前の人生ここから始まったんだろうが――。などとしばし病院前に佇みながら内心独りボケとツッコミのようなことを繰り返していた。それにしても「マウンテン」で死んだと思った直後に、自分の生まれた場所にいきなし出会うというのだから、何だか妙な名古屋出張一日目なのであった。
名古屋市内とはいっても、住宅街であるこのあたりは冬の18時過ぎともなると街路は暗く、人通りも閑散としている。「マウンテン」への地図は手元になく、あらかじめ控えてあった番地だけを頼りに、見るからに物騒な道を私は歩き出した。
いちおう名古屋生まれの私だが、街を離れてからは既に30年以上経っているので、ほとんどアカの他人の町である。ただ--これは私自身がそういう星の下に生まれているらしいとしか説明ができないのだが--どうも私の場合「できたら道に迷ったのをいいことに、このまま訪ねずに済ませたい」という場所に限って、あっけなく辿り着いてしまう傾向があるのだ(それで入社したのが新卒採用された広告業界誌)。で、結局この日も交差点で不意に目を転じたところ、薄闇の中に目指す、というかできることなら目指したくなかった「マウンテン」のデカデカとした看板が見えてしまった。まるで「見つけてください」という悪意でもこもったかのような趣味のよろしくない看板だ。

店そのものは外装・店内ともに特に変哲のない、ごく普通の喫茶店だった。客層もまともで、カップルの姿もちらほら。そこそこ繁盛しているらしく、若い店員がきびきびと客席を回っている。

「甘口抹茶小倉スパ(http://members.at.infoseek.co.jp/rimssecret/mountain01.htm参照 )をください」と、私は極力平静を装って注文し、店員も特に表情を変えることなくオーダーをとっていった。待つこと10分ほど、例の「奇食の館」で見たのとまったく同じ(当たり前だ)「甘口抹茶小倉スパ」が出てきた。

「食うぞ」と、思わず内心で気合を入れる。これも仕事だ。余計な先入観はこの際捨てろ--と自分に言い聞かせながらまず一口目を口に運ぶ。まずは心をまったく白紙の状態にするのだ! 真っ白に--
---う、う、う、うげえ(吐)。
いや、本当に吐きはしなかったが、結局盛りの半分も喉に下しこむこともできないまま、もろくも挫折してしまったのだった……。
小倉スパの麺自体は悪くなく、味付け次第では結構いけるのではないかとも思ったのだが、いかんせんクリーム&アンコとの相性が最悪なのだ。というか、もしかしたら甘党の人間には思わずよだれがでまくりといったメニューなのかもしれないが、毎晩寝酒にビールをあおっている私のような人間にとって、これははっきり言って拷問に等しい。
かろうじて半分弱をクリアしたところでレジに向かう。店員は、よくあることなのか特に訝しがることもなく平然とレジを叩いていた。カウンターの奥にいたマスターに「残しちゃってごめんなさい」と声をかけると、実におっとりとした人で、「また来てください」とにっこり笑いながら言った。「普通のメニューもありますから」
というわけで「マウンテン」初登山は見事な失敗に終わったわけであったが、帰路に思いがけない「出会い」が。
もうろうとした頭ともたれかかる胃袋を支えるような感じで駅までの道を歩いていたところ、ふと通りの反対側にある大きな病院の看板が目に入った。闇夜に電飾でさんさんと輝いていたその名は「社会福祉法人聖霊会 聖霊病院」。
。

一瞬「なんか聞いたことあるな」とふと引っかかり、すぐ思い出した。「ここ、41年前に俺が生まれた病院じゃないか!!」。名前は覚えていたものの、名古屋のどのへんにあるかというのは今日まで全然知らなかったので、いきなり遭遇したのには結構ビックリした。いちおう念のため静岡の実家の母に携帯で確認したら、この病院で間違いないらしい。「いや~、あたしも紹介されてそん時に入院しただけだもんで、それっきりだだよ。あんたを最初に抱き上げたのはシスターだっけねえ……」などと、静岡弁丸出しで懐かしむ声が受話器の向こうから聞こえた。
私としても感慨しきりであった。いやあ初めてきちゃったよお――って馬鹿なこと言うんじゃないよ、お前の人生ここから始まったんだろうが――。などとしばし病院前に佇みながら内心独りボケとツッコミのようなことを繰り返していた。それにしても「マウンテン」で死んだと思った直後に、自分の生まれた場所にいきなし出会うというのだから、何だか妙な名古屋出張一日目なのであった。