●所在地・・・京都府木津川市山城町綺田
●山号・・・普門山
●宗派・・・真言宗智山派
●御本尊・・・釈迦如来
●創建年・・・白鳳時代
蟹満寺の創建については、あまり詳しいことが判っていないようです。1990年(平成2年)の発掘調査で、7世紀末の大規模な寺院の遺構が発見されました。創建時の蟹満寺本堂は、奈良薬師寺の本堂と並ぶ規模のものだったと推定されています。
■本堂 2010年(平成22年)落慶
現在は、新しい本堂と庫裏があるだけの小さなお寺です。本堂もこじんまりとしています。お寺全体的に新しく綺麗です。その分、歴史、侘び寂びは感じられません。
ところが・・・
この本堂内にいらっしゃる仏様が凄いのです。
どうしてもお逢いしたかった仏様・・・釈迦如来【国宝】
庫裏で受付を済ませると、自分たちだけで本堂に入り、自由に拝することができます。
●釈迦如来【国宝】白鳳時代
蟹満寺で購入した冊子『普門山蟹満寺』より
こちらの釈迦如来様は、優秀な仏像でありながら、その由緒・伝来がはっきりせず、長らく論争が繰り広げられていました。しかし、1990年(平成2年)本堂西側の庫裏の建て替えに伴う発掘調査にて、本像が白鳳時代創建の蟹満寺のもともとの像であることが、ほぼ明らかになりました。
像高八尺八寸(2m40cm)の堂々とした金銅仏です。時代、大きさ、造りがほぼ同等の仏様としては、奈良薬師寺の御本尊薬師如来様を拝したことがあります。
右手は親指と人差し指で丸を作っており(来迎印)、左手は開いて膝の上に置いています(与願印)。これは釈迦如来様としては珍しいのではないでしょうか。薬壺を持つようになる前の薬師如来像である奈良薬師寺の御本尊とほぼ同じ印相です。
目は飛鳥時代の主流だった杏仁型より細く、唇を強く結び、少々苦み走った感じの表情です。最大の特徴は、螺髪がなく頭がつるっとしている所です。
それにしても、小さなお堂にこんなにも大きくて歴史ある仏様がおわすとは驚きです。
***蟹満寺縁起***
昔、このあたりに、夫婦とひとり娘の善良で慈悲深い一家が住んでいました。このひとり娘は幼少の頃から信心深く、妙法蓮華経観世音菩薩普門品(観音経)を唱えて、観世音菩薩を信仰していました。
ある日、村人が蟹をたくさん捕まえているところに出くわし、娘は生物を慈しむようにとお願いしましたが、聞き入れてもらえませんでした。そこで、その日の自らの糧と蟹を交換し、蟹を草むらに逃がしてやりました。
後日、父が田畑を耕していると、蛇が蛙をくわえ、今にも呑みこもうとしていました。父は、どうにか蛙を助けてやりたいと思いましたが、どうすることもできず、つい、 「もし、蛙を放すならば、私の可愛い娘を汝に嫁がせてやろう」と言ってしまいました。すると、蛇は蛙を放し、帰っていきました。
日没に近づく頃、門前に衣冠を着けた紳士が現れ、「嫁がせる」という約束を迫りました。困り果てた父は、嫁入り支度を理由に日限を付けて再度約束し、その場をのがれました。
そして、遂にその約束の日が来ました。絶望感と共に父は雨戸を堅く閉めてしまいます。これを見た紳士は、本性を現し、大蛇に姿を変え、家の周囲で暴れまわりました。
家族一同、恐れおののきながらも、一心に観音経を唱えていると、如何にも麗しい温顔に輝く大慈大悲の観世音菩薩が眼前にお姿を現され、
「決して、恐れることはない。汝等は慈悲の心深く、常に善良な行いをしている。汝等の娘は我を信じている。我を念ずる観音力はこの危機をことごとく除く」
と告げると静かに姿を消されました。
一家は自然に合掌し、 「南無観世音菩薩」と何度も唱えました。
やがて、家の外の大蛇が暴れる音が聞こえなくなり、静まり返りました。
夜が明けて、父が恐る恐る雨戸を開けてみると、そこには、挟み切られてばらばらになった大蛇と数万の蟹の亡き骸がありました。
一家は、大慈大悲の観世音菩薩の御守護に感謝し、娘の身代わりになった蟹とばらばらになった蛇のために「南無観世音菩薩」と何度も唱え、この蟹と蛇を丁寧に埋葬しました。そして、その上に御堂を建立し、聖観世音菩薩を祀り、蟹と蛇の菩提を弔いました。
こうして、この寺は、たくさんの蟹が満ち満ちて、恐ろしい災難から救われた因縁で建立されたことから蟹満寺と名付けられ、妙法蓮華経普門品の功徳をたたえて、普門山と号されました。
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善因善果、悪因悪果、つまり、因果応報という説話です。いいお話ですね。『今昔物語集』に登場しています。
そう言えば、昨年11月滋賀の三井寺(園城寺)に行った時、境内を歩いていたら、1匹の蟹が歩いており、驚きました。観音様の使者なのかもしれませんね。
●聖観音菩薩 平安時代(頭部のみ)
蟹満寺で購入した冊子『普門山蟹満寺』より
『蟹満寺縁起』に登場する観世音菩薩様とされています。古くから数々の霊験話があり、人々の篤い信仰を集めています。
とても、お優しい表情をされています。
毎年4月18日にはこの縁起に因んで、聖観音菩薩様のご宝前にて、大護摩供を修行し、数百匹の沢蟹を放す蟹供養放生会を行っています。
小さいお寺、小さいお堂。しかし、こちらにおわす仏様は、本当に素晴らしい!縁起と共にとてもありがたい気持ちになりました。
お堂の中は、仏様方と私たちだけ。このお堂は外光が取り入れられていて、明るい。外は物凄く暑いのにお堂の中は割と涼しい。
仏様方と私たちだけの空間、時間を満喫しました。やはり、他に誰かいるのと誰もいないのでは、全然心地良さが違います。仏様が私たちのことをしっかり見てくれているような気持ちになります。
聞こえるのは蝉しぐれ。アブラゼミとミンミンゼミ。これがまた、いいんです。セミの声を背に聴きながら、仏様を見上げる。上手く言い表せませんが、これが、とても心地良いのです。
★御朱印