竜とそばかすの姫
vtuber界隈との親和性と、ドン引きと
監督:細田守さん
出演:中村佳穂さん、他
細田守監督最新作「竜とそばかすの姫」を観てきました。細田さんは平成生まれでデジモンとかおジャ魔女育ちの私にとっては 世代的にタイムリーな作家の1人で思い入れも強く、好き嫌いは作品ごとにあるけども毎作楽しみにしている作家の1人であることは間違いありません。そして今作、前作・前々作以上に色々な気持ちになったので感想を。すごい映画でしたが、猛烈に違和感もあり、良くも悪くも色々言いたくなる映画でした〜。その何か言いたくなる感も含め、今作も楽しみました。
何はともあれ皆んながなんか言いたくなる映画を作り続けてるという意味で細田守監督ははすごいと思います。なかなかできることじゃないと思います。
さて、色んな文脈で観れる本作ですが、個人的におもしろかったところをいくつか。
まずはV好きとしての視点を。V、いわゆるvtuber。まぁ今1番金の動くと言ってもいいホットなコンテンツなわけですが。この映画、すげぇvtuber界隈っぽい世界観だな〜と思いました。ホロライブとか、にじさんじとか、vtuberのゲーム配信とか歌配信なんかを日頃から観てる身としては色々リアリティがありましたよね〜。このUの世界って要は人類総vtuber化した世界ですよね。しかも近年のlive2d技術の進化を考えると、もうすぐそこまできてる世界観だなぁとリアルでした。少なくとも微細な表情をキャラクターの表情に反映させることは多くのvtuberがやってるようにもうスマホレベルからできる時代だし、細田作品でいうとウォーゲームとかサマーウォーズよりも時代が進むことによってよりリアルになってきてる感じはしますよね。ホロライブのカバーさんがやろうとしてる新プロジェクトとかかなりこれに近いんじゃないかなぁ。
昨今のvtuber文化の快進撃はかなり今っぽいなぁと思ってて、かなりメタな話にはなるけどキャラクターの皮を被ることでそこには人種とか性別とか年齢とかなくなるわけですよ。それこそUの世界がそうであったように「なりたい自分になれる」世界なわけだから。しかしそんなvtuber文化も最近すごい大手のVの子の引退とかトラブルが相次いでまして。例えばホロライブの桐生ココさんとか、にじさんじの鈴原るるさんとか、その引退理由がどれもバーチャルな空間のユートピアとは真逆のザ・現実、ザ・現代社会なままならない引退理由で…。
参考程度に↓
どれだけバーチャルな世界が広がり、なりたい自分になれる世界になっても、それに触れるのが人間である以上、出てくる人間や社会のままならなさ…というのは確かにそこにある。そんなことをヒシヒシと感じてるのが今のvヲタたちだったりするので、今回のUの世界のあれやこれやは、V好きとして凄いタイムリーに感じました。
あと、「Vの魂問題」が扱われるというのもリアルでした。「アンベイルする」という単語ですね。これもメタな話になるけど当然vtuberにはそのlive2dを使ってvtuberを演じてる人がいて、果たして「中身」は誰なのか?という話題はV文化とは切っても切り離せない話題です。しかし難しいのはその「中身」と「vtuber」の虚実の皮膜こそがvtuberのおもしろさでもある…ってところで。時折見える「素の部分」「人間っぽさ」が魅力になってるという面も多分にあると思ってます。vtuberのオフコラボ企画とかが盛り上がったり、それこそ「メタい」というV界隈用語があったりとか。いくらバーチャルでも魅力の根幹は人間らしさであり、その負の部分がドッと出てきてるのがV界隈の今って感じでもあるので、その辺もなんかタイムリーだったなぁ。Vの魅力の先に「中身は誰なの?」という興味が出てくるという事実は確かにあるしそこからは逃れられない…という、すごい今っぽいテーマだなと思ったりしました。
と、長々と映画の内容とは離れちゃったので、ざっと中身の感想を。
まず映像の密度と美しさは本当にすごくて感動しました。掴みの歌のシーンには「すげぇ映画はじまった」感があり。映像としての見応えは本当すごかったです。中村佳穂さんも素晴らしかった。この内容で、歌がちゃんと魅力的というのはかなりのプラス。中村佳穂をキャスティングしたとあうのがまずひとつこの映画の武器になったなと思います。
あと、「美女と野獣」がDisneyアニメーションの中でも屈指のお気に入り作品である私にとって、この映画の度の越えた美女と野獣オマージュは感動しちゃったなぁ。ダンスシーンのモロな感じとかちょっとあまりにもモロで笑っちゃったりもしたんですが、清々しいほどに美女と野獣を愛してるんだなこの作り手はと感じて感動しました。絵柄自体もDisneyルネッサンス期的な絵柄になったり、そもそも主人公がベルだったり、敵がガストン的な自警団だったり、屋敷にちゃんとバラがあるとか、そもそも作品自体がかなりミュージカル的というところも含め、この作品に美女と野獣を持ってきたというのはかなりイイなと思いました。
と、全体的に好意的に観たんですが。ラスト周辺。これまでのプラスが全部マイナスに振れるくらいの猛烈な倫理的違和感と嫌悪感、を感じちゃいました。というのが感想です。
あの状況で、あれだけの大人がいて、1人で女の子を行かせるか?というのがまずひとつ。あまりに私の倫理観とかけ離れすぎてて正直ドン引きしました。
で、あの坂道での対峙。作り手への恐怖で画面見たくなかったです。なんてことしてるの?と。たまったま軽い怪我で済んだだけでは?てか怪我してる時点で逮捕では?なんかあったらどうするの。そして、そのあとの竜兄弟との会話もドン引き。「立ち向かう」ってあの兄弟に言わせていいの?なぜ暴力をふるう父親に立ち向かわせてるの?と、ちょっととてもまともな大人が作ったとは思えない会話内容にドン引きしました。そのまま手を引いて警察か児相に行くべきで、取るべき行動は「逃げる」であって、断じて「立ち向かう」ではない。
四国に帰ってからも大人たち「おかえりー!」ってなに?ありえなくない?父親もお前なんなの?なぜ東京に行ったかを知ってるんだよね?「タタキ食うか!」じゃなくない?頭沸いてるのか?と。ここ数年の映画の中でもここまで映画観てて引いた瞬間はないわ、というくらい引きました。
でも、作り手はこういう感想が出ることは百も承知だと思うし、あえてこのバランスになってるわけで。作劇上、最後に彼女とあの兄弟がリアルで会うことは絶対必要だと思いますし。でも、このバランスじゃないといけなかったのか?というのは凄い思うんですよね〜。ちょっと無視できないわかりあえない倫理観がそこに存在してて。どうしてあえてあのバランスにしたのか、今後の監督インタビューでどなたか聞いてほしいなぁと、あとはインタビュアーに託します。
というわけで、竜とそばかすの姫。すげぇ好きだけど、すげぇ嫌い(笑)今年最もアンビバレントな気持ちになった一作でした。まぁでもこの感情自体すごい唯一無二なものではあって。この歪さ自体がこの映画の魅力なのか?と思わなくもない。まぁともかくまずは観ることをおすすめします。
ちょっと追記
後半の気になった部分は、全然関係ない作品だったけど最近観た「RUN」に出てきた配送員の倫理観みたいなのがちょっとでもあると違ったと思います。「病院か、警察か」「警察」というあのやりとりの倫理観。さすがに竜そばのは、ちょっと今のコードではさすがにノイズデカすぎるなぁ…と。