今回は備忘録的駄話です。
高校演劇ってナマで見たことあります?
私はなかったんですよね。いつも聴いてるTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で澤田記者がここ数年ずっと高校演劇特集をやっていて、テレビとか動画では見てたけど、1回ナマで観てみたいなぁと思っていたところでした。
↓アトロク高校演劇特集
そんな中ふと入ってきたフライヤーを目にしまして。山口高校演劇が公演をやると。「コロナで上演ができなかったリベンジ」的なエモいことが書いてあって、これは観に行くチャンスでは?と思いちょいと遠出をし観に行ってきました。
私が観たのは「湯けむりの向こうに」と「Change My World」の2本。公演に際しては、コロナで大変だったかと思いますが、不完全燃焼な一年だった生徒たちの「青春に決着をつける場」を用意したこの企画自体が推せるし、応援の気持ちが湧き上がるものでした。
せっかくなので、初のナマ高校演劇の感想を。
1本目「湯けむりの向こうに」
架空の過疎地域の無人駅を舞台とした人間ドラマでした。タイトルに「湯けむり」とあるように、温泉地域で、温泉をフィーチャーして町おこしをしたい役所が呼んできた有名温泉ライターとそこの地主の頑固なおじいちゃんが登場します。
そのおじいちゃんが無人駅の改札にチェーンをしてて他者をその土地に入れないようにしていると。その土地に入らないと仕事ができない温泉ライター、町おこしをしたい役所側、何が何でも他者をその土地に入れたくないおじいちゃん。主にこの三者のやりとりがメインで、なぜおじいちゃんはその土地に他者を入れたくないのか?がだんだんわかってくるというストーリーでした(ざっとですが)。
まず山口県という恐らく過疎化が進んでいる県・かつ温泉が有名な地域の生徒がこの内容をやるというメタな感じがおもしろかったです。基本的に会話劇ですが、結構毒っけのある「閉鎖的な田舎あるある」がシニカルに盛り込んであって、そのセリフをその土地の生徒がしゃべってるというおもしろさがありました。
主要登場人物として「役所」と呼ばれる観光課の職員が登場するんですが、この役を演じてた彼が非常に素晴らしかった。圧倒的チャームと存在感、コメディセンスで、この公演自体を彼がグイグイと引っ張っていた印象。かなり印象に残りました。
効率化や利益性を優先する昨今の行政に対するアンチテーゼとしても上手くできてて、全く関係ないけど沖縄基地問題とかもちょっと頭に浮かんだくらい普遍的なお話だなと思いました。ともかく重要なのは他者との「対話」であり「相互理解」であり、その希望性(めいたもの)を提示するこの作品は古典的でありながらも、分断の世である今こそやる意味のある作品だなぁなどと思いました。
欲を言えば、おじいちゃんと温泉ライターとの間に相互理解が生まれて終わるのですが、その相互理解がどう周りの人々やその地域に波及するのか、相互理解は果たされたとは言え地域の過疎化・弱体化という問題は解決されないわけで、そこにどう決着をつけるのか、何かいい折衷案はないのか、というところまで踏み込むともう一段すごい作品になったかなぁ〜などと思いました。
とても見応えがあり楽しかったです!
2本目「Change My World」
これがともかくビックリするぐらいの完成度で度肝を抜かれました。これは凄かった!!!これは凄い。
普段はキャピキャピ女子なんだけど実はアニメの美少女ヒロインキャラが好きな隠れオタクで絵師の女の子と、5年間引きこもりのアニメ美少女キャラが好きな女の子。この2人がTwitter上で出会い、交流していき、ネット上でやりとりする中でそれぞれの「セカイ」が少しずつ変わっていくというお話。2人劇でした。
脚本の完成度がちょっとどうかと思うくらいすごくて、綿矢りさ的というかもっと言うと綿矢りさ作品を多く手掛けてる大九明子監督的な作品だなぁと。映画化するなら大九明子だなと思うくらい素晴らしい脚本でした。
基本的に「Twitter上のリプ返」のやりとりを演じるんですが、そのリプ返の演劇的解釈が実に演劇的だし、これは演劇ならではの表現だなと感心しました。終始出ずっぱりの主演2人の表現力もあいまり、高校演劇すげぇなおい!とめちゃくちゃ感動しました。
よく考えれば基本的にネット上の文字のやりとりだし、劇的なことはそんなに起こってないんだけど、なんかとてつもなく劇的なことが起こった気がする少女のささやかな成長譚として見事。ネット上の自分とリアルの自分の人格が違って当たり前な今の若者世代の葛藤としてかなりのリアリティと切実さがありました。
個人的にいいなと思ったのは割と芯の食ったエンタメ論・エンタメ賛歌になってるところで。とかく安易に否定的に描かれがちなオタクカルチャーを肯定的に描き、彼女たちにとって、なくてはならないアイデンティティとして描いていたのが良かったです。エンタメに心動かされ、勇気付けられてきた類いの人間としては、ラストの「Change My World」というアニメのとある回、そこでのキャラクターのセリフをきっかけに心を動かすというシーンにはグッときちゃったなー!
この辺はかなり昨年の「魔女見習いをさがして」とかを思い出しました。アニメや映画や漫画や演劇など、どんなエンタメであれ、人の心を動かすことは確かにある。どんなものでも、「何かが好き」と言う感情と、「そこからできた関係性」というのは、なにものにも変え難い尊いものなのだと。そんなエンタメの希望というかポジティブさを信じてる人が書いた脚本だなというのが滲み出てて泣けました。こりゃかなりの射程を持った作品だと思います。ちょっと想像以上に感動しました。
コント的なよくあるすれ違い劇ではあるんだけど、その装飾とアイディア、ディティールの詰め方が素晴らしかったなぁ。
あと、演劇後の主演2人のあいさつも良かったなぁ。コロナで失われた青春に決着をつけた瞬間に立ち会えたエモさもあり、忘れ難い一本になりました。
てなわけで、初・ナマ高校演劇の雑感でした。いいね!高校演劇!ありがとうアトロク、そして澤田記者。色んな高校の演劇を見たくなるいいきっかけになりました。