WAVES ウェイブス/狂った歯車 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。




WAVES ウェイブス


狂った歯車
監督:トレイ・エドワード・シュルツさん
出演:ケルビン・ハリソン・Jr.さん、テイラー・ラッセルさん、他


「WAVES」を観てきました。ほぼ前知識なし。監督の前作「イットカムズアットナイト」はわりと好きでしたので、まぁそこそこの期待感を持ちながら。なんとなくのポスターイメージでオシャレな音楽を鳴り響かせる甘酸っぱい青春映画なのかな?すごい作品の幅だなぁ!などと思ってましたが、、ぜんぜんそんな甘い話じゃなかった…しかしほんと素晴らしくってめちゃくちゃグッときました。



主人公はレスリング部。筋肉もりもりのイケイケ、家はめちゃ金持ち、ピアノも弾けて、勉強できて、可愛い彼女もいて、すべてを持っている男で。ただ父親がすごくザ・父権的な圧の強い人なんですよね〜。そんな主人公の人生の歯車が、肩の怪我から徐々にゆっくり狂っていく。これまでプラスに働いていた要素がことごとくマイナスの方に動いていく悲しさ。特に父親という存在と圧。そして彼女の妊娠。薬。いろいろ重なるわ重なるわ。この「崩壊」の前半、ほんとキツいんですがうまくて。描きこみがうまいから、このどんどん転落していく主人公にグイグイ感情移入。なんでこんなことになっちゃったんだろう、どうすればこうならなかったんだろう、どこで間違っちゃったんだろう、そんなことがグルグル頭を巡ります。

これものすごーく「葛城事件」を連想しました。あれも父親の圧と息子の犯罪の映画だったなぁ…。



そういえば監督の前作も圧の強い父親と、そこから生まれる悲劇の話でしたね。

しかしこの映画ここで終わらないんですよね。こっからこの主人公の妹の話になる、というのが後半の展開で、前情報なく観たのでこんな映画なんだ!とびっくりしました。そしてこの展開こそが良かった。めちゃくちゃグッときました。


言うなれば救いのある「葛城事件」とでも言いましょうか。「崩壊」とそこからの「救い」というか「再生」の映画でしたし、その「再生」こそがテーマでしたね。このシークエンスはほんとに良くてね、ルーカス・ヘッジスがいいんだほんとに。観ながらルーカス・ヘッジスに心から感謝しましたよ…。死を看取る場面とかも印象深いなぁ、これも前作の頭に同じような場面がありましたね。

今回、この死を看取るということをある種の生まれ変わりというか成長するというのが良かったな。この映画、登場人物の心が収縮するとスクリーンサイズも小さくなるという映画で、前半のお兄ちゃんパートでは、いろいろ大変なことが起きてスタンダードサイズまでスクリーンが小さくなってたわけですが、そんな小さくなってたスクリーンがこの妹の小さな一歩でバーっとスクリーンがフルで晴れやかな空が広がる。この瞬間を描きたかったのか!と、そんな演出も相まってものすごく感動しました。

ところどころちょっと音楽が雄弁に語りすぎだなぁ…と思うところも正直あったんですが、そもそもの企画の出発が音楽からだったらしいのでまぁそんなことを言ってもしょうがないのか。あまりにも全曲がビシッとハマりすぎているのがなんかちょっとクドく感じたり、感じなかったり。といいつつ、公式プレイリストは聴きまくってますが。

てなわけで、こんなにグッとくるとはなぁーという映画でした。前半の「どこで間違っちゃったんだろう」という葛城事件っぷりと、でもそこで終わらない後半の再生。どちらも愛おしい、そんな映画でした。