殺さない彼と死なない彼女/「未来の話をしよう」 | そーす太郎の映画感想文

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しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。





※なんの情報も入れずに見た方が絶対にいいタイプの映画ですので、気になってる人は読まないでください。





殺さない彼と死なない彼女

「未来の話をしよう」
上映時間:123分
監督:小林啓一さん
出演:桜井日奈子さん、間宮祥太郎さん、他



ぜんぜん観る気のなかった映画だったんだけど、いろんな人からすすめられたり、いい評判を聞いたのでふらっと観に行ってきました。ちょこっと特報を映画館で観たくらいで原作も未読だしまったくどんな内容が知らない状態での鑑賞。やっぱ、こういうことがあるから好き嫌いせずに映画を観るべきだなぁと改めて感じましたね、めちゃくちゃ素晴らしい映画でしたし、ほんとに「こんな話なの?!」と心底ビックリしました。想像を遥かに超える素晴らしい映画でした!


いやぁほんとビックリしましたねぇ。予想を超えてきた作品の出来もそうだし、後半の仕掛けもそうだし。こんな内容だったの?!となりましたし、まぁ泣いた。まず何気ない日常の積み重ねがほんとにうまくて、3組の物語が並行して描かれて描かれるわけですが、どれもが魅力的。

地味子とキャピ子パート、超いいよねぇ〜。とにかく愛情を渇望してるキャピ子が恐ろしく可愛いのも魅力だけど同時にものすごく危うい。この彼女の危うさがこのパートを引っ張っていくし、それを見守り常にそばにいる地味子 恒松祐里さんは今回も最高の存在感を発揮してて、彼女たちのラストのなんと清々しいことか。最高であります。

そして撫子と八千代くんパートは、この映画では全体的にあるちょっと非リアルな芝居がかった台詞回しが全開。僕はかねてから「ティーンに違和感のある台詞回しを言わせる青春映画」が大好物ということもあり、ものすごくハマったし、この不自然な台詞回しが作り出していく独特のグルーヴこそこの映画の肝であるとも思うので僕はすごく気持ち良かったです。撫子ちゃんの健気さ、特に後半の手を変え品を変えの「好き」の連なりはおじさん号泣しましたよ。なにやってんだよ八千代!!と笑 最後はほんとに微笑ましかった。

そしてメインの死にたい桜井日奈子、殺さない間宮翔太郎パート。もうねぇ〜やめてくれよ!!まじかよ!!ですよね。まぁその後半の仕掛けは置いといてもほんとに何気ない彼らの日常と、だんだん気持ちが通じ合っていく過程、しょうもないやりとり、お互いがなくてはならない存在になる感じとかさ、もうなんか奇跡的にこの2人のやりとり一挙手一投足が素晴らしくてグッときてね。このままハッピーで終わるのかと思っていたよ。。

そしてまぁ後半のある仕掛けですけど。群像劇なのでこの3組の物語がいつかは重なるのか…または重なりそうで重ならないのか…という感じで観てたわけだけどこんな重なり方する?という想像をしてなかった重なり方をしてきて、ビックリしたしだからこそグッとくる物語のテーマというかメッセージがそこで浮かび上がってくる感じもまたたまらんし、そしてなによりちょっとどうかと思うくらい泣いてしまったなぁ…。


撫子パートやキャピ子パートは同じ時系列の話だけど、桜井日奈子間宮翔太郎パートはその過去の時系列だったということが…匂わされてたサイコキラーに間宮翔太郎が殺されるという展開で明らかになっていくんですよね。お葬式での桜井日奈子の叫びとそれを受けての地味子とキャピ子という図でわかるようになっていますな。

彼が死んでからの桜井日奈子には泣かされたなぁ。こうなったからこそ、これまでに描かれた愛おしい何気ない日常シーンが残酷なまでに効いてくるし。彼の家に行って服を抱きしめて泣くシーンや、なにより何度かあるあの「夢」のシーンはもうたまらないものがあるし。桜井日奈子も死ぬんじゃないか、彼女は耐えられないんじゃないかという、もうさとにかく観てて心配でどうかなりそうだったし、どうかお前は死なないでくれ!!と祈りながら見てたし、桜井日奈子への応援の気持ちが湧き上がりすぎてどうかなるかと思いました。だからこそ、最後に、あの時点の撫子に「未来の話をしましょう」と言えたあの未来の桜井日奈子を見れてものすごく安心したし感動したなぁ。

そしてこの桜井日奈子の立ち直りが未来の撫子やキャピ子たちに影響してたということがわかる。繋がってないと思っていたところが繋がってくるし、人間って思ってもないところで誰かに影響を与えていたり、なんてことないことが、まわりまわって誰かの人生に影響を及ぼしたりもする。時系列は同じだと思って3組の話を見てたからより感じるけど、桜井日奈子の未来に向かう気持ちが次の誰かの未来を、青春を、繋いでいくからさ切なくも愛おしくて感動する。そうだよ、未来の話をしよう。

なんだかそっと心の中に置いておきたい、あいつらのあの時の感情がものすごくリアルに感じるほんとに愛おしい作品で、ちょっと忘れがたい。大事な一本になりました。ほんと見てよかった。