アメリカやヨーロッパでは安ければ安いほど強いのは事実です。

田舎に進出して周囲の小売業を根絶やしにして独占するビジネスモデルでウォルマートやカルフールが伸びたのは事実です。そんなに高くうれるなら、なぜ競合が進出しないのか?という疑問はこの田舎というところがキモで、ウォルマートのハイパーマーケットクラスに対抗出来る規模の店舗を仮に作っても、肝心の市場規模が小さすぎて採算が取れないのです。その為先に進出した方に圧倒的にアドバンテージがあります。また、ディフェンス側のウォルマートは体力があるので、徹底した対抗価格で潰しにかかるでしょう。どの道採算が取れないと思われます。だから、独占できるのです。
 
実際アメリカではウォルマートと争っていたKマートはチャプター11を申請して実質倒産してしまいました。現在2位のターゲットはウォルマートと違い都市部で強く、価格を全面に出さない訴求をしています。完全に違う市場をターゲットにしています。

因みにウォルマートとカルフールの店は似ているところもありますが、大きな違いは、ウォルマートは、巨大店舗をすべて自社直営で運営し、売上の総取りをするのに対し、カルフールは巨大なモールの核テナントのみを自社直営で運営し、その売場面積よりも大きな面積にテナントを入れるところです。これは、ウォルマートは店の売上=自社の売上という分かりやすいビジネスモデルに対し、カルフールは自社直営核テナントが利益トントンで徹底して安く売りし、集客装置として機能させ、その集めたお客さんがテナントで買物することによって得られる売上マージンで利益を出すというビジネスモデルになっている点です。

 このコンセプトに一番近いのが日本ではイオンモールです。 実際、静岡県に出店した大型のモールの総売り場面積はその商圏内にある他のすべての店舗の総面積の合計より大きいという物です。それではシャッター通りがあちこちにできてしまいます。
 
元々カルフールもウォルマートのようなモデルでしたが、1973年ロワイエ法という日本の大店法のモデルになった大型店の出店を規制する法律ができた時に、地元の小売店との共存を図る意味で始めたモデルです。また、彼らは同時に海外に進出することによって、国内での成長鈍化を補う事を狙いました。因みにフランスではガラン法という安売りを規制する法律すらあります。日本の独占禁止法の強烈奴と思えばいいのかな。

 実際彼らは中国、ブラジルでは大きな成功を収めています。それは、その国の成長の極初期の段階で進出し、現地に新しい小売モデルを構築できた事が大きいと思われます。ルールを自分たちに都合のいいように作れる市場では、彼らは強いです。それに対し、市場規模が大きいが、既に完成している国への進出では、ことごとく失敗しています。ウォルマートはドイツと日本で、カルフールは日本で手痛い失敗をしています。

ただ、彼らの名誉の為に言わせて頂ければ、決してなめていた訳ではありません。かなりの資金と時間をかけて準備した上で進出しています。カルフールは1980年代には日本のある小売業者と組んでテストマーケティングをしていましたし、2000年に進出した際にも、イオンとイトーヨーカドーにはかなり警戒していました。彼らが海外進出することに神経質になっていましたよ。

進出のきっかけは小泉改革による開放路線が、出店の制約緩めたこと、消費税増税による景気の落ち込みによる地価の下落の2つが大きかったようです。
 
では、このビジネスモデルが日本で通用しないのは何故か?

外資の小売業が必ず失敗するかと云えばそうではありません。
IKEAやGAP、トイザらスのような専門店形式の店舗は成功しているところが多いですし、また、ディスカウントストアのコストコも着実に店舗を増やしています。アマゾンドットコムは日本の通販首位に成長しました。

何が障壁になっているのでしょうか?

海外からの小売業が日本に進出するにあたって最大の障壁は、実は日本人の文化水準 とりわけ食の水準の高さとその流通機構の複雑さによる部分、そして日本人の豊かさの基準の違いが大きいと思います。
 
まずは食品について。日本は生食の文化です。単に魚を生で食べる習慣に限らず、野菜や肉でも恐ろしく鮮度にこだわります。その為、基本的にその日に売り切れる量しか仕入れないため大規模なロットで仕入れることによる、コストダウンが通用しにくい国なんです。アメリカやヨーロッパでも鮮度を売り物にしている食品スーパーは価格が高いです。
 また、日本の主婦の方の料理のレパートリーは和食・洋食・中華・果てはエスニックまでと、幅広いレパートリーのメニューを日々の食卓に並べます。こんな国はそうそうありません。
 その為、品揃えも増やさなければ、いけません。そうすると、当然、1品あたりの仕入れ量が減りますから、大量仕入れの構造がつくりにくくなります。
 
カルフールが最初に出店した3店舗(幕張、南町田、光明池)では、フランスと全く同じ什器が使われていました。幅が120cm(日本だと4尺)の大きな棚に彼らの感覚では1つの棚に並べても5品種が当たり前だったようですが、日本では調味料ですと30品種を並べていました。日本の感覚ではたくさん種類が並んでいないとしょぼい店に思えるのですが、海外ではそういう感覚がないので、少ない品種をたくさん並べて、たくさん棚に詰め込むことによって、品出し要員の人件費抑制と大量仕入れによるコストダウンを図りますが、日本では出来ませんでした。
 また、品質に関しても消費者の目が肥えているので、中途半端に安いけど、質の良くない製品には見向きもしてもらえません。ウォルマートやカルフールの強さに価格の安いPB製品のライナップの強さがあります。ですが、日本人の感覚でみると、食品はよくわからないので不安で買えないし(カルフールのPBには薔薇のジャムとかあって面白かったのですが)ハードライン(所謂、衣、食、住の食を除いた部分)は、家電は日本製品が強すぎて、話にならないし、服はセンスと体格が違いすぎる、住環境も違いすぎて売り物になりませんでした。

 要は安さだけを売り物にしている限り失敗してしまします。新しい利便性を合理的な価格で提供したところは成功しています。IKEAやトイザらスは閉鎖的だった家具やおもちゃの流通にPBを持ち込んだり、大量一括購入をすすめたりして、消費者の利益をもたらし、それが支持を広げました。

単独進出したカルフールも西友を買収したウォルマートも日本に溶け込もうとローカライズをしましたが、それが却って強さを失わせてしまい敗因になったと思われます。

その位、食というのは小売にとって大きいのです。