ついに登録された。麓のごみだらけ状況を考えると、絶対無理といわれていたし、皆そう思っていたけれど、「自然遺産」ではなく、「文化遺産」ということで、OKになった。富士講をはじめとする山岳信仰や、古くから描かれてきた富士山を対象にした絵画や、四季折々富士山を織り込んだ歌が詠まれたことなどが評価されたのだろう。
ところで、その日本最高峰を私が登ったのは、一度きり。過去の山行記録を探してみたら、出てきた。もうふた昔19年前だった。さっそくその山行記録をご紹介しよう。

倉見山山頂直下から見た富士山(2011年12月4日撮影)
富士山 標高 3776m 山梨・静岡県
1994年9月4日(日)~9月5日(月) 晴れ
メンバー 私単独
コースタイム 富士宮五合目22:00頃--山頂2:00すぎ--お鉢めぐり--5:15頃 ご来光--下山時間不明 富士宮五合目
日曜の昼間仮眠をとり出発と思っていたが、たいして疲れてもいないのに眠れるわけがなかった。当時乗りまわしていたHONDAビートの助手席にザックを放り込んで、16:00頃成増を出発する。環八が渋滞していて東名に上がったのは、すでに17:00を回っていた。日が西の空に傾き、夕焼けになる。
腹ごしらえに足柄SAで夕飯をとり、御殿場ICで降りる。危惧していたような道を間違えることもなく、あっさりと富士山スカイラインに入る。当時はカーナビなどという便利なものを持っていなかったから、よく道を間違っては、動物的な勘を働かせていたものだ。持っていた地図を見ると、この道路は有料道路と表示されていたのだが、料金をとられることもなく通行できた。あとから新六合目の売店のおばちゃんから聞かされたが、1993年から無料開放されたようだ。
ところで富士山麓には樹海が広がっているわけだが、ここはなんといっても自殺の名所。とっぷりと日が暮れた樹海の中の道はどうも薄気味が悪い。しかも一人で車を走らせていたからなおさらだ。時々樹海の中に入っていく道がぽっかりと口を開けていて、出入口に自衛隊員の守衛がいる。誰かがいると気づくと、ギクリとさせられる。また自衛隊の演習場があって、「射撃中」と看板が出ている。ただならぬ異世界に迷い込んだ子ウサギのようにびくびくしながら通り抜けることになった。このとき時間はまだ19:00くらい。わずかながらすれ違う車はあった。
20:00前に登山口である富士宮5合目に到着した。すでに先着様がいて、山登りの格好をしていて待機中だぜといったオーラを発している。学生のグループと外人のカップルだ。その後続々とこの登山口に人が集結してくる。山頂を目指す登山者、たんなる冷やかしのドライバー、爆音を立ててやってきた暴走族。人が増えるごとににぎやかさも増していく。当初の計画では、0:00出発だったのだが、あまりのやかましさに車中で仮眠をとるのは断念。
目の前を2パーティが出発していくのが見えたのを契機に、じゃあ自分も出発だと、22:00頃登山道を歩き始めた。火山灰のボサボサした土を踏みしめていくと、すぐに新六合目に着く。年配のご夫婦、外人(あとからドイツ人と判明)パーティがいたが、早々に追い越して上を目指す。
夜間の登山は、“明かり”がなければ登れない(はずだ)。ヘッドランプは、装備として不可欠なのだが、新六合目で追い抜いたドイツ人の中には、“明かり”を持たない人がいた。足元がよく見えないのは、非常に危ない。道を間違えたり、足を滑らせたりするからね。ただ登山道には、目印の矢印が岩にペイントされていたり、ロープが張られていたり、加えてラッキーなことに漆黒の闇というわけでもなかったので、注意深く行けば、何とかなりそうではあった。
途中私のヘッドランプの明かりが暗いなと思っているうちに、ふつりと切れた。電池交換をしていると、先ほどのドイツ人パーティのメンバー中2人が大またで颯爽と追い抜いていった。明かりを取り戻した私は、よせばいいのに追いついてやろうとペースアップ。その無理がたたって九合目付近でだいぶへばってしまった。歩いては立ち止まり、歩いては立ち止まりを繰り返す。そんな歩き方をしていたのに、前方に先ほどのドイツ人1人を発見し、たちまち追いついてしまった。彼のヘッドランプは消えていた。電池切れのようだ。私以上にへばっているのがひと目でわかるほど、歩みは遅々としていた。
山頂には2:00すぎに着いた。先行していたドイツ人に声をかけられる。黒い人影を見て、どうやら仲間と勘違いしたようだ。私の顔を覗き込んで、あれっという感じで、外人を見なかったかと聞かれた。途中で追い抜いてきたと伝えると、早く寝る準備をしなければならないのになあとぼそぼそ言っていた。寝るのか?と驚いたが、たしかにご来光までは、まだ3時間もあるのだ。
山頂の気温は、次第に下がってきている。数度くらいか。ここで3時間もじっとしているのはつらいだろうなあ。さあどうしようか……