写真屋さんで現像した25年前の写真が置いてあるのは、わかっていた。

いつでも見ることができるし、特に見ることもなかった。

見るのがつらいと言うのか、そうでもあるような、ないような。

別に見なくてもいいや、くらいの感じだろうか。

 

ちょっと別の場所に動かそうと思って、中を見ると、夫が亡くなった後、引越しを手伝うという名目で母が日本から来た時の写真があった。その写真のことはすっか忘れていた。これは母に見せておかなければ、と思った。

 

時期も1月の下旬から2月の上旬の、ちょうど今頃である。

失意の中で、母にもヴェネツィアを見せたいと2泊くらいしたのだった。

私はとてもヴェネツィアが気に入っていた。

ヴェネツィアに行く飛行機を待っている間に、ゆっくりお茶を飲んでいたら、

あれ、何か名前を呼ばれてるみたい…だと思った。

もう搭乗しなくちゃいけない時間になっていて、空港のアナウンスで名前を呼ばれていたのだった。その後、搭乗する時に、プロペラ機のプロペラの前で写真を撮っている。

 

サンマルコ広場でウロウロしている時に、ゲームをしているという女の子たちに声をかけられた。何だかよくわけがわからない、と思ったが、夜、ホテルに帰って、バッグの中を整理しようとしたら母が「あら、お財布がない」と言い出した。

まだユーロがない頃だ。母の財布には、イタリアのリラは入っておらず、オーストリアのお金しか入っていなかった(それも少額)。だから、お金はみんな私が払って、母はバッグから財布を出していないのだ。あの女の子たちにすられたのか。今でも、あれは、いつ、すられたんだろう?と話題にのぼる。

 

夫の写真だとばかり思っていたら、全然違っていた。

だから、ちゃんと片付けなくちゃいけないんだよー。

母が生きてるうちに、母の唯一の海外旅行の写真を発掘できて何よりだ。