その後のことは、あまり覚えていません。
流産してしまったことを考えないようにして、おもちのことだけに集中しようとしていました。
でも、お手洗いに行くたびに目に入る真っ赤な血が、何度も現実を突きつけてきました。
りょうくんが帰宅するまでは、そんな感じで過ごしていました。
何も知らないまま、いつも通り玄関から入ってきました。
夫「ななこ、体調どう?」
いつもと同じ言葉でした。
本当はおもちが寝てから話そうと思っていました。
でも、その瞬間に口から出たのは、
私「ダメだった。」
その一言でした。
夫「……そうなの?大丈夫?」
りょうくんの表情が変わりました。
私な泣きそうになりながら、頷きました。
夫「ななこの体は大丈夫なんだね?」
私「私は大丈夫。」
そう答えると、りょうくんは私を抱きしめました。
夫「休んでて。俺がおもちのことするから。」
私「ありがとう。」
長時間の仕事で疲れて帰ってきたはずなのに、その日りょうくんは家事も育児も全部引き受けてくれました。
おもちが時々、
「ママは?」
と聞くたびに、
「今日はパパがおもちと一緒にいたいんだ。」
そう言っていました。
私はソファーに座ったまま、その光景をぼんやり眺めていました。
おもちが寝て、りょうくんがリビングへ戻ってきました。
夫「何か飲む?温かいもの入れるよ。」
私「うん。何でも…」
温かい紅茶を受け取りながら、病院で言われたことを話しました。
私「病院には行ったの…」
夫「ごめんね、大変なときにそばにいられなくて。」
私「そんなの…りょうくんは仕事してたんだから、悪くないでしょ。」
夫「お医者さんなんて?」
私「初期の流産。よくあることだって。病理検査に出してもらったから、結果が出たら原因が分かるかもしれない。」
夫「そっか……。」
私「高齢だと特に多いんだって。」
夫「うん……。」
少し沈黙が流れました。
私はなぜか申し訳ない気持ちになっていました。
私「ごめん。」
夫「ななここそ謝らないで。」
そして続けて、
夫「また作ろうよ。」
そう言いました。
私は何も言えませんでした。
りょうくんは励まそうとしてくれたのだと思います。
でも、その時の私には、その言葉を受け止める余裕がありませんでした。
私が失ったのは「次の赤ちゃん」ではありませんでした。
その子だったのです。
もう会えなくなってしまった、その子だったのです。
だから、
「また作ろう。」なんて無理でした。
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