私が消化器外科医になった約15年前には、

当時60代の、昭和時代の往年の先生方が、まだ現役としてバリバリ働かれており、

実際に手術指導を頂く、貴重な機会もあった。


当然、開腹手術が主流で、まだまだ腹腔鏡は珍しい時代である(ラパコレも、当時、気腹法ではなく、吊り上げ式で行っていた記憶がある)。


印象的だったのが、ムンテラと言われる、患者さん

への説明である。それぞれの先生よって違いはあり、全員が、という訳ではもちろんない。


語弊を恐れずに言えば、威圧的というか、

「お医者様」と「患者」、という分かりやすい上下関係が存在する、ムンテラだった。


ある進行胃癌の術前ムンテラに、

当時レジデントの私は、記録係としてと後学の為に同席した。認知症のない患者さんで、同席は奥様だったと記憶している。


すると、やってきた往年の先生が、開口一番、

「じゃあ、これ(同意書)に、明日までに、サインしといて。明朝までにサインしてたら、明日(オペを)やってやるから」


同意書類を、半ば、投げつけるように渡す。


経験の少なかった私でも、

今まで聞いたことがないスタイルで、大いに驚いた。

(通常は、書面に沿って、病状とオペの概要を説明する。私は、どんなに短くても、質疑応答含めて10分はかけている、というか要点のみでもその程度はかかる。病状やオペによっては、時には30分、それ以上要することもある。)


さらに患者さんが、

「お願いします」と言って頭を下げられた。

間髪入れずに、である。


「それじゃあ、また明日」

と応じて、ムンテラは終了。

わずか一分程度の出来事であった。


聞けば、いつもこのスタイルで、ムンテラしていると。


中には、高圧的な態度や、説明のなさに怒ってしまう患者さんもいるようだが、割合は少数で、

オペが上手いと評判の、この先生にオペしてもらえるなら、と患者さんが希望して来ているので、

術後合併症等が仮に起こっても、クレームが出ることはなかった。


オペ前に、医師-患者関係が、

良くも悪くも完全に確立されており、

望まないなら、よそに行け、というスタイル。


・説明は少ないが、オペは上手い

・説明は丁寧だが、オペは下手


どちらかを選ぶとすれば、

多くの方は前者を選ぶだろう。



患者さんに、全ての情報を開示し、2ndオピニオンも含めた治療選択肢を明示する。今や、これは医療者側の責務であり、共通の認識でもある。


あれから、わずか15年だが、隔世の感がある。



※本記事は、決して往年の外科の先生方を批判する意図で書いたものではありません。

その時代その時代で、仕事のやり方が異なって当然ですし、今日の外科の発展は、往年の先生方の偉大な足跡なしには語れません。

当時教えていただいた多くの事が、今も自分の礎となっており、尊敬と感謝はすれど、決して下げるような意図ではないことを申し添えます。