俎板の恋
 (まないたのこい)



危機的状態にある者が通常では持ち得ない恋愛感情を意識すること。

俎板に乗せられ、なすがままの状態で放置されること早数時間、鯉である私はただ疲弊していた。慣れない大気を言葉通り肌で感じ、ただでさえ平べったい身体を重力によってさらに押し潰され、そしてこれから何が起こるか分からぬ不安も相まって心身ともに窶れていた。水が恋しい。思えば水は私をいつだって支えてくれていた。いつだって一緒にいてくれた。切っても切れない親しい水との縁、今のような状態に陥ってこそわかった。これは恋なのだ。水と魚は交わるものだ。気づくには遅すぎたかも知れない。今はただ、貴方にもう一度包まれたい。



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元となったことわざ
→「俎板の鯉
   (まないたのこい)」

他人の意のままになる以外に方法のない状態。まないたの上の鯉。まないたの魚うお。俎上そじようの魚。

ー大辞林 第三版より



→「水魚の交わり
   (すいぎょのまじわり)」
〔三国志 蜀書諸葛亮伝〕
離れがたい非常に親密な交際のたとえ。水魚の親。水魚の思い。

ー大辞林 第三版より