七四日目


 5時過ぎにカウンターは開いた。結局一睡もできなかった。自分が予約したのはコンドル航空だが受付はポーランドのLOTという会社だった。他のチェックインカウンターもこればっかだったからANA的な位置付けでポーランドから飛ぶやつはほとんどこれなのかな。ポーランド-フランクフルト間の飛行機にはLOTと書いていたし下請けか提携的なノリなのだろうか。

空港にアジア人らしき人間は驚くほど少ない。


 チェックインの際、ポーランド人イケメンスタッフに「お前英語しゃべれるか?」っていきなり喧嘩売られる。まあこいつの言わんこともわかる、ちょっぴりしか話せないし。「a little」と申し訳なさそうに答えたつもりだったがなんでか洋画でしか聞いたことのない「Oh...」というため息で返される。よくよく振り返るとドヤ顔で「A lot!」って答えていた。そりゃ、こいつあかんわ..。って思われるわ。寝ぼけてたらあきまへん。時間差で赤面。


 搭乗予定時刻は7時45分。6時頃に朝からビールをぶちかます。街では2で飲めるし、メニューに10って書いてあるのに11.9ズロチ。400円切るなら空港にしては安いか。眠い目をこすりながら、とうの昔に閾値を越えている血中一酸化炭素濃度に追い討ちをかけ限界突破を図る。一人で何しとるんや。


 そのカフェでうつらうつらとしていたのだが7時頃に日本人三人組がやって来た。編成は欧州在住のロン毛(20代~30代)、多分部長クラスのデブ(40代~50代)、おばはん(30代~40代)。眠たい目をこすりながら、面白そうな話に耳をそばだてる。普段あまり機能しない耳のくせにゴシップや人のこそこそ話のときだけは異常に能力を発揮する。高校時代居眠りするふりして周囲の会話に耳をそばだて培われた卑しい能力。どうやらロン毛はドイツ辺りで飲食業か卸業を営んでいて、おっさんはその元締めか何かで新たに海外進出を狙ってワルシャワやブリュッセル、フランクフルト辺りを出張でまわるよう。なんかラーメン屋の話をしていたのでラーメンかなんかの外食産業だと思う。おばはんだけはなぜか人材派遣の質問をされていた。これから雇う人についての相談か。別の会社の人とチームを組んで飲食のレッドオーシャンへと飛び込むかっこいい三人を見て、俺も早く働きたい!..なんてことは1ミリも思わず、むしろ働く気をがっつり削がれた。ブリュッセルで日本人を束ねてる人の悪口やらなんやら、これから開拓する市場の情報でギラギラしている目を見て怖くなってしまった。働くとはそういうことなんだろう。僕はまだ子どもでいたい。


 ボーディングはおよそ30分遅れ、8時10分頃に搭乗開始。8時半頃に出発してフランクフルトには10時頃に到着した。あっという間だが、そこそこ寝られた。短時間にも関わらず首もあばらもバキバキ。特にイスタンブールの階段で転けたときに痛めた腰が悲鳴をあげている。あと合計約16時間、乗り継ぎ三回に肉体は耐えられるのだろうか、不安だ。


 フランクフルトからプンタカナへの乗り継ぎ時間は80分しかない。このあとの二回もそんな感じだ。トランジットとはいえ、ドミニカとかパナマという野球強豪国の地を踏めるのは嬉しい。


 出発時刻を10時50分と勘違いして諦めて次のフライトを探しかけてた。チェックインは最悪でも一時間前に済ませないといけないから。でもチェックインの意味をそもそも理解していなかった。ワルシャワでチェックインした時点で四枚搭乗券をもらっているから到着時のデパーチャーエリアから出なければ別にチェックインする必要はないのだ。そういえばインドからトルコへ行くときクウェートを経由したけど、たしかにトランスファーの場合はスタンプも押されないしチェックインもなかった。


 搭乗券を見ると次の搭乗ゲートの記載がない。発行時にはまだ決まっていなかったのだろう。電子案内板を見てもまだ表示されていない。下手に空港を出てめんどくさいことになったら嫌だからその辺の職員さんに聞いてみるとB43ゲートを案内される。まだ一般公開されてないのに携帯見てすぐに言ってくれたので空港職員専用のアプリか何かなのか。


 空港と言えばマクドナルド。まだまだ時間もあるのでマクドへ直行。ピザマックとかいう見たことないやつがあったので、そいつにする。しかも1ユーロらしい。めちゃくちゃ混んでいるし白人に三人くらい抜かされるし列で10分くらい待たされるし。店員の黒人の姉ちゃんはすごく無愛想。セットの有無を問うと「あるわけがない、他の注文早く言って」みたいな感じ。プラスでコーラを注文。コーラは秒で来たが、ピザマックが待てど暮らせど来ない。無限にカウンターに突っ立っていた。他の客のオーダーはどしどし通ってるのに、俺のやつだけ来ない。生地からつくってんのかな。10分が限界と踏んでまだ来てへんと言い出そうとしていたら黒人の横の白人の姉ちゃん店員が気を利かせてどないしたんやと聞いてくれた。優しい!とはならない。だってお前らずっと俺に気づいてたやろ。見て見ぬふりしやがって、ほんまなめとったらどつきまわすぞ..と言えるはずもない。弱々しく「This is not coming...」と言ったら、30秒で出てきたほんまこいつら..。合計20分以上待たされた。レシート見たらピザマックは2.5ユーロとかだったあわせて4.5くらいやった気がする。


ピザマック自体の味は可もなく不可もなくでピザ感出そうと頑張ったけど、出てない感じ。ギリシャで食ったグリースサンドマックの方が良かった。申し訳程度のトマト二切れが良い味を出していた。

 食後、即喫煙。空港職員の姉ちゃんかCAの姉ちゃん三人組がヤニかましてて、すごい良いなと思いました。空港利用者の数と空港の規模もあるけど喫煙所はパンパン。大手町を思い出させてくれた。


 愛国心なんて皆無と思ってたが日本の紹介とか宣伝とか広告とか見ると嬉しいというか、何か安心感が生じる。クウェート航空の機内サービスのムービーで東京紹介のVTRがあったけど、普通に見入ってしまった。愛国教育なんかしなくても勝手に豊かな情操は育まれる。施行された法律による無理やりの愛国教育なんて必要ないと思うしそうやって形成された「愛国」なんて意味をなさないし国家的プロパガンダの一種と思えてならない。だめだ、普段うんこ漏らしまくるようなやつがインテリぶってなんか言うとる。ちんこ。


 そう言えばクラクフでもワルシャワでもちらほらユダヤ人を見た。上下黒ずくめで黒いハットをかぶっているからわかりやすい。おそらくイスラエルからご先祖様のお墓参りに来ていたのだろう。ドイツに来てからは全く見ていないがイスラエルとの関係ってどうなんだろう。


 乗り継ぎ一回目は11時10分搭乗開始予定だったが例のごとく30分ほど遅れて自動的に離陸もそれだけ遅れる。さっきのLOTの座席は2×2極小飛行機だったが今度のコンドル航空は一般的な2-3-2で広々としている。モニターもあるしローコストキャリアの割に中々快適だ。



よく見る写真

機内食。マカロニ、ポテトサラダ、パンとオール炭水化物の血糖値モンスター定食。食べてる間にインシュリンがドバドバ出てるのがわかる。味はまずい。アメリカの映画に出てきそうなラインナップで、味もハリウッド映画に出てきそう。食べたことはないが。チョコレートムースのみ俺好みのもの。掬って上顎と下で潰したらドロッと溶けてしまうタイプのやつ。粘度もそこそこありニチャニチャしていておいしい。

 機内で『What Happenes in Vegas』とかいう映画を視聴。あの人類史上最高の名作との呼び声高い『メリーに首ったけ』のヒロインを務めたキャメロン=ディアス主演のラブコメだから期待せずにはいられなかったが、なんやこの三流ムービーは。以下ネタバレ。


 クビ切られた男と婚約破棄された女がヤケになってラスベガスに行く→ワンナイトラブ→明朝、女が逆上→ナオンが決別で渡したクォーターのコインを男がスロットに入れたらたまたま300万$当たる→金の取り合いで裁判、ナオンは金ほしいから結婚したいけど男は死んでも結婚したくない→判決の結果とりあえず6ヵ月共同生活して様子見→共同生活はいがみ合いの日々→でも、ちょっとずつお互いに距離を縮めあって..


 こんなラブコメ何億本もつくられてきたやろ、わざわざ映画化するような設定じゃないのはたしか。超一流女優キャメロン=ディアスはここまで落ちぶれたんか。メリー時代の彼女はもういなくなって往年の名女優という感じ、引退してほしい。何より納得いかんのがシワシワのキャメロンが作中全編通してイイ女として扱われてたこと。いやおばはんやで普通の。見た感じ相手役の男は一回りは若い気がするし、ミスキャスティングちゃうか。と通ぶってみた。ベガスはともかくとして『メリーに首ったけ』は人類史上最高のコメディ映画なので、是非ご覧ください。


 フライトの半分近くは寝ていたと思う。腹が減る度に起きて無理やり寝るを繰り返していた。あの飯ではさすがに腹は持たない。最初の配給から6時間が経過し機内食は一回かもと諦めていた頃に第二弾の支給が開始された、と思いきや重課金ユーザーのみの提供の模様。ぬか喜びさせやがって、と悔しがっていたら無課金ユーザーにも申し訳程度の無料配給。囚人の飯のよう。


 肌の調子は一生悪いのだが風呂に入っても入らなくても外用薬を塗っても塗らなくてもさほど変わらないことがわかった。清潔にしているかしていないかじゃなくてストレスで内側からぼっこんぼっこん飛び出してきているのだと思う。


 16時20分頃にプンタカナに到着。着陸に成功した瞬間コミケで迷子のクソガキが見つかったときに起こるのと同じ拍手が起こった。主導はドイツ人なんだろうけどそんなことするなんて意外だ。あと二回の乗り継ぎはコパ航空、南米はこの会社が制圧しているみたいだ。


 そのままドミニカに入る人は飛行機を降ろされたがトランスファー組は機内で待たされる。なんでか日本人が怒り散らして抵抗していた。セキュリティチェックのためと言っているのだから大人しく従えばいいのに。「お上手な」英語を俺に披露するるためにやっている、チラチラこっちを見てきている、気がする。会話の内容は「なんで降ろさせてくれないの?早くしろよ」くらいですごく簡単な単語しか使っていないから「流暢な」英語を他の日本人に見せるための独壇場に思えてならない。邪推か。邪推だとしたら、こんなことで怒るこいつは本物のアホなんやろう。『ちびまる子ちゃん』に出てくるハマジにすげぇ似てた。プライドだけはすごく高そう。


 なんやかんやとセキュリティ確認をされて搭乗時刻20分前を切った。げっ乗れるのかこれ。飛行機を降りてバスでも10分くらい待たされる。サクッとヤニをかましたかったが次の飛行機にそのまま出荷されたのでお預け。


 搭乗時間はとうに過ぎていたが、普通に乗せてもらえた。LCCだけどモニターもちゃんとついてる。『オーシャンズ8』を機内でかましたかったがその余力もない。サンドラ=ブロックもケイト=ブランシェットもあんなにおばはんになっていたのか。序盤でログアウト。


 機内食のチキンチーズバーガー。一品だけ出てくるのがエアプサンを思い起こさせる。味は普通。隣の兄ちゃんがうまそうな酒を頼んでいたのでセイムワンって叫んだ。ラムとコーラを混ぜてもおいしいんだ。LCCのくせに無料で酒だしてくれるのは有能。

 今日宿泊する予定のホステルの予約確認をしたら10日から13日までの三泊四日だった。リマに着くのが10日の深夜だから10日で予約してしまっていたけど、常識的に考えて日付変わってからの深夜のチェックインは前日のレイトチェックインと同義だから9日から予約しなければならない。どうせ到着は一時過ぎだし明日の14時半からしかチェックインできないようなので陽が昇るまで空港で寝よう。ペルーのタクシーはネパールのようにふっかけてくると言うし、夜に外を歩くよりかは多少空港の方が安全だろう。戦々恐々としていたけど明朝バスで市内に出るか歩いていくか考えよう。市内まではおよそ10キロだから歩けなくない。ただ60時間以上シャワー浴びひんって臭そう。すでにだいぶ臭いし。


 20時前にパナマシティ空港に到着。500ドルほど持参したが、でかい紙幣しかないのでむりやりしょうもないパンとしょうもないジュースを購入し崩す。8.5ドル。南米はドルも使えるというけど、どうだろうか。


 最後の飛行機には21時前に搭乗。外は雨が降っている。こちらはモニターも電源もない。さっき充電すれば良かったと思っても時すでに遅し。このコパエアラインは客室乗務員の8割くらいが男。航空会社の既成概念をぶち壊しに来ている。反骨精神を感じる航空会社だ。




七五日目


 1時前にペルーはホルヘ=チャベス空港に到着。飛行機で合計八時間くらいは寝たと思うけど疲れた。日本との時差は14時間。時差ボケは体感していない。


 ふらふらになりながらSIMカードショップやら両替商を物触するも街の方がレートが良いようなのでいずれも自重した。あとプリプリ怒ってたハマジは優雅にスターバックスをかましてた。ムカつく野郎だ。


 ケンタッキー。地域限定メニュー的なやつだが普通にまずい。カレーとチキンのコンボかと思ったらマッシュポテトだった。炭水化物取りすぎだ。

 4時前に寝ようと横になっていたら叩き起こされたをペルー人こわっ。職員の目を盗み付近の似たような場所で横になる。4時半頃就寝、6時頃起床。身体はバキバキだけど、そこまで体調は悪くない。ぐっすり眠れたし歩くことにする。ひよって50ドルを151ソルに両替。15ピンはね。


 歩く前に水を購入しようとしたら店員の姉ちゃんが「そっちはガス入りだよ、普通のはこっちだよ」って。優しいと思ったのも束の間、4.95ソルなのに5出したら0.05取られる。端数切り捨て型の会計は久しぶりだ。ポーランドではきっちり0.01までもらえた。そういえば携帯ショップの姉ちゃんも優しかった。「ここはSIMカード75ソルするけどシティなら半分くらいで買えるよ」と。ペルー人いけるやん!


 およそ11キロの行程。6時半過ぎに歩行スタート。まったり歩いて9時~10時過ぎを目標に。スタバを通ったらハマジは消えていた。優雅にバスでもかましたんだろう。南米にいるさくらももこ作品のキャラは、全く似ていないがコジコジに似ていると言われて久しい俺だけで十分なんだ。


死ぬほど天気が悪い。歩いている途中に小雨も降ってくる。空港から一歩出ると強烈なタクシーの客引きがお出迎え。こいつらも生活がかかってるから。ヨーロッパで忘れかけていた東南アジア~インドまでを思い出す。警官の手信号に不必要なほど大きなクラクション、人の身体が半分はみ出してるのに走ってるバス、舗装されていない道路、濫立する路上商店にビニール袋にいれるタイプのスープ、鼻くそが真っ黒になりそうな砂塵とか、道端に落ちてるわんこかにゃんこかわからんうんちとか..。つい一月ほど前までこれが日常だったのに、もう非日常になっている。だからこそ、なんだかワクワクしてきた!

謎の店で謎のサンドを購入。1ソル、約34円。ソースも何もなくて魚のすり身のフライが挟まってる。さつま揚げみたいな味、パッサパッサ。腹は満たされないけど中々いける。

マルコスの兄貴。街中のビラでこの「グーマーク」に❌の落書きしてるやつを何個か見た。むしろそれが公式なのかと思うくらい多かったかも。為政者が嫌われるのは場所時代を問わず常。

ひたすら歩いて


市内中心部に到着。空港にチャペルもあったしスペインの元植民地、さすがカトリックの国という感じだ。ラテン系の顔立ちの人も多い。

 ホステルには10時前に到着。60時間ぶりのシャワーは最高。リマには三泊するが、その間にチルカという村に行きたい。チルカはリマから南に70キロほどの村。なんでも地元では有名な「魔法の泥」が存在するらしく、それを塗れば一瞬で健康になるという。テレビにもよく出てるオカルト評論家の山口敏太郎も記事にしていてなんとも胡散臭い話だがペルーの皮膚科医もすすめるくらいで栄養などは豊富に含まれているとのこと。これを顔面に塗りたくってアクネ菌を死滅させたいのだ。ホステルに着いてすぐチルカ行きを相談する。元々は原付でいく予定だったが、この辺にレンタルスクーターはないらしい。電車もリマ市内しか通っていないので自力で行くのはきついか..。バスもあんのかわからんと言われたけどチルカは絶対行きたい。

 英語が9ミリくらいできるとしたらスペイン語は1ミリもできないが、この先やっていけるだろうか..。眠いが観光するか迷い中。ブラジルビザも申請しなければ。心配していてもしょうがないし「All is well」で張り切って連載後半の南米編スタート。

続く