1日目

 

 14時55分発予定の厦門(アモイ)航空の便は定刻を一時間ほど過ぎてようやく出発した。次の乗り継ぎは六時間ほど余裕があるので、多少の遅延は気にならない。厦門を経由し、現地時間明朝6時にアムステルダム到着。ほぼ24時間の旅路である。往復八万ほどの飛行機だが、ANAなら倍ほどかかる。その代わりフライト時間も1/2に短縮される。ピラフはANAで来るらしいが、それくらいビッグな男になりたい。
 

 厦門航空はCAの姉ちゃんのレベルが異常に高い。備え付けのモニターはトイ・ストーリー4、アラジンなどの最新作も配信しており、さすがのラインナップ。収録されている日本の音楽は乃木坂46から星野源から水樹奈々からワンピースのキャラソンまで至れり尽くせり。機内食のまずさを除いて言うことはない。さすが中国4000年の歴史、建国70周年マンセー。
 

 19時を少し過ぎて、厦門空港に到着。空腹もそこそこにツレと一緒に中華を食おうと約束していたので、レストラン街を探索するが、ここで思わぬ落とし穴にはまる。VISAやJCBを使えるお店が一つも存在しないのだ。現金またはアリペイだかアリクイだかわからん電子マネー決済しか受け付けておらず、それ以外は断固拒否と言ったスタンス。レストランに限らず、コンビニも自販機も全てそのシステム。4000年の間に何しててんや、こいつら..。
 

 ツレは飛行機を降りる前から空腹を訴えていたので、徐々に機嫌が悪くなっている。赤色のニュースモニターに映し出される速報の習近平の不適な笑みがツレのイライラを加速させる。腹が減ってイライラするのは五歳までの幼稚園児だけだと思ってた、と言い出せるはずもなく乳飲み子をあやすがごとく優しい猫なで声でツレを諭しながら、ランボーよろしく怒りのキャッシング決済で中国元を手に入れることも目論んだが、結局高すぎる手数料のためご破談となりチェックインまで無言が続く。

 21時になって、ようやくチェックインが始まる。搭乗券の自動発券が一生バグって使えないのもムカついたし、保安検査で充電器を二個も没収されたのは腑に落ちない。保安検査で引っかかった経験がないので、厦門のチェックはかなり厳しいと思う。ツレは怒り狂っているし、Wi-Fiも一生つながらない。Wi-Fiに関しては「厦門空港は簡単にWi-Fiつながります!」というよく見かける、ネットのデマに騙されてしまった。まぁデマもそうだが、一体そもそも4000年間マジで何してきてん..踏んだり蹴ったりだ。気持ちを落ち着かせるため、大学一年のときに構内で配布されていた共産党系のフリーペーパーを拝読。この地で読むからこその味わい深さに多少心が落ちついた。さっきよりもさらに習近平が微笑んでいるようにも見える。


 そんなこんなで、本でも読みがてらゴロゴロしつつ搭乗時間に。0時過ぎにようやく、飛行機は地上を離れた。離陸から一時間経っても餌(機内食)の配布が始まらないので、なお怒りは募る。


 ビールでも飲みがてら気持ちを落ち着かせるが、こいつがべらぼうにぬるい。味はそこそこだが、ぬるくてはおいしさ半減。ようやく届いた機内食の飯にはプラスチック片が混入している。小学生の頃、中国に旅行したとき蒸しパンケーキに、アルミ片や卵の殻が混入していたのを覚えているので、中国はこんなもんだろうと寛容な気持ちで機内食はもりもりいただいた。日本の外食でも髪の毛やら小バエやらが入ってしまうことはままある。それを見かけても、何事もなかったかのように食べることにしているので、その習慣は多分に生きた。ミスはある、人間だもの。ただし、飯のまずさはミスに含めて良いレベルではない。おかわりのビールももれなくこない。


 トイ・ストーリー4を見終わるタイミングでアムステルダムに到着した。早朝6時。ここから、ベースキャンプである無償宿に移動。預け荷物が一生来ない事件を乗り越え、9時前にベースキャンプ着。駅まで彼が迎えに来てくれた。


 彼のハウスに到着し、荷物を置くと、すぐにアムス案内が始まる。経済の中心ロッテルダムが第二次世界大戦で焼き尽くされた一方でアムステルダムは古い建物もかなり保存されている。さながら、東京ディズニーシーのような光景が目の前に広がる。が、長時間のフライトもあり、彼の説明がほとんど頭に入らない。一旦彼と別れ、ツレと二人でその辺をフラフラすることにした。無限に歩きタバコしてるやつらばかり、なんなら草のやつもいる。歩き疲れた我々は屋根裏教会という、隠れ家的カトリック教会を散策した。


 中世迫害されたカトリック教徒がお忍びで足しげく通ったという教会。外の通りから見ると何の変哲もない家だが、中は複雑な仕組みになっており、隠し部屋や隠し扉がわんさか。英語の音声ガイドはそんなことを言っていたように思う。


 「なんでおっぱい隠してるんやろ」
 「肺癌じゃね」
 「てかお花摘みに行きたいんだけど」
 「我慢しろや、ミサに来て急に尿意がきて途中でログアウトしづらくなった人の気持ちわかるやろ」
 「わかる」
 「限界まで我慢しよ」
 「てかあの右下の松ぼっくり的なやつ、やらしいよな」
 「ズルムケだよな」
 「ここはズルムケ神を祀ってるんやろか」
神への冒涜にも等しい会話を無限に続け、30分程度で回れるコースで一時間ほどここの前で座り込んでいた。

 「IHSってなんだろな」
 「ソフトバンクホークスじゃね?」
 「Iはなんやねん?なんで右読みやねん?」
 「Iは今宮。戦時中だから?」
 「上の十字架とHが合わさると阪神タイガースみたいだよな」
周囲の西洋人に奇異の目で見つめられながらも、それぞれの見解を互いに述べた。

 マッカーサーに似てませんか?てか、もっと似てる人いますよね。今思い付いたのはスリムクラブの真栄田!もっと似てる人教えてください!

 続く