四三日目







何時に起きたとかは覚えていない。昨日の12時に列車に乗り込み、そこからずーっと寝転がっている。寝返りすら打てない狭いスペースで枕も布団もない。夜は雨も降ってやたら寒く、ずるずるに鼻水が出た。首が重く、腰もおじいちゃんのように曲がっている。ひたすら寝ているだけのことがこんなに苦行だとは知らなかった。小中学校のときに世話になった体操マット、あれに30時間仰向けで寝ているような感覚だ。痛みと空腹を抑えるために起きる度にひたすら睡眠導入剤を投与し続けた。
朝飯には今日もサモサを食べた。さすがに飽きるし何か甘いものを食いたいと思う。このインドの寝台列車は3分に1回くらい売り子のインド人が通路を通りかかる、無限に往復している。「サモサーサモサー」、「カーナカーナ、チキンカリー、チャパティチャパティ」、「チャイチャイ、カフィー」みたいな感じで売っているものを大声で連呼しながら社内販売をしている。その中で「パラッパーパラッパー」って言ってるやつがいたのでそいつを止めて「パラッパー」とやらを購入してみた。
列車に乗って28時間半が経過した18時半頃まだつかねえのかとぼんやり切符を眺めていたら到着を二時間勘違いしていた。当初から20時半が到着予定時刻だった。筋肉痛はもう限界。あと左目の奥が痛い。これは何事だろうと考えてみたら中学受験を控えた直前期にもこんなことがあったなと思い出す。あのときは両目が三日間開けられないほど痛み、一生光を見られない恐怖に陥った。大して勉強はしていなかったのだが、眼医者に行くと原因はストレスとのことだった。どうでもいいが中学受験では受けた三校全てに不合格通知をいただいた。で、今自分の身に起こっている症状もあの頃によく似ている。おそらくこのクソな国でたくさんストレスをこしらえて左目を見えなくすることで身体のバランスを保とうとしているんだ。かわいそうな俺..
20時半になっても目的地のマーガオまで150キロくらいある。それにもかかわらず20分に一度は停車して何やらごそごそしている。こいつらはアホなのか。左目が例のごとくずきずき痛む。
結局マーガオについたのは2時間半遅れの23時。実に電車に乗って35時間後のことであった。便所に行く時間以外寝台で横になっていたので34時間は横になり、20時間以上は無理やり睡眠していた。元来寝ることは好きだがこれほどまでに嫌になったことはない。体力も全く回復していない。
駅から600メートルほどのところに宿を取っていた。宿につくと倒れるように就床。本物のベッドってこんなに柔らかいんだ..。涙が頬をつたう。
四四日目
9時頃起床。10時頃ビーチへ向かう。切符を手配したタバコ屋の詐欺師のジジイがビーチまでは二キロくらいだから余裕で歩けると言っていたのでひたすら西に向かって歩く。
で、一時間くらいひたすらこんな道を歩く

のだが、ずっと草原が続いている。おかしいなとしびれを切らしてマップを確認するとまず歩いている方向がおかしい。そして、そもそも2キロでつく距離ではなく8キロほどの行程があった。完敗だ。どこまでも詐欺師に欺かれる。
たまたま通りかかったトゥクトゥクに声をかけられ乗車。幸い吹っ掛けられることもなかった。ゴアはインドの中流~上流階級のリゾート地として名高い。そのため、街を歩いていても民度の高さが伺える。客引きもそれほどしつこくない。街はもちろん汚いのだが。

ビーチに来た最大の目的は、「インド人の顔を拝みながら昼間っから牛肉を食らいビールを飲むこと」だ。インド全域でビーフが食えないというわけではなく州によって異なる。ゴアはイギリスとポルトガル領だったこともあり、キリスト教信者が多い。そのため街には教会とかもある。街には牛肉を食える場所があまりないけど、ビーチ付近にはぽつぽつと食える場所がある。バンガロール同様、ゴアは牛肉を食うことが許可された数少ない州らしい。
高い金払ってでも食わなければ..。適当な海の家的なところに入る。メニューを確認すると
そしてついにやって来た。

ビーフステーキ。味はと言うとぶっちゃけ三流ファミレス並の味。ディズニーのスプラッシュマウンテンの横にあるミールコーナーのハンバーグみたいな味付けで中学の修学旅行を思い出す。しかし、ここはインド。ヒンドゥー教徒の顔を拝みながら食らう牛肉というのはまた違った味がする。3割増くらいでうまい。後輩のoisのアドバイスのおかげだ。ありがとう。店員も「楽しんでくれましたかな?」とニチャニチャしながら聞いてくる。ああ楽しいよ。さながら王様の気分だ。
にしてもこのビーフステーキプレートの量がやたらと多い。昨日の夕方から20時間ぶりの食事だというのに全く食が進まない。歩いているため、筋肉はもりもりついている。余分な脂肪も減った。そのせいか、風邪を引きやすくなったのかもしれない。ボディビルダーが風邪を引きやすいという原理が当に自分自身の肉体に起こっている。不幸中の幸いで今日街を歩いていたら、街のツンとくる臭いが感じられた。新大久保の2倍増しくらいか。とにもかくにも、この体調を治し食欲をつけなければ風邪で免疫が弱りほんとにくたばってしまうかもしれない。真剣に飯を食おう。

どうでもいいですが、先日成績発表があったので紹介したい。一年二年の恵まれた成績から三年四年の絶望感。あと6単位で卒業できるというのに、ふらふらフラフラと..。田舎のおっかさんもさぞ泣いていることでしょう。後期に4単位を参入して五年前期での卒業を目指している次第。一浪&一留、同期からは二年も遅れを取り根本的に働く意欲が微塵もなく、ニートのくせにインドで王様気分を味わい、その一方で相対する劣等感をひたすら感じている私が立派な社会人になれるのだろうか。不安でならない。
海の家には約二時間滞在し、一時間半かけてゲストハウスへ戻る。約7キロの行程。半分ほど歩いたところで便意が押し寄せる。別のことを考えて糞のことを忘却しようとする。

レッチリの『Around the World』が似合う風景だ..。う、ん、こ、うん、こ、うんこ
結果から言うと漏らした。ウェットティッシュを持参していたため最小限の被害で済んだが、第二次便意が私を襲う。別のことに思考を寄せようとしても、不可能だ。『東京大学物語』の村上直樹クンよろしくその間0.2秒の二乗の二乗の二乗の二乗..。みたいな感じでどんどん肛門括約筋の方へ思考が集中する。ホステルの階段がアヌスを刺激する。扉を開く振動もまた私の敵。バスルームを開けた瞬間安心して脱糞、本日二度目。
パンツを洗いながらシャワーを浴びていると、経験したことのない激しい手足の痺れに襲われた。着るはずはないと思っていたパーカーに初めて袖を通す。熱中症か破傷風か風邪かミディアムレアステーキの食中毒かは不明。体温を測ると

!!!
再度測定

とりあえず、一晩水分取りながら寝てダメなら病院行きますので安全をお祈りください。僭越ながら。
続く







