三八日目


 ホステルで暫時休憩を取り14時頃ガートへ。ガートとは多分火葬場のこと。ガンジス河沿いには無数のガートが存在する。その中でも特に有名なマニカルニカーガートを目指した。

ダンジョンのような道をひたすら歩く。雰囲気は異様。びびりだから一人で歩くのはとても怖い。距離的には30分で着くのだが方向音痴が災いし1時間ほどダンジョンを右往左往していた。


 15時頃目的のガート周辺に到着するも、なかなかガンジス河の方へ出られない。欧米人が往来する道を発見しそこから出ようとするも謎のインド人に通せんぼされる。「ツーリストそこから行けない。見るだけはこっち」と別ルートへ誘導してくる。絶対これついていったあかんやつや。そもそも欧米人通ってるしおかしいやん。


 30分ほどうろうしていると向かいの方向から来る同年代の日本人らしき男性とすれ違う。一瞬目が合い「あっ」となるが、そのまま通りすぎてしまう。声かければ良かったかなあと5メートルほど離れてから振り返ると彼もこっちを見ていた。「日本人ですよね?」


 インドに入り散々な目にあった。これほどまでに日本人に会いたいと恋焦がれたのは後にも先にもこれが最後だと思う。それくらい嬉しかった。


 Kntくんは東京の大学に通う4年だった。10日間のインド旅行に来ていて今日で帰るらしく最後にマニカルニカーガートを拝もうとしていたそうだ。お互いしらみつぶしにどこからかガートへ抜けられないかやってみたが彼の来た方もダメだったよう。ともにインド最悪トークを日本語で繰り広げつつ、ダンジョン脱出とガート到着を目指す。2人で行けばさっきのインド人にも止められないのではないかと思い行ってみるが、やはりブロックされる。2人なら逃げられるし誘導されてみるかとついていくと火葬場が見えるか見えないかくらいの微妙なところで止められ「ツーリストはメニーメニーバッドカルマ、おまいら薪代払え」とまあ予想通りの対応。


 来た道を引き返し、なんとか火葬場へ行けそうな怪しげなルートを発見。変なインド人もいない。沐浴を終えたインドの民とすれ違いながら火葬場へ。


 階段を上がると、おびただしい量の死体がせっせせっせと焼かれていた。足がパチパチと燃えている。なんとも言えない。物珍しさに見に来る観光客の気持ちはわからんでもないがインド人たちもそういうモチベーションなのだろうか。それでもこれを見学したいという観光客はやはりあのインド人の言う通りバッドカルマなのかもしれない。それを見せびらかして金をぶんどろうとするやつもバッドカルマなのは間違いないが。


 16時半頃Kntくんと夕飯を食らう。1日に2食も食うのは久々だ。インドの店で食べるのも初めてだ。


Dosaとかいうクレープに具が入ったやつ。


 鼻が圧倒的に詰まっており、味は全くわからない。しょっぱさはわかる。かなり濃い味付けだ。味はともかくとして日本語で面と向かって日本人とたっぷり会話できたのはいつぶりだろう。ネパールの年金じいさん以来か?


18時頃空港に行くということで別れる。たった3時間ほどの逢瀬だったが、東京での再会を約束。昨日のグズ宿に泊まって1日滞在が延ばされたことによりこんな奇跡が起こった。ひたすら感謝だ。




三十九日目


 9時頃起床。ここのホステルのコンセントの形状が意味不明なもので充電が全くできなかった。世界対応の変換プラグを持参し今まで使えなかったことはなかったので戸惑う。携帯が使えなくなるのが些か心配だ。


 朝飯。ショボいが無料だし全然良い。ホステルの朝飯などこんなものだろう。贅沢は言えない。


 ホステルの屋上からの景色。「きれいなものは遠くにあるからきれいなの」Super flyの歌詞が心に刺さる風景。

 11時頃チェックアウト。ちゃんとアーグラ行のチケットを取ってくれていた。768ルピーの乗車料に200代行手数料を取られた。手数料が若干高い気もするが仕事をしてくれただけ全然ましだ。ホステルのスタッフが最初に998ルピーを提示してきた。オーナーがそれを制して968ルピーを再提示。スタッフはプリプリしていた。30のサバ読みをしようとするなんて卑小な野郎だ。制すオーナーが良いやつに見えたが、普通に考えれば普通の対応。インドスタンダードになっている。


 チェックアウトを済ませ、性懲りもなくガートへ繰り出してみる。ガンジス河のほとりをぷらぷら歩いてみたい。昨日と同じダンジョンをぐるぐるとまわる。ひどい鼻づまりで糞尿の臭いも何一つ感じない。味覚も弱っているが、かえってこれはインド旅行に来る上でかなり有利かもしれない。ガートへ出ると早速インド人が声をかけてきた。


 「レイニーシーズン、水位高いから歩けないね。ついてこい」。ついていくわけがない。歩けないって言ってるのにお前についていっても何の意味もないやん。でも、どうやら歩けないと言うのはほんとのよう。事実、ガート付近は普段より水量が多いため歩けそうになく階段が水の下に沈んでいるように見える。雨季にインドとネパールへ行くのは愚行以外の何物でもない。


 不思議なもので味は感じないが日本食は恋しくなる。鼻か味蕾を破壊されているのは確実なのにコーラも恋しいし人体とはわからぬもの。12時頃日本料理店へ向かう。Wi-Fiも使えるらしい。店内はエアコンが効いていて気持ち良い。しょうが焼き丼を注文。


俺が想像していたしょうが焼きとは全く違う。豚肉は宗教上難しいのか鶏肉。人参やらピーマンやらの野菜が嬉しい。味はわからないがうまい気がする。ちなみにWi-Fiは使えなかった。調子が悪いとのこと、残念。

 適当にガートをまわりながらホステルへ戻る。撮影禁止の場所もあるようで写真を撮りづらい。ホステル近くのガートはうざい輩もおらず穏やかだった。待ち合わせというわけでもなく何の意味もなくガンカーを眺めただボーッとしているヒンドゥー教徒が多くいた。時の流れに身を任せぼんやりしている感じは良いのに、ひとたび動き出せばなんであんなにウザいのだろう。


わんことインド人少年と戯れ14時頃ホステル帰還。

18時15分発の電車に備え、16時半頃にホステルを出発。「チェックアウトした後でもシャワーは使っていいからな!」と優しいオーナーが言ってくれていた。結局使わなかったが、ほんとに良いホステルだ。2段ベッド×2の部屋に一人で入れてくれたし。一人部屋が最近多すぎてそろそろ本来のドミトリーもやや恋しいけれど。


 ホステルを出ると昨日案内してきたインド人が待ち伏せしていた。「昨日のこと覚えてる。ジャパニーズトラディショナルファンくれたやん。あれもう一個くれへん?」とんでもなく気に入ってくれたのかあるいは高くで売れたのかわからないが満足したよう。でもお前にやる分はもうない。100メートルくらいついてきたがシカトを決め込むと諦めてくれた。向こうから声をかけてくるやつは基本的に悪いやつだ。あと日本語で話しかけて来るやつも十中八九信用ならん。


 17時半頃、バラナシジャンクション駅に到着。


こんな立派なもんつくれんのになんであんなうざいんや。

 インドの鉄道はまあ分かりにくい。この駅だとプラットフォームが9つあるが構内にはどの列車がどこへ到着しどこへ出発するかみたいな電光掲示板がない。だからどこへ行けばいいのか戸惑う。1のプラットフォーム側から9のプラットフォーム側への通路をまっすぐ歩いていくと外に電光掲示板があった。アーグラ行きは9のよう。


 で、何が難しいかと言うとまず改札がない。だからチケットの確認がないのだ。車内で確認するのかよくわからないが多分入り放題。ひじょうに雑だ。そして自分がどの車両に乗れば良いのかもわからない。チケットにS9みたいなアルファベット+数字みたいな記載はあるのだが車両の外側には書いていないのだ。しかも車両には「どこそこ行」みたいな表示もない。そもそもチケットも現物はなくホステルのオーナーに渡されたスクショだからほんとに使えるのか、これ。困った。目的の電車はおそらく到着している。困り果てている俺を見てインド人が声をかけてくれる。人身売買にも出されるのではないかと恐れを感じるもそんなことは全然なくてS9はこっちだよと普通に案内してくれた。金もせびらない。君に扇子をあげたい!良いインド人は目付きが悪くない気がする。偏見かも知れないが。あとやっぱりちゃんと良い服を着ている。良い服を着ている詐欺師もいると思うけど。


 列車に乗り自分の席に座っていると金持ちっぽいインド人が声をかけてくる。


 「俺はこの1つ先の駅に住んでるんだ。メディスンのビジネスでバラナシに来てたんだ。スリーパークラスはあまり日本人が乗らないからみんな好奇の目で見てくるけど気にすんなよ!」


 インドの寝台列車はエアコンつきのクラスから虫と一緒にただ寝転がるだけのクラスまで何種類かある。で、一番安いスリーパークラスを選んだのだが、このインド人が良い奴だった。話を盛り上げてくれるし英語の発音も聞き取りやすいし気も遣ってくれるしとてもグッドガイ。途中でヤバめのインド人に絡まれたときは対応をほぼ全てやってくれた。ヤバめというのはよくいる酔っぱらい、あるいはお母さんに「見ちゃダメ」と言われるようなヤバさ。
結婚してんのか、彼女は何人おんねん、童貞かと矢継ぎ早に聞いてくる。しかもやたら英語が聞き取りづらい。


 このヤバいおっさんの対応を全部ナイスインド人がしてくれたのだ。基本的には携帯いじりながら相槌打ってただけだけど。そうなると変なおっさんは構ってくれなくて悲しくなったのか、これだけは聞かせてくれと最後に「その携帯いくらやねん」と俺のスマホの値段を聞いてきた。最後の質問がそれって怪しすぎるやろ。パクる気しかないやん。絶対に値段を言いたくなかったのでベリーチープしか言わないのだが、まあ引き下がらない。しょうがないから日本円で850円、500ルピーくらいと答えると目を丸くして「日本てすげえだ」なんて驚いてた。そんな安いわけないやろアホタレ。


 去り際にインド人紳士が「インドで困ったことがあったらいつでも言うてくれや」
と。あなたには電話かけたいかも!




四〇日目


 旅も1/4ほどを消化。さっさとインドを去りたい。数度の休憩?乗り降りを挟んで到着予定時刻の6時頃、場所を確認するとまだ200キロ手前にいた。出発時間はきっかりだったものの到着はさすがのインドクオリティだ。2時間ほど寝てまた確認するとまだ1ミリも進んでいなかった。


 で11時頃たまたま目が覚めたので確認するとアーグラフォート駅に着いていた。アナウンスなどないので自分で起きて確認しないと目的地を過ぎてしまう。自分が降りて3分後には電車が出発していたので命拾い。というか切符の確認すらなかったのでもはやキセルし放題なんちゃうかこれ。よくわからん。


こんな感じの車内。ベッドには虫の死骸がやたらあったの、上からもなぜかガンガン降ってきた。

 降りてすぐ腹が減っていたので謎の食物を購入。


パイにカレー味のポテトペーストが入っている。味はよくわからないが多分うまい。2ピース20ルピー。

駅前のアーグラ城塞は圧巻。

 で、目的のホステルまで約4キロの行程を歩く。トゥクトゥクは例のごとくガン無視。アーグラは牛はそんなにいないが馬車が大量にある。バラナシよりは汚くない気がする。

 タージ・マハルの真横の近道からホステルへ向かおうとするもチケットがないと通れない道らしく迂回しろと言われる。面倒だが仕方がない。迂回した先でインドについて初めてタバコ屋を発見。ちょうど切れてるし買ってく。
「一箱200二箱なら300だ!」

 と威勢の良いジジイから二箱購入。インド人は酒もタバコもやらないんでしょって聞くと「そんなことねえよ、夜になったら家でガンガンタバコ吸うし酒も飲むやで~」と言ってた。酒もタバコもやらない民族なんて幻なのかもしれない。

「次はどこ行くの、俺はチケットも手配できるぜ」と胡散臭いが面倒だしここで明後日のゴア行のチケットを手に入れさせる。1560ルピー+代行手数料150おまけ10ルピーで1700ルピーを支払う。アーグラ→ゴアは約1000キロ、バラナシ→アーグラの2倍ほどあるのでまあ料金もこんなもんになるのかな。もちろんスリーパークラスを選択。乗車時間は24時間。17時間乗っていただけでバキバキなのに丸一日。しかも遅延を考慮するとと耐えられるだろうか..。

 じじいと1時間ほど会話しホステルに着いたのは13時前。今日はしっかり休んで、明朝タージ・マハルにでも行こうかな。

続く