五日目

 深夜のことです。同室の欧米人がいきなりえづきだしました。
 「オエーッオエーッ」
 ダッシュでトイレへ向かう僕よりも図体のでかい白人女性。

 部屋の大きさは20畳くらいでしょうか。ところ狭しと並べられた2段ベッドは8セットの奴隷船仕様。

 このえづき、まさかノロウイルスか..。数日前に生牡蠣に当たった友人のことが頭を過り、飛沫感染の恐怖に襲われました。

 欧米人女性は30分ほど嘔吐していました。泥酔ならば良いけれど、などと思っていると彼女がユニットバスから出てきて、暫しの静寂が訪れました。午前3時のことです。

 睡魔が再度私を包んだかと思った頃、再びユニットバスに駆け込む足音が聞こえました。今度は別の白人男性です。

 あー、とうとうこれはまずいやつだとストックしてあったマスクを私は装着しました。この男性も暫時ゲロを吐き続けていました。異国の地で体調不良になる彼らの運のなさに同情するより先に、そいつらと同室になった自分自身の数奇な運命を恨んでしまいました。私は卑小です。多くの人からたくさんの愛を受け、育ってきたにもかかわらず人に施しを提供する心は持ち合わせてはいなかったのです。

 欧米人男性の嘔吐終了が先か、それとも僕の入眠が先か、幸いにも安眠爆睡をかまし清々しい朝を迎えました。相変わらず私はピンピンしていて、件の悪夢は杞憂に終わりました。ぽんぽんも痛くならず吐き気もありません。

 チェックアウトを12時に済ませ18時までのホーチミン行きのバスまで暇を潰します。


昼飯はホイアンNo.1と名高い店のバインミー
40,000VND 200円くらい。普通においしい。普通に。でも店毎の違いはいまいちわからん


カフェで時間を潰していると、なんやかんやで時間が経ちバス乗り場へ

 この長距離バスはおよそ1000キロ走り、24時間かけてサイゴンまで行く。例のごとく奴隷船仕様で2段ベッド×30くらい。



六日目

 暫しの睡眠を取っていると朝方4時に大声で起こされる。
 「にゃちゃん!にゃちゃん!」ニャチャンというのはどうやらここの地名らしい。

 突然起こされて当惑しているのも束の間どうやらこのバスは乗り換えシステムということに乗客一同気づく。7時の乗り換えだから3時間は待ちぼうけ。道端で大阪で教員をしているという日本人男性と知り合う。学生時代はやっぱり旅行した方がいいよと誉められる。

 だらだらしていると、ハイエース的なのが来た、メーカーは三菱。5分くらい揺られてバスターミナルに着くが、次の出発は8時との宣告。

わんわんと一時間戯れる

 8時半頃再びホーチミンへ向けバスが走り出した。ここから到着まで11時間半ほどあったが、バスは無限に海沿いを駆け抜け僕は寝ていただけ。

 ダナンよりも大都会、当然奈良県よりも大都会のホーチミン。テンションが上がる。

ベトナムに来てはじめてのコンビニ、ファミリマート

 バスから降ろされた場所から約5キロ離れた場所が今日のホステル。当然歩く。若いから。

 1時間ほどてくてく歩き、マップにピン止めされたところには到着。しかし、そこにあるのは別のホテルと交番。くまったなあとつぶやいていると交番のお兄さんが話しかけてくれる。

お巡りさん「どこへ行きたいの?」
あたし「ハッピーファミリーホステルってとこなんですけど」
お巡りさん「連れてってあげる!」

 なんと優しい!異国の民になんでこんなに優しくなれるんやと涙。原付の後ろに乗せてもらう。

 1分ほどバイクを走らせると入り組んだ路地裏にあるホステルに到着。が、が、が

 そこはホステルではなく明らかに怪しいお店の前でした。中を除くと紫色のライトで照らされ、男性客がお姉さんからマッサージを受けているではないか。

 これは明日自慢できる旅先のトラブルや!
とか思う暇もなく天性のビビりを発揮し身の危険を感じるとともに快楽への逃避からの逃避行動へと僕の身体は脊髄反射した。

 すなわち僕がとった行動とは大声で
「No~~~」と叫びながら大通りへ待避することだった。

 今にも爆発しそうな心臓を押さえながらどの国でも警察は信用ならぬものなんだと、世知辛さに涙する。ホテルに行かないと36時間ぶりのシャワーを浴びられない。再びハイテクノロジー、Googleマップを手に探索を開始するが振り出しに戻った。私が到着したその場所はさっきの交番だった。

 先輩のypさんにあり得ないほど似ている、交番の兄ちゃんがまた話しかけてくれる。

お巡りさん「だからーさっきのとこやねんて。さっきの怪しげな店の隣があんたの泊まるとこやねんて」

 恥ずかしさと自分の猜疑心の深さに心は包まれる。お巡りさんはまた、バイクを出してくれるという。ほんとに優しい人なのに未だに疑念が拭えない。またあの怪しいところに連れていかれるのではないかと。

 これも杞憂に終わる。ほんとに、親切なお巡りさんで怪しげな店の横がホステルだった。36時間ぶりに浴びられたシャワーはお湯も出ず水量も異様に少ない。それでも汗を流せる幸せと人から受けた施しを思い出し涙するのでした。水道水のはずなのに、涙のせいか汗のせいか、心なしか塩味がきつい水だった。

 明日お巡りさんに詫び入れに菓子折り持っていこ。

続く