「息ができない・・・」
扁桃腺を切除するのですから、出血はつきものです。
「血液を飲んではいけない」といわれていたので、喉の奥で止めておきます。
すると、当然ですが、口で呼吸はできなくなります。
通常であれば、鼻で息をすればいいのですが・・・。
先程の手術で鼻にはガーゼという栓がされています。
鼻では呼吸ができないのです。
私は大きな目を開けて、手で口の中を指さします。
かなり大きなジェスチャーで口の中を指しました。
「なにしてるの? 静かにしていないと他の所に傷がついちゃうじゃない」
先生は、ちょっと困ったようにいいました。
それでも私は、口の中を指さします。
なんとか呼吸ができるようにして欲しいからです。
数十秒だとは思いますが、呼吸ができない状態が続きます。
必死に、口の中を指さします。
呼吸ができないのですから、話をすることもできません。
「苦しいの?」
聞かれたので、私はうなずきます。
「静かに呼吸してね」
そういわれてもできないのです。
私は手と首を横に振りました。
そして、鼻を指さします。
ようやく先生も気がついたようです。
「そうか、鼻の手術の後だから、呼吸ができないのか」
私は、大きくうなずきます。
「じゃ、まず、血液を口から出してみて」
看護婦さんが口元に容器を持ってきます。
しかし、喉に麻酔がかかっているため、うまく吐き出せないのです。
仕方なく、自分でその容器を持ち、前屈みになって、血液を出しました。
重力を利用したのです。
そしてようやく話をすることができました。
「先生、息ができません」
そういうのがやっとでした。
「考えてみれば、そうだよな。鼻の手術の後だからな、呼吸できないのは当たり前だね」
先生は穏やかにいいます。
私は、うなずきました。
「じゃあ、こうしよう。吸引しながら、やろう。苦しくなったら、合図して」
私は、うなずきました。
そうして、ちょっと切っては、吸引。切っては吸引。
そのため、手術時間がかなり長くなりました。
唾液もたくさん出てくるので、しょっちゅう、吸引してもらいました。
手術後の先生の話です。
「鼻と喉の手術を同時にやったのは初めてだったけど、いい経験になったよ。二つ同時にすると、呼吸できないから、かなり危険な手術になるんだね。これからは、数日おいてから行うことにするよ。1つ1つは簡単なんだけどね」
だって・・・。
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TAO心理カウンセリング学院