里見香奈女流王位が先勝した第28期女流王位戦五番勝負第2局は、終盤まで
優勢に進めていた後手里見香奈が終盤で詰めを誤り、一瞬にして攻守逆転、
辛抱に辛抱を重ねた先手伊藤沙恵がチャンスをつかみ取ってあわや逆転かと
いうところまで追い込みましたが、終盤の受けには定評のある女流五冠の
最善の受けの前に攻めきれず、今度は入玉目指して先手玉が逃げる番に。
必死で追い詰める里見でしたが寄せきれず、最終的には163手で先手の
伊藤沙恵が1一まで入り込んだ玉を守り切り、九死に一生を得る戦いで
対戦成績を1勝1敗の五分にしました。

先手となった挑戦者伊藤沙恵女流二段、角道を止めて向かい飛車に振ると、
後手里見香奈は石田流三間飛車。先手が8筋の歩を伸ばし、後手が3筋の歩を
延ばすと、両者とも玉が受けに回ります。
後手が早々と3筋を突き、取ると飛車に出られるので銀上げで成った歩を取り、
後手からの歩打ちで銀を下げ、後手が嫌みな歩を残した状態から、銀を繰り出して
いこうとします。

後手としては4四銀と上がっていきたいところですが、先手が角を
目標に
迫ってくるのを避けて1三角とずらせます。先手が角筋を開けたところで、
後手は
予定通り飛車筋を通す銀を上げました。対する先手は銀頭を狙いに歩を
突きだします。一見角でタダ取り出来そうですが、銀を追い返して飛車筋を
止めた後に目障りな3六の歩が払える狙いがあります。
飛車先を止められる前に先に飛車が出る手もありましたが、後手は角で
この歩を取り、予想通りに手順が進みます。

後手は攻めに出た先手4筋の歩をとがめ、歩を突きだし、
飛車も4筋に回します。
先手玉が4筋むき出しなので、とりあえず歩の交換の後、玉の当たりを避けます。
後手は角を戻して総力戦。とりあえず銀頭に歩を貼って止めようとする先手
ですが、後手はこれをかわして銀を前進。このままでは後手の言いなりに
なってしまいそうな状況となりました。

銀の出足を止めようとする先手ですが、後手は先手の金を釣り上げた後、
銀捨てからの角交換からの、飛車金両取りの角の打ち込みで一気に優位を
築きます。
馬を作られると対応できないとふんだ先手は、やむなく飛車との交
換を
選択。後手はノータイムで飛車を先手陣に打ち込み、この時点で
先手の
守り陣は崩壊、収拾つかない状況に追い込まれました。
もっとも攻める後手も持ち駒がないので、すぐには寄せきれない状況では
あります。

先手は攻防の角打ち。後手は持ち駒を増やしに香取り。先手も角の成り込みで
香車を取りますが。後手は馬筋を止める桂馬のはね。これが強烈な罠。
タダの桂馬を取らせてからの香車の田楽刺し。馬が逃げれば金がタダ取り。
さりとて角が手に入れば後手の攻撃が強烈に。
それを承知か、あえてこの順を取って馬が逃げます。

後手はちゃくちゃくと持ち駒を増やしていきます。受けてばかりでは
勝ち目がない先手は、馬当ての桂馬打ちをふさぎながら攻めにも
つながる5四歩と攻防の歩の突きだし。しかし後手は反対側からの桂馬打ち。
馬が逃げれば閉じ込められている竜が暴れることになり、竜を押さえ込み
ながらの逃げでは先手玉正面からの攻撃に耐えきれません。
ほとんどこれで勝負ありでしょう。

最善の場所に馬を逃がす先手ですが、依然駒は落ちているので、拾い集めながら
先手玉を囲んでいこうという後手。先手には後手玉に迫る手段も手番も
まったく見当たりません。
しかし攻めるにはまだまだ駒が足りない後手が駒集めをする間に、先手も
最後の攻撃を試みます。

ここで後手に若干ぬるい手が。竜を生かそうとする手にこだわった結果、
重要な要の攻め駒を奪われることに。手順前後で死にかけていた先手玉が
息を吹き返すことに。
こうなると苦し紛れのと金作りを行った先手に十分チャンスが生まれてきます。
一瞬にして勝敗の行方が見えなくなってしまいました。

後手は眠っていた飛車が前線に飛び出てきて、先手玉の逃げ道阻止に。
これが働けば後手に再び勝ち筋が生まれてきますが、先手はこの間に
後手玉に寄せ筋があるのか必死に考え抜きます。
とうとう詰み筋を発見した先手伊藤沙恵が後手玉に詰めろをかけます。
後手里見香奈の攻めが続かなくなれば先手の逆転勝ちという事態に、
今度は後手が必死に読む番に。

後手は守りに参加していなかった金を寄せて守りを固めて詰めろを消し、
先手の攻撃で持ち駒が増えた分だけ勝ち筋ができたことにより、再度逆転。
今度は先手玉が入玉を目指して必死に逃げますが、攻め駒が少ない中、
ぎりぎりの攻めで入玉を阻止しようとしますが、先手玉はとうとう1一まで来る。
しかし護衛がと金1枚しかない状態で馬・竜に迫られますがこのと金が強力。
どうしても寄せきれない里見。
(素人目には勝ちの手があったように見えたのですが)
ついに入玉した玉を守り切った伊藤沙恵が勝ちを拾いました。