翔くんの手が指先に触れる。
少しだけ横を見上げれば端整な横顔が街灯に浮かぶ。

暖かく厚みのある翔くんの手がオイラの手を包む。
人気のない夜の路。
それも街灯が続く表通りから一本入った路地。
部屋までのホンの100メートル足らずの時間。



終わりそうな時間の銭湯に二人で飛びこんだ。


智の玉砕覚悟の告白、玉砕…とも違うか、ただ自分の過去も想いも知った上でも、翔が友人でいてくれるか確かめたかった。
それすら難しいと思っていた。

それなのに…。

『俺は卑怯で臆病者だったね…。
ちゃんと自分の想いをハッキリと伝えた智くんと違ってさ。』

『勝手に解ってるはずだって思って言葉にしないで、智くんに振られたと思い込んで。。
今夜、智くんが告白してくれてなかったら、ずっと俺は智くんへの想いを封印していたと思う…。』

『ありがとう…智くん…』

熱っぽい視線を翔から受けて、空気の色が変わった。
『うわ~。』ってギュッと目を閉じた途端に肩に翔の手がかかり…。
思わず智は『シャワー!シャワー!』とその腕から逃げ出した。

すると翔は大きな声で笑いながら『銭湯行こうか、間に合うよね!』って。


二人で競争をするように銭湯まで走った。
『ほら!智くん早く早く!』
『無理!!翔くんの方が長湯なんだから、先に入っててよ~!』


前と変わらない翔くんの笑顔があった。
解ってるよ。
両想いの心の準備が出来てないオイラへの翔くんの優しさ。
うん。解ったよ。
翔くんはいつも何時だって、オイラの気持ちに寄り添ってくれる。

今も…前も…きっとコレからも…。



『あと30分で閉めるからね。』
オジサンが脱衣室の掃除を始めながら言う。
翔くんは『ヤバい!』ってタオルで下を隠す事もしないで腕にかけたまま、誰もいない洗い場に入る。
前は並んで座ったのに洗い始めたオイラの背中あわせのシャワーで洗い始めた。

正直、今夜は照れ臭くて、そんなイロイロな事を思った訳じゃないけど、いつにも増して翔くんの裸体は直視出来なくてホッとしたんだ。
翔くんもそうなのかなって…。

…違ったんだね。
風呂から出て着替える時、見えたんだ…。
腕にある半円のアザが…。
胸がギュッと縮んだ。
ソレはきっと俺の噛み傷だ。

…大丈夫、大丈夫だよ…。
頭に翔くんの声が残る…。


着替えの途中でボ~とするオイラを翔くんが『どうしたの?』とでも訊くかのように小首を傾け優しくみる。


「コンビニでスイーツ、買っていこうよ。」
「えぇ?今から食べたら肥るよ?」

「いいじゃん。朝ごはん食べてなかったから平気だし。」


ありがとう…翔くん。

きっと翔くんが望むのは『ゴメンなさい』の謝罪じゃなくて、いつも通りのオイラ。


ありがとう…翔くん。

翔くんがオイラを想ってくれた。
だからオイラは人を信じて想う事を思い出せた。

世間も周りも関係ない。
誰に後ろ指さされても構わない。

オイラは翔くんが好きだ。
男でも女でもない櫻井翔くんが好きなだけ。



「うお!?智くん?」

隠れるようにそっと繋がれた手をオイラは大きく振る。
大好きな子と手を繋ぎ遠足に向かう幼稚園生のように、ブンブンって。
大きく高く!



「ああ!ダメだよ、智くん!
そっちの手まで振ったら!スイーツが~!」

「ハハハハ!」


翔くん…。
もう少しだけ、待っててね。
大人の恋人には直ぐになれそうにないんだ。

恋愛は子供と同じだから。
ゆっくり手を繋いで歩いてね。