僕のお母ちゃんはほとんど写真を撮らない人だった。だから遺影もお母ちゃんが若い時の写真になってしまった。唯一の救いはお母ちゃんのスマホの中に、お母ちゃんが間違えて自撮りしたであろう少し間抜けな顔をしたお母ちゃんの写真とスマホの使い方を聞こうとするお母ちゃんの声が入った動画があったことだ。今その写真と動画は僕のスマホにも亡くなった後に入れた。

でも僕が撮った写真はお母ちゃんが亡くなる2日前に病院が特別な事をしてくれた時に撮った痩せ細ったお母ちゃんの写真だけだ。

お母ちゃんには可愛がっていた犬がいた

お母ちゃんは入院中に会いたがっていた。

それを聞いた病院の癌の緩和ケア担当の先生が本当に特別に犬と会うことを許可してくれた。

当日は病院にある屋上庭園で会う事になった。

お母ちゃんはもう歩けず動くことも出来ないため病棟の看護師さん4名にベットごと連れてきてもらった。

お父ちゃんがお母ちゃんの愛犬を抱き上げベットの上に上がらせて見せると、お母ちゃんは本当に嬉しそうに何度も愛犬を撫でていた。

本当はお母ちゃんの状態から3分ほどだけの予定だったが、看護師さんたちはお母ちゃんが「もういいわ」と言うまでずっと待っていてくれた。

本当にお母ちゃんは嬉しそうだった

その時にお母ちゃんが写真を撮ってくれと言い撮った写真だ。

結局その日愛犬と会ったあとお母ちゃんはずっと寝ており、亡くなる前日の危篤状態になるまでお母ちゃんは激しいせん妄状態になり見せてあげることが出来なかった。

その写真が唯一お母ちゃんが撮ってくれと言った写真だ。