『アカガミ』初出は、「文芸」2015年冬季号です。

 

2030年、少子化傾向は進む一方である。

若者は将来に向けての夢も持てず生きている価値も見いだせず自殺者が激増している。

また、結婚して家庭を持つという願望も恋愛願望もなくなり、異性と交流したいという感情も失われている。

こんな状態が続けば、数十年後には日本が滅亡してしまう。

 

それを防止するために日本政府が施行したのが「アカガミ」という政策だ。

「番い(つがい)」という呼び名の男女ペアで生活し、子供を産むに至り育てるに至る過程を希望するごくわずかな人を集める。

昔の「赤紙」は徴兵の強制招集だったが、「アカガミ」は希望者による応募から始まる。

応募者は極端に少なく、この政策に賛成する立場の者からは絶賛されるが、無関心の若者からは白い目で見られる。

 

応募者は細かい心身の検査を受け、合格者だけが講習会へ進む。

講習会の内容は、もはや一般的知識ではなくなっている「番い」、セックス、妊娠、出産等の講習である。

講習時間終了後、政府による参加者各人のデータ分析によって、最適と思われる「番い」が決められて生活が始まる。

以降、待遇は至れり尽くせりであり、それは本人たちだけでなく家族にまで及ぶのだ。

 

この小説「アカガミ」の主人公は一組の「番い」である。

両者ともにいろいろな葛藤を経て、

また心に潜む疑問を持ちつつ妊娠に至り出産するのだが・・・

 

読み始めのときは、若者の恋愛離れによる少子化警鐘小説かなとも思ったのだけれど、

読後感では、それも含むけれど、

今の政治、“国民の知らないところでは何が行われているか分からない”

・・・これも暗示しているような気もした。