人間動物園-2、3から続く

 

4 2013年07月23日19時38分22秒

 

僕は、動物園の檻の中で生まれ、今の20歳になるまで、ここに暮らしている。

 

だから、外の世界なんていう観念なんかあるはずがなかった。

 

だって、行ったこともないし、見たこともないし、聞いたこともないから、

そんなことを思うきっかけとなるものがなかった。

 

僕たちは檻の中で、特には、何不自由なく生活している。

 

与えられたエサを食いたいときに食い、眠くなったら寝ていいし・・・

ただ暇すぎて、つまらないということはある。

 

ただ、言われたことを聞かないと、殴られたり、飯抜きにされるから、言うことを聞く。

 

僕たちは、そんな日常生活を、僕たちのごく普通の人生として受けとめていた。

受けとめていたと言うか、そこまでの考えすらもない。

何を考えることもなく、日々を送っていたわけだ。

 

ある日、隣の檻に、僕よりはずっと年上のオスが、住むようになった。

檻の鉄柵ごしに、なにやら僕に話しかけてくる。

僕は、全然、分からない。

 

そいつは、上を指差して、”そら”と言った。

ここをぐるっと指差して、”おり”と言った。

自分を指差して、”おれ”と言い、僕を指差して、”おまえ”と言った。

初めて、聞く口からの音だった。

 

5 2013年07月24日17時06分51秒

 

これは、これからの長い時間を経て、だんだんと分かってくることなのだが・・・

 

隣の檻に、来た僕よりはずっと年上のオスは、

牛豚部落の近くの森の中で、ホームレスという生活を送っていた人だった。

 

自然に生息する動植物を食べて、生きながらえていたのだが、

食料不足のために、ある日、牛豚部落に下りてきたところを捕獲されてしまったそうだ。

 

こういう場合は、多くは食肉用として、養人場に送られるのだが、

年齢が高いため、不味かろうということで、動物園に送られたそうだ。

 

僕は、今まで、檻の外の世界に、

僕たちのような動物がいることも、

ホームレスという生活があることも、

僕たちが食肉用として飼われている養人場なるものがあることも、

何もかも知らなかった。

 

 

年上のオスから、鉄格子を隔てて、いろいろ教わるまで、言葉すら知らなかった。

 

僕は、20歳と先に書いたが、

それも年上のオスから、そのくらいの年齢だろうと言われただけにすぎない。

 

僕の檻には、たぶん僕と同年齢くらいのメスがいる。

僕が、物心がついたころには一緒にいたと思う。

好きも嫌いもないけれど、同じ動物として連帯感のようなものはある。

 

鉄格子を隔ててはいるが、隣の檻の「おれ」とも、だんだん仲良くなり、

いろいろ教わることとなっていく。