陽が落ちた公園は、

岸壁沿いの通路に等間隔で街灯があるがけっこう暗かった。

岸壁の太い手摺りに寄りかかるようにして海を眺める。

さっき船内を見学した氷川丸には、きれいに灯がともり、

遠くには船の灯りや岸辺に立つ建物の灯りが赤く見える。

もう、家族連れは帰ってしまい、

賑やかだった山下公園にいるのは恋人たちばかりだ。

 

   

 

僕たちは、広い通路沿いに海に向かって並んでいるベンチに腰かけた。

「きれいだね!」

「夢みたい。遠くの灯りを見ているとなぜか懐かしいような気持になるなぁ」

「何でなんだろうね、霧笛もそういう気持ちを駆り立てるよね」

「そうよね・・・2月終わりには卒業式だから、ちょうど、あと3ヵ月だわ、早いなあ」

「あと、たったの3ヵ月か・・・僕たちはどうなるんだろ、

由美子さんは大学生で、僕は高校生だ。大学に入ったら僕とは終わりかもね」

「また、そういうことを言う・・・私たち、始まったばっかりで、きょうは初デートですよ」

“・・・ですよ”彼女の癖だな、語尾が上がる。

 

「そうなんだけど、やっぱり気になるよ」

「どうなるんでしょうね、山中くん次第だと思う、きっと」

「なんかさあ、きょうが初デートとか思えないんだよね」

「そりゃあそうです、私は何カ月も電波送ってるもん」

由美子さんは笑いながら言った。

 

「そうだ、由美子さんのこと、ゆみちゃんって呼んでいい?」

「いいわよ、じゃあ、山中くんのことは和人だから、かっちゃんでどう?」

「うん、それでいいよ、ゆみちゃん」

僕たちは、見つめあい手を取りあった。

 

「ゆみちゃんのこと、好きだよ」

「かっちゃんのこと、ずっと前から好きだったから、私の勝ちね」

僕は、ゆみちゃんの肩を抱き寄せて、目を見つめた。

胸がときめく。

今までで最高にときめくよ。

肩の手が後ろ頭に移り、優しく抱き寄せ自然な流れで唇を合わせた。

彼女の頭をそっと抱きながらしばらくそのまま・・・髪のいい匂いがする。

 

唇を離したあと彼女は照れくさそうな顔をしたあと、

いつものように左の口角を上げ少し首を傾げて優しく微笑んだ。

 

「ゆみちゃん、1年遅れになっても、頑張ってゆみちゃんと同じ大学行くよ」

「ありがと、私だって受かるかどうかは分からないわ、でも待ってる」

 

朝だけ5分の“見つめあう恋”では寂しいので毎朝、ラブレターではなく、

ラブノートの交換をすることにした。

 

今から帰ると、9時ごろになってしまう。

朝から出かけている娘が9時になっても帰ってこないと親が心配するだろうからと、

公衆電話から家に電話させた。

帰りは、山下公園沿いの大通りから、横浜行きのバスに乗った。

 

 (横浜行きバスは反対車線です)

 

僕は、絶対に彼女を離すまいと思った。

 

 

※画像は、ネット内の画像集から借用させて頂きました。