裕也は、個別建築の計画をやりたかったのに、配属先は都市計画部門だったことに、ただでさえ意欲減退状況だった気持ちがさらに落ち込んだ。
しかし、そんな風に思うならば、最初から教授に勧められるがままに、土木建築設計会社に入らず、建築設計事務所に行くべきだったのだ。それをしなかったのは、いくら祐子のことで落ち込んでいたからと言ってももう仕方のないことだ。

配属先は、都市計画部地域計画課ということで決定、課内で紹介後、翌日には大会議室において、全社員を前にした新入社員紹介という場があった。
都市計画部、建築計画部、土木設計部、積算部、施工管理部、総務部、新入社員は全体で25人ほどいた。各新人が、前に出て、氏名、出身学校、配属先などの自己紹介をするわけである。

裕也は、服装にこだわるタイプで、当日は、ブラックスーツにワイシャツは最近はめったに見られないピンホール付のタブカラー、そこにシルバーのネクタイといういわゆる並ではない服装でクールに挨拶した。やる気がないためクールに見えるだけのことなのだが、180cmを超える長身でもあったためか、新人の中ではやたら目立った。
あとで知ったことなのだが、もはやこの時点で、以前、森村祐子が心配していたことが、現実味を帯びていた。女子社員の注目の的となっていたそうだ。

都市計画部地域計画課は、課長以下10名で、他にCAD(パソコンによる作図)専門のバイトや、その他雑務のバイト、10人くらいの若い女性陣がいた。
仕事がらなのか社風なのか、課風なのか分からないが、課員は、裕也から見ると皆それぞれ変わった人たちばかりだと思ったが、彼らから見ると、裕也はさらに変わった人種に見えたらしい。

新人全体としての社内研修はなく、3ヶ月間だけ部内研修ということで、自社で行った再開発設計や発展途上国での街づくりの設計図書を眺めつつ、ときには先輩社員の下仕事をしたりしながら、基礎知識を植え付けていく日々を裕也は送った。

元々、人当たりはいい裕也なので、新人、先輩ともすぐ打ち解け、新入社員歓迎会のときから2次会、3次会につきあい、最後は先輩社員の1LDKのマンションで宿泊させてもらい、翌日は二人そろって大幅遅刻などということをやっていた。
3ヶ月が過ぎると、取締役部長の子飼いだったこともあり、まだ構想段階ではあるがひとつのプロジェクトの担当者にされ、部長直々の特訓が始まった。