私鉄の駅前で祐子に待っていてもらい、そこから二人で祐子の家に向かった。広い通りに面し、大きな木でできた昔風の門の家だった。普段はメインの出入り口は閉めてあって、脇の人間用の出入り口から出入りするような門構えである。まるで数十年以上前のお屋敷のような感じで、今どきこの手の門は来る者を拒んでいる感を覚える。門を入ると敷地は広いが、樹木や色とりどりの花などはほとんどなく、目に入るのは玄関に続く踏み石だけだった。
建物は階高の高い大きな昔風の日本建築で、あとから二世帯住宅に改造したらしいことが、外から見て分かる造りだった。見るからに頑丈そうな建物だ。

広い玄関に入り、祐子は大きな声でただいまと言った。
さ、上がってと裕也を促し、玄関のすぐ脇の応接室に裕也を案内し、ちょっと待ってねと言い、奥へ行った。
応接室は、10畳くらいの広さで中央に重厚な感じのする一枚板のローテーブルと一人掛けソファ二つとロングソファが置いてあり、床には絨毯が敷いてある。壁際にはピアノとサイドボードが置かれてある。そして、天井からは、部屋の雰囲気とはまるでミスマッチなシャンデリアが下がっていた。

すぐに、人の気配がし、祐子と不機嫌そうな顔をした両親が入ってきた。
裕也は姿勢を正し、挨拶をしようとしたが、父親は素知らぬ風に、ロングソファの方へ座れと手で示した。向かいに祐子の両親が座り、裕也の隣に祐子が座る。
祐子の両親が、二人の交際について良くは思っていないことは前から祐子から聞かされていたので、両親の不機嫌は、承知の上のことだった。
裕也は、落ち着いて言った。
「祐子さんがお勤めの大学の3年の西野裕也と申します。祐子さんとおつきあいさせて頂いておりますのでご挨拶にお伺いしました」

父親は、表情を変えることもなく言う。
「それで、今日の用件は何だね?私は出かけなければならないので手短に頼む」
実際、父親は、糖尿病が悪化して数年前から慢性腎不全で人工透析を受けている。
「お忙しいところ申し訳ありません。僕はあと1年半くらいで卒業します。必ず一流企業に入り仕事に邁進するつもりでおります。今でこそ学生ですが、社会人になったあかつきには、必ずのし上がるつもりです。卒業したら祐子さんと結婚させて頂きたくお願いにあがりました」

「祐子は、もう23才で君のようには若くはない。君が今、一流企業の有望な社員としてバリバリやっているというのならば考えないこともない。しかし、失礼ながら願望だけの今の君に祐子を託すと言える親がいると思うかね?しかも、君が卒業したら、すぐに祐子は25才だよ。君がその時点でどうなっているのか分からないのに、何の保証もないのに、はい、分かりましたと言える親がいるわけないよな」

裕也は、予想はしてはいたが、返す言葉に窮した。
そして、言われた。「いいも悪いも、今はない」
老人と言える祐子の両親は席を立った。

しょんぼりする祐子には微笑みを送り、予想通りだったんだからいいじゃんと言い、二人で家を出た。