一日、ワンシーンの切取で、一頁小説を書こうとしています。
今日で三日目、いつまで続くか分かりませんが、すべてのシーンを書き終えた時点で一つの小説に出来たらいいなとう願望があります。
一昨日からのものを含め、主人公は最後まで西野裕也です。
・・・今日は、ガラリとシーンが変わります。




希望ではなかった大学に入学して2年目、好きで入ったわけではなかったが、ここしか合格しなかったのだから自分が悪い。
西野裕也は自尊心が強い。望まない大学だったなら、なおさらのことトップクラスにならなければ自分はだめになると思い、遊びもバイトもしたけれど、勉強は真面目にやり、授業はすべて出席し、単位取得数も成績もトップクラスに浮上していた。

秋の終わり、冬に近い時期にこの大学は、大学祭をやる。JRの駅に近く、大きな樹木が鬱蒼と生い茂る構内は歴史を匂わせ、枯葉が落ちてくる季節である。
その大学祭の最終日の夕方、裕也の今後を左右する出会いがあった。男子学生が多い大学であったが茶道部もあり、そこがやっている喫茶の模擬店でコーヒーを飲んでいたときのことだ。出会いと言うより、裕也が一方的に見ただけであるが・・・
同じクラスの男子学生と、入口のところで言葉を交わしている女性に目が留まった。
ダークグリーンの細身のコートを着て帰るところだった。ほりの深い顔立ちで、女優で言えば、米倉涼子或いは山田優を20代初めに戻した感じといったところか・・・一瞬で心が熱くなり、一目惚れした。

その女性が姿を消した後、裕也は茶道部の同級生にさりげなく聞いた。
「今の女の人は、クラブ交流している女子大の人?」
「違うよ、見たことなかった?うちらの大学の図書館で司書やってる人だよ、あの人も茶道をやっているの」
裕也は知らなかった。図書館はよく行くけれども、本を借りることはほとんどなく、授業間で空いてしまった時間に自習室直行だったため、入り口から少し奥まったところにあるカウンターへは、ほとんど行っていなかったのだ。

やると決めたら即行タイプの裕也は帰宅し、家族と夕飯を食べ終わると明日の準備にかかった。明日、図書館のカウンターに行き、手紙を渡すのである。
『昨日の夕方、茶道部の模擬店であなたの存在に気づきました。こんなにそばにいたのにこれまで気がつかなかったのが不思議です。唐突ですが一目惚れです。おつきあいをお願いしたくて、この手紙を書きました。メールで返事をもらえたら幸いです』
そして、氏名、学科、学生番号、メールアドレスを書添え、手渡す手紙の完成である。

翌日、午前中に図書館に向かう。
カウンターに二人の女性が座っている。目指す彼女は左側。
前に立ち、こんにちはと言った。彼女はえっと驚く表情をする。
裕也は、昨日、あなたを見ましたと言い、これを読んで下さいと言いながら手紙を渡す。隣の女性がなにごとかと見ていたが、そんなことは気にしない。
では、またと言い裕也はその場を離れた。