⑦より



 二週間後、病院へ行き、薬の効きが非常に良いことを告げた。

ただ、自分はウツの症状は感じていないことも言った。

医師は、自分では気がついていなくても、実はうつ状態で、

今のような感覚が起こることもあると言った。


 僕は、自分の病名を知りたくて、聞いたところ、

あえて言うならば、

自律神経失調症といったところかな、というあいまいな返事である。


自律神経失調症という病名はないそうだ。

体の諸々の機能、及びそのバランスをうまく調整してくれるのが、

自律神経なのだが、

何らかの原因によって、その調整がうまくいかなくなると、

精神的、肉体的に普通の状態ではない異常が出てくる。

その異常な状態を総称して、自律神経失調症というそうだ。


 医師が言うには、僕の場合は、仕事のし過ぎ、常に締切に追われ、

長時間の緊張によるストレスの蓄積が自律神経に支障を与え、

その結果が、

脳の閉塞感や、視覚的異常感という症状であるとのことである。

薬の効果はいいようなので、同じ薬を続けることになった。


 上司には、病院で言われたことをそのまま話し、

仕事の割当を減らしてもらい、毎日、定時で帰れるようにしてもらった。


ちなみに、僕の仕事は土木の設計であり、

設計という仕事は、一見、小奇麗な職種に思えるが、

それはとんでもない間違いである。


常に時間との勝負であり、徹夜や夜中仕事は当たり前、

場合によっては、ヤクザもどきの住民との折衝ごともある非常に泥臭い職種である。


 毎日、定時で帰れるようになって、3ヶ月もすると、体調は、ほぼ元通りになった。

自分の仕事に係わっていた人たちに、迷惑をかけていたお詫びや、

そろそろ復帰するからよろしくの旨の社内メールを送った。

これが、失敗の元になってしまった。

一挙に仕事が増える傾向が始まった。


 数日後、夜の9時からの社内打合せへの参加要請を受けた。

夜の9時からの打合せ・・・設計会社では、ごく普通にあることだ。

仕方なく出席したのだが、その仕事は、

常識的には不可能に近いスケジュールの急ぎの仕事だった。


 打合せの途中から、急に以前の脳を締め付けるような閉塞感が始まった。

そして、相手の声が遠くから聞こえてくる感じ、

またも以前のような透明な厚いカーテンが出現してしまった。


さらには、相手の言うことに対し、反応することが出来なくなってしまった。

脳に入ろうとする情報を脳が入れまいとして拒むのだ。

つまり、考えることが出来なくなってしまった。

僕は、体調の急変を理由にその場を退席した。



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