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瑞枝のメインの仕事は、プレゼンテーションのビジュアル化の促進であるが、それは常時必要とされる仕事ではないので、本業が暇のときは設計補助的な仕事もやってもらっている。

設計は当然出来ないがCADは使えるので、ちょこっとした修正や、計画書の下書きをワードで作成してもらうとかの仕事もやってもらっている。

何よりも助かるのは、残業や徹夜仕事にもつきあってくれることだ。

だから、チームリーダーの佐々木が会社とかけあい、時給を上げてることや、勤務時間が長いこともあり、瑞枝の月収は税込ではあるが、月平均で35万円ほどある。

したがって一人暮らしのアルバイトでも、首都圏の駅から近い1DKではあるが、マンションに住めるわけである。



 大型建築物の場合、法律的に諸々の制約が課せられる。

今日は、その確認のために、僕が役所回りに行くことになっていた。

瑞枝は、特に今すぐやるべき仕事がないので、打合せメモ係として僕に同行してもらうことにした。

・・・というか、そうなるように佐々木に仕向けたのだった。

瑞枝とさりげなく目でうなずきあって、会社を出た。



 まずは、敷地の所在地の区役所に出向き、計画概要を説明して回るべき役所各課、各部署を教えてもらい、出来るところは即日協議した。

その結果、建築関係の申請の他に、埋蔵文化財の調査申請と、開発行為許可申請が必要なことが分かった。

今まで工場が建っていた跡地なのだから、そんなことは不要であると思いがちであるが、昔の建物は往々にして法的にはいいかげんなまま出来上がってしまいそのまま放置されていたというケースが非常に多い。

今回の敷地も、現況的に敷地内に道路の片鱗すらもないのだが、公図では、区道が敷地内に存在している。

区道の上に建物を建てられるわけがないので、これは廃止手続きが必要である。

となると、”区画形質の変更”ということになってしまい、開発許可申請許可が必要になってしまうというわけである。

また、埋蔵文化財がありそうなエリア図というのがあり、このエリアに入っていると事前調査以来申請をして、調査してもらい工事OKの結果を得なければならない。

万が一、何か出たら、計画はどうなるか分からないという危険をはらんでいるわけだ。



 誰もが知るように日本の国土は狭く、しかも建物を建てられるような土地は国土の中のごくわずかである。

そのためもあり、今や、不動産会社が設計会社に持ち込んでくる物件の殆どが何かしらの問題を含む土地ばかりである。

その他、近隣への影響等の制約も多く、何の問題もなく大型建築物を建築出来る土地はないに等しい。



 途中、昼休み時間は役所の食堂で、瑞枝とプライベートタイムを持つことが出来た。

二人でワンコインランチを食べた。

メンチカツとマカロニサラダ、生野菜と味噌汁、お新香は取り放題である。

「お疲れ様!やっとプライベートタイムだね」

「ふふ、そうね・・でも、ここ役所だよ」

「まったくだ、しかも、このプロジェクト、かなり面倒そうで、マジの徹夜が多くなりそう。今日も無理だし、瑞枝のとこ、なかなか行けなくなるかも・・・」

「しかたないわ、だって、わたしたちは不倫の関係だもの」

「そんな言い方するなよ」

・・・とは言うもののそれ以外のなにものでもない。



 その日に回れる部署は、すべて回り終えたあと、会社に戻らねばならない時間がまだ2時間ほどあった。

僕たちは、「ご休憩」に入ってしまった。

部屋に入り、二人きりになった途端、瑞枝を抱きしめた。

たまらなく愛おしかった。

瑞枝もそれに応え、狂おしいキスを続けた。

汗ばんだ身体であるが、シャワーを浴びるわけにはいかないので、僕たちは汗のにおいがする身体を貪るように求め合った。

瑞枝の可愛く狂おしい芽を舌で慈しみ、瑞枝は僕を口にふくんでくれた。

もはや、止めることの出来ない動物のように、ベッドで転がりながら愛しあった。

「まだ、9日目だよ。僕たちどうなってしまうんだろう」

瑞枝は答えた。

「分からない・・・」



(22)へ続きます。