春祭のワーグナー「トリスタンとイゾルデ」。コロナ時に企画されたが、そのときは公演がキャンセルになり、春祭としては初めてのトリスタン。これで、春祭としてツィクルス完成。しかし、前回の公演はアンドレアス・シャーガーがトリスタンだったので、流れてしまったのは残念。しかし、ラトルの公演でよく歌っているスチュアート・スケルトンがすごかった。この歌手はグールドの喪失感を埋めてくれるかもしれないと感じさせるすごい歌手だった。

 

ヤノフスキは相変わらず快速。そして爆音。ワーグナーのオーケストラをあますことなく堪能した。今回のコンマスはキュッヒルではなく、メトロポリタン歌劇場のコンマス。3管編成のオケは壮観だった。N響もさすがでった。しかし、オペラとしてみると、歌手の声が聞こえないレベルで大音量。歌手陣はかなりよいにもかかわらず、歌の醍醐味は半減してしまう。男性陣は声量が大きい人も多く、聞こえていたが、イゾルデは出番が多いだけにかなり脳内補完せざるえなかった。

 

2幕の後半あたりから、テンポを落とし、弱音で甘い世界を演出。このあたりから緩急がでてきて、トリスタンの世界にひきこまれた。ただ、今まで聞いてきたヤノフスキのワーグナーで、快速でうねりがないのは慣れていたが、トリスタンは1番相性が悪いのかもしれない。やはり、物語が単調なだけに、トリスタン独特な陶酔感のようなものが、少なかったように思う。

 

N響は見事な演奏。さすが。3幕はコールアングレで池田さんが見事なソロを。バンダか多いなで、ステージでやるとバランスは悪い。

 

歌手は男性が3人が白眉。特にスケルトンはグールドを彷彿させる歌。これから要チェック。アイヒェもさすが。クルヴェナールは楽譜みながらだが、3幕とか素晴らしかった。そしてマルケ。サルミネンを彷彿させるような深くて良い声。堂々としたマルケ像を演じていた。この3人はオケにかき消されないのも驚異的。というかこのクラスでないとかき消されるのは、さすがにヤノフスキならしすぎだと思う。

 

しかし、日本のオペラはなぜかぶるときはこうもかぶるのだろうか。まあトリスタンを1ヶ月に5回聴くなんて体験はバイロイトやベルリンでないとできない体験。色々細かい感想を回ているが、自分がもっとも好きなオペラ。実は聴けるだけで満足な作品。ワーグナーは本当に奇跡的な作品を作ってくれたと思う。