上岡・新日本フィルのマチネー公演に続いて、春祭のブッフビンターの公演に。ベートーヴェンツィクルスの初日。プログラムは初期から中期作品から。

 

 ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調 op.2-1 
 ピアノ・ソナタ 第10番 ト長調 op.14-2 
 ピアノ・ソナタ 第13番 変ホ長調 op.27-1 
 ピアノ・ソナタ 第4番 変ホ長調 op.7 
 ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》 

 

ブッフビンダーの実演は初めて。前半の初期作品は流麗で勢いあるベートーヴェン。若いベートーヴェンはやはり、音楽の喜びがあふれでる。13番が中期にさしかかるところでもあり、やはり前半の白眉か。途中、馬に乗り駆け出し、そのまま天に昇るような印象。ブッフビンダーは案外、情熱的と感じた。ピアノの音色はさすが。細かい音の粒がキラキラと飛んでくる。

 

後半は月光が素晴らしい。まさに波にゆられた月明かりが目に浮かぶ。息をのむ静寂。そして、進むにつれて、馬車が愛する人に向かう焦りを表現するような情景が。しかし、響きはとにかく美しい。一流のピアニストは指1本で鍵盤を抑え方を変化させ、表現しているのだろう。様々な音から骨格となる旋律をしっかり浮き彫りにしてくる。

 

途中から演奏でなく、ベートーヴェンの素晴らしさに想いを馳せていた。月光は手垢にまみれた感があるが、ブッフビンダーによって、素晴らしさをまた再認識させてくれた。中庸な中に力強さがあるピアニストで一気にファンに。しかし、体を微動だにせず、手だけであれだけ多彩な表現できるのはまさに巨匠の至芸のなせる技か。みていて、水鳥のようだった。

 

終演後は中野のベトナム料理「ビアホイチョップ」に。