「これは事件だ」

 

ジョン・アダムズが自作自演で都響を振る。今年の目玉ではないかというほど期待していた公演。ミニマル音楽でありながら、ロマン派のような音楽でもあるジョン・アダムズはかなり気になっていた作曲家。メトロポリタン・オペラで「ニクソン・イン・チャイナ」とかのオペラも、音楽がなかなか面白かった。ミニマル・ミュージックは聴いてみると癖になるところがあり、バッハを聴いているような感覚に陥る。最近、実演あれば接しようと考えている。

 

1曲目は2019年に作曲したばかりの「I Still Dance」日本初演。エレキベースや和太鼓が入る大編成の曲。冒頭からミニマルらしい音楽の洗礼を浴びる。エネルギッシュな曲であり、ジョン・アダムズの世界に引き込まれる。ジョン・アダムスの風貌は哲学者のよう。しかし、自分の曲をしっかり指揮していた。音源が見当たらなかったので実演で初めて聴いた。

 

2曲目は「Absolute jest」。弦楽四重奏をソリストにしてオーケストラと演奏するという変わった形式。そして実際にベートーヴェンの弦楽四重奏や交響曲のモチーフが使われている。そのせいか、シェーンベルクがブラームスのピアノ四重奏をオーケストラにしたような印象。聴いたことがあるモチーフをベースにジョン・アダムズの音楽が構築されている。この曲は本当に興味深かった。とにかく聴いていて引き込まれた。ロマン派のようなミニマル・ミュージック。そして、今回の共演したエスメカルテットはジョン・アダムス自身がYoutubeで聴いて気に入りオファーしたようだが、たしかにうまかった。アンコールも現代音楽を演奏していたが、これも聴きごたえがあった。

 

3曲目は「HARMONIELEHRE」ハルモニレーレ(和声学)という曲。1984年のジョン・アダムズの代表曲。パンフレットの解説が面白い。現代音楽家にとってはシェーンベルクというのがひとつの規範となっている。ジョン・アダムズにとってはシェーンベルクの12音階音楽の響きを嫌っていたらしい。そして、それらが現代音楽離れを引き起こしたと。しかしシェーンベルクを批判することは難しいので、パロディという形でこの曲を書いたらしい。

 

そのためか、後期ロマン派(特にワーグナー、マーラー)の香りが感じられる曲であった。曲は3部構成。1部「第1楽章」は逆アーチ型形式の音楽。最初と最後がエネルギッシュで中間が憧憬とのこと。自分の夢を音楽にしたらしい。サンフランシスコ湾の水面から巨大タンカーが飛び立ちロケットのように上空へ突き進む。たしかに、そのようなビジョンが見えるような音楽だった。2部「アンフォルタスの傷」。タイトルからワーグナーのパルジファルを意識していると思われる。実際パルジファル前奏曲のような音楽だった。そして3部「マイスター・エックハルトとクエッキー」。娘が生まれた頃の夢だそう。娘のクエッキーが神秘主義者のエックハルトの肩にのり星に浮かんでいる夢から着想しているとのこと。2部の暗さと代わり、3部は華やかな雰囲気の曲。

 

本当に充実したコンサートであった。まず都響に感謝。ジョン・アダムズは日本で指揮するのが初めてのようだが、長年にわたり交渉していたらしい。そして、この意欲的なプログラムで、実演を体験できて本当によかった。そして、どれも難曲だと思うが、都響のメンバーが本当に素晴らしい音楽を作ってくれていた。ジョン・アダムズもまともに弾けないオケが世界にある中、都響は素晴らしいとコメントを出していた。また、次の機会があることを期待したい。オペラもみてみたいところ。