ヴァイオリニストであるコパチンスカヤが歌いながら演奏するリゲティの秘密。リゲティ生誕100周年である今年に意欲的なプログラム。やはりこういうのはライブで体験するのにつきる。当たり外れがあるとは思っていたが、これがまさかの大当たり。クラシックのコンサートとは思えない、盛り上げ上手のコパチンスカヤ劇場に完全に心をもっていかれた。バイオリニストというより素晴らしい表現者であり、フロントマンであった。
1曲目はリゲティの「虹」。もとはピアノのための練習曲のようだが、小編成のオーケストラで演奏。深い眠りにつくようなトリップ感。目がまわるような音楽。世界の謎に触れるかんじ。リゲティの世界にひきこまれた。ちなみに、虹の副題は後付らしい。虹を表現したものではないみたい。
2曲目。リゲティのヴァイオリン協奏曲。コパチンスカヤのヴァイオリン。リゲティというと2001年宇宙の旅を思い出すが、この曲は聴いていてその映画を追体験するような感覚に襲われた。冒頭ノイズで、別世界につれていかれる。その後、宇宙を旅し、最後モノリスの中の世界の神秘にふれ、慌てて逃げるよう。コパチンスカヤのバイオリンはやはり素晴らしかった。
ここでアンコールにリゲティ「バラードとダンス」。退団される四方さんとのデュエットという形だが、これがまたよかった。
3曲目はバルトーク「中国の不思議な役人」。全曲版らしく、合唱つき。コパンチスカヤに影響されたか大野さん会心の出来のように感じた。すごい臨場感で不気味な中国の役人が音楽で提示。初めてこの曲を面白く感じた。ホラー映画のような不気味さがひしひしと伝わってくる。音楽から物語がまさに見える。シュトラウスとはまた違う形で、劇を音楽化している。バルトーク、オペラ作ってくれたら、ホラーオペラとか新たなジャンルを作ってくれそうなのに、オペラがないのが残念。
4曲目はリゲティ「マカーブルの秘密」。コパチンスカヤの真骨頂であり、この日の印象をすべてもっていってしまった。オケの団員が登場から、新聞を持っているからなにかあるなと思っていたら、コパチンスカヤ自身がゴミ(を表現したビニール)と新聞をまといながら登場。顔はピエロのペイント。そして、ぶつぶつ文句をいいながら舞台を歩き回る。そう、まさに落ちているものをひろおうとする浮浪者。そして、冒頭はコパチンスカヤの指揮でスタート。途中で大野さん登場して指揮交代。要は単なるクラシックコンサートではなく、ちょっとした演劇であった。
マカーブルの秘密の物語は、架空の場所を部隊に、地獄からやってきた預言者が彗星が ぶつかって世界が滅びると予言。しかし誰もまともにとりあわず、皆が自分の欲望に従って行動するもの。マカーブルの秘密の最後にセリフのような歌が入る。これは、秘密警察が意味不明な言葉を連呼するのを表しているとのこと。これをコパチンスカヤが歌う。
コパチンスカヤは、秘密警察をまじめに演じたわけではなさそう。聖愚者になり、世界の先を予言していた狂人を演じたような気がする。途中、大野さんが、指揮を投げ出すように、観客に向かって「もう耐えられない。」とセリフを言う。世界が滅びることに気づいた大衆の代表のセリフかもしれない。が、「WBSの栗山監督助けて」というセリフは時代性が強すぎて違和感があった。
終わってみると一本の映画をみていたようなプログラム。アカデミー賞をとったエブエブなどもマルチバースでいろいろな世界を主人公が体験していたが、そのようなごった煮の世界観。最初に眠らさせられててトリップさせられ、宇宙旅行を体験し、次に死なない不思議な役人に怯え、最後、世界がほろびると狂言をいう預言者がさわぐ。なんとも現代的で面白い公演だったと思う。
コパチンスカヤはバイオリニストの枠をはるかに超えた人だと感じた。ちょうど、デビットボウイの映画をみたばかりだったが、かなり似ている。バイオリンだけでなく、全身を使って表現をしてくる。彼女の魂をぶつけられたような。
実際、都響もかなりノリノリで楽しそうに演奏してたのが印象的。最後の曲はオケ団員も新聞をくしゃくしゃにした音をだしたり、笑い声をたてたり、叫んだり大忙し。しかし、笑顔がたえない。リゲティは神経症のような弱音が続き、演奏たのしそうではないはずなのに、とにかく楽しそうにみえた。全員が劇場の登場人物を演じたからかもしれない。
充実した公演。翌日も行きたいところだったが春祭のムーティ様なのであきらめ。コバンチスカヤは今後も追っかけ決定。