前回記事の続きです↓

 

 

私は一つ提案してみた。

 

「他の選択肢はどうですか?まず病気を治すとか働くとか・・・。」

 

綾子ちゃんもお母さんも困惑した顔をしている。

 

でも、私は言わないといけない。

 

私は綾子ちゃんの方へ、体を寄せて傷だらけの腕をつかんだ。

 

「綾子ちゃん、痛かったでしょう?もういいよ、いいから。ちょっと休もう。おばちゃんわかってるから。まず身体治そう。その身体と心でね、仮に次の春で大学に入っても3学年下の子たちとキャンパスライフを送るのはしんどいよ。まず、ボロボロになっちゃった綾子ちゃんを治そう。病院行こう、ね?」

 

私は綾子ちゃんの手を取って、ゆっくりと撫でながら言った。

 

悲しかった。21歳の一番楽しい時に美しい時に、綾子ちゃんは真っ暗な家の中で自分を痛めつけている。涙が溢れてきたけれど、我慢した。

 

綾子ちゃんは大きな声で泣き出した。

 

「そんなのわかってるよ!うるせえ!うわーん!」

 

そうだよね、そうだよね、つらかったね、と言いながら私は綾子ちゃんの背中をさすり続けた。

 

「でも、絶対に病院は行かない!」

 

え?この展開でそれ?と思いながら、私は畳みかける説得した。

 

「どうせ、精神科医に不信感あるんでしょ?それ、あるあるだから。私の経験上だけど、お医者さんもプライド高いからね、いちげんさんにすぐにいい顔しないよ。でも、先生が全く合わなかったら仕方ないけど、騙されたと思って何度か通ってみて。そうするとね、先生も(あ、この子、本気で良くなりたい子だな)って変わってくるから。綾子ちゃん、上手にやろうよ。」

 

振り返ると綾子ちゃんのお母さんが泣いている。

 

その後、綾子ちゃんは精神科に行くと約束してくれた。

 

でも、これで終わりじゃない。たぶん綾子ちゃんは、夜、暴れるだろう。

3年ひきこもった後だ。私に自分の恥を見られたし、神経は張り巡らされ、興奮状態になるだろうな。

 

綾子ちゃんのお母さんに夜に暴れるかもしれないとLINEをした。

 

と思っていたら、やっぱりだ。

夜中にスマホが鳴り響いた。出ると綾子ちゃんのお父さんだった。

お父さんは恐縮した様子で

「すみません、こんな遅くに、やっぱり綾子が病院は行かないと言ってまして、申し訳ないのですが、今日来ていただいたのに。高田さんに電話しろって綾子が騒いでまして。」

 

「いや、いいですよ。気にしないでください。また病院は行きたくなったら行けばいいんですし。」

 

私は、電話を切った。ついでに電源も切った。念のため、固定電話も電話線を抜いておいた。家族の安眠を守るためだ。そして、綾子ちゃん、残念だが、我が家はマンションでオートロックだ。侵入はできない。でも、あれだな、綾子ちゃんのパワーではマンションまでくることはできないなとあれこれ考えていると、夫が話しかけてきた。

 

「なあ、電話何だった?中村さんだろ?どうしたの?」

 

私ははっきりと答えた。

「これがね、ひきこもりの現実だよ。綾子ちゃんの現実だよ。だから、ひきこもり支援なんてするもんじゃない。モンスターが暴れるのが怖くてイエスマンになっちゃってる可哀そうな親だよ。しかも、絶対自分では電話かけてこない。」

 

嫌な気持ちで寝た。明日の朝、LINE確認したらめっちゃメッセージ入ってたらやだなと思って寝たら、朝、めっちゃメッセージが入っていた。朝から気分悪いわ~。思っていたより、綾子ちゃんの状況は悪いかも。

 

 

 

 

中村さん(仮名)には許可を得て掲載しています。実話ですが個人が特定されない範囲で脚色しています。

 

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