今日は、第11回1級キャリアコンサルティング技能検定実技(論述)試験事例2選択問題において、キャリアコンサルタントが相談者Aの発言に対して、どのように応答したのか振り返り、適切な応答とは何かを引き続き考えます。

 

相談者Bを、新書式に基づいて、相談者Aとして考えます。

 

キャリアコンサルタントが、

(そうですか。ご主人の転勤先は遠いですか、週末には戻ってこられる感じでしょうか。) 

と質問したことに対して、

 

相談者Aは、

「転勤先は、片道 3 時間以上は掛かりそうなので、毎週はきついかも…、夫の体も心配です。支店の立ち上げが軌道に乗るまでと言われているらしく、3 年間は赴任先での勤務になるようです。今までも保育園の送り迎えとかは主に私がやってはいますが、実際に転勤となると、仕事を続けられるかもそうですが、子ども達のことも考えると一緒に転勤先にいった方がいいのか、とも思います。夫は『単身赴任でいくから、僕のことは心配しないで、お母さんにも手伝ってもらうように言っておくから』と言ってはくれますが…。」 

と答えています。

 

それに対して、キャリアコンサルタントは、

(一緒に転勤先にいく方がいいかも、とも考えていらっしゃる。)

と応答していますが、このキャリアコンサルタントの応答は適切でしょうか。  

        

このキャリアコンサルタントの応答は、以下の理由から、適切とは言えません。

 

相談者Aは、夫の転勤に伴う選択に対して大きな葛藤を感じています。

 

「子ども達のことも考えると一緒に転勤先にいった方がいいのか」という発言には、キャリアと家族とのバランスをどう取るべきかについての深い不安が含まれています。

 

しかし、キャリアコンサルタントはその不安や葛藤に十分な共感を示さずに、発言内容を単純に繰り返しただけです。

 

相談者Aは、今後のキャリアや家族の生活について具体的にどうすべきか迷っています。

 

キャリアコンサルタントは、相談者が選択肢を整理し、意思決定を行うためのサポートを提供するべきです。

 

たとえば、

(転勤先に同行する選択肢について、どのような利点や不安を感じていますか?一緒に整理してみましょう)

といった具体的な質問やサポートを提案することで、相談者の悩みを深掘りすることができます。

 

キャリアコンサルタントの(一緒に転勤先にいく方がいいかも、とも考えていらっしゃる)という応答は、相談者の言葉をそのまま繰り返しているだけで、新たな視点や深掘りに繋がっていません。

 

相談者が本当に考えている問題やその背景を探るためには、もう一歩踏み込んだ応答が必要です。

 

良い応答例としては、

(一緒に転勤先に行くという選択肢について、今どんなことが一番心配ですか?それぞれの選択肢に対してどのような影響があるか、一緒に考えてみましょう。)

と、このように、相談者の感情に寄り添いながら、選択肢を整理し意思決定をサポートする姿勢を示すことが重要です。

 

次には、相談者Aは、

「はい、でも今の会社は、私以外にも子育てしながら働いている女性もいます。それに優秀な人が多いので、自分のキャリアを高めるのにはよい環境だと思います。子育ても仕事もしっかりやりたいし、キャリアアップもしたいと思っています。両立させるのは難しいのでしょうか。」 

と答えており、キャリアアップもしたいが、両立もしたいということを伝えています。

 

それに対して、キャリアコンサルタントは、

(ご自分のキャリアを考えると辞めたくない、でも両立も難しいと感じているのですね。) 

と、辞めたくないという気持ちを受け止めていますが、このキャリアコンサルタントの応答は適切でしょうか。   

                                   

このキャリアコンサルタントの応答は不十分であり、改善が必要です。

以下に理由を示します。

 

相談者Aが感じている「キャリアを高めたい」という強い意欲と「仕事と子育ての両立の難しさ」に対して、キャリアコンサルタントはその発言を繰り返すだけで、共感は示していますが、具体的なサポートやアドバイスに繋がる応答が欠けています。

 

相談者は両立が難しいと感じている中で、キャリアアップも諦めたくないというジレンマを抱えています。

 

この状況に対して、キャリアコンサルタントは具体的な対策や支援の提案を行うべきです。

 

「どうすれば両立が可能か」という方向性を一緒に探ることが重要です。

 

相談者のキャリアに対する意欲や、両立の難しさに対する感情をさらに深掘りすることで、より具体的なニーズや解決策を見つけることができたはずです。

 

より良い応答例は、

(キャリアアップへの強い意欲と、両立の難しさの間で迷われているのですね。具体的に、どの部分が両立を難しく感じさせていますか?また、キャリアを高めるために会社でどのようなサポートが得られそうですか?一緒に考えてみましょう。)

と、このように、相談者の感じている課題を具体的に探り、解決策やサポートの可能性を一緒に考える姿勢が、より有効なサポートに繋がります。

 

それから、面談記録が最後の方に進んでいくと、相談者Aは、

「復帰直後、先輩から『両立するには、手伝ってくれる環境が整っていないと』とか、『仕事もそうだし家事や育児も全部ひとりで抱えない方がいい、完璧にやろうなんて思わない方がいいわよ!』とも言われたことがありました。私は、完璧主義でもないです…。でも今後マネージャー試験を受けることができるのか微妙な心境になっています。」 

と、過去の出来事を振り返り、何かを伝えようとしています。

 

それについて、キャリアコンサルタントは、

(仕事と家庭の両立、そしてマネージャー試験のことも悩んでいるのですね。でもご自分のキャリアも諦めたくないのでしたら、3年間はワンオペ育児で頑張るしかないように思いますが…。今一度、ご自分が優先したいと思っていることに順位づけして整理されてはいかがでしょうか。)

と応答しており、ワンオペ育児を持ち出しています。

 

そのことから、相談者Aは、

 「ワンオペしかないですかね…。そうですね、優先したいことをよく考えてみます。」

という、応答のやり取りになり、面談経過が終わっています。

 

 このキャリアコンサルタントの応答は適切だと思いますか。

 

このキャリアコンサルタントの応答は、いくつかの点で適切でないと考えられます。

以下に理由を考えます。

 

キャリアコンサルタントは、相談者が置かれている状況について十分に考慮せず、「ワンオペ育児で頑張るしかない」という方向に話を進めています。

 

この応答は、相談者にとって選択肢が限られているように感じさせ、圧力をかける可能性があります。

 

相談者が自分で結論を出す時間と空間を与えることが重要です。

 

相談者が抱えている悩みは非常に複雑で、仕事、育児、そしてキャリアアップのすべてが絡み合っています。

 

キャリアコンサルタントは、まず相談者の感情に寄り添い、Aが何を感じているのか、どんなサポートが必要なのかを理解する姿勢を見せるべきです。

 

キャリアコンサルタントは、相談者が置かれている状況を整理し、優先順位をつけることを提案していますが、その際に相談者に対する具体的な支援策や選択肢を提供していません。

 

例えば、マネージャー試験に向けた支援策や、育児サポートの活用方法など、具体的なアドバイスを提供することが求められます。

 

では、キャリアコンサルタントの応答を改善してみます。

 

(マネージャー試験に向けての不安や、仕事と家庭の両立の悩みが重なって、今はとても迷われている状況ですね。まずは、ご自身がどのような生活やキャリアを理想としているのかをもう少し深掘りしてみましょう。そして、その上で、どんなサポートが必要か、一緒に考えていきましょう。ワンオペ育児以外にも、例えばご両親のサポートを受ける方法や、職場の支援制度の活用など、色々な可能性を探っていきたいと思いますが、いかがでしょうか?)

 

と、このような応答は、相談者の悩みに寄り添い、同時に具体的な支援策を提示することで、相談者が自分の選択肢を広げる手助けをします。

 

ところで、相談者Aが先輩の完璧主義のアドバイスをなぜ自己開示したのでしょうか。

 

相談者Aが先輩の「完璧主義にこだわらない方がいい」というアドバイスを自己開示した理由は、次のような要因が考えられます。

 

先輩のアドバイスを共有することで、相談者Aは自分の内面にある葛藤や悩みを表現しようとしています。

 

相談者Aは、仕事と家庭の両立に対する不安やプレッシャーを感じており、その一部は「完璧主義」という先輩の言葉に関連しています。

 

自己開示することで、キャリアコンサルタントに自分が抱えている悩みをより深く理解してもらいたいという意図があります。

 

先輩からのアドバイスが、相談者Aの現在の選択や行動に影響を与えている可能性があります。

 

そのアドバイスが彼女の現在の行動や思考にどのように影響しているのかを示すことで、相談者Aはキャリアコンサルタントに自分の状況をよりよく理解してもらおうとしています。

 

相談者Aは、先輩のアドバイスを共有することで、キャリアコンサルタントからの共感や、より適切な助言を得たいと考えているかもしれません。

 

先輩のアドバイスに対する自分の反応や感情を伝えることで、キャリアコンサルタントが自分にとって最も有効なサポートを提供してくれることを期待しています。

 

先輩のアドバイスを振り返ることで、相談者Aは自分が何に対して不安を感じているのか、どのような価値観を持っているのかを再確認しようとしている可能性があります。

 

このプロセスを通じて、彼女は自分自身の考えや感じ方を整理し、今後の選択に役立てようとしているのです。

 

このように、相談者Aが先輩のアドバイスを自己開示することには、彼女の内面的な葛藤を表現し、キャリアコンサルタントに自分の悩みを理解してもらいたいという意図があると考えられます。

 

そのような、相談者Aに対して、キャリアコンサルタントは、何故、突然にワンオペ育児を提案したのでしょうか。

 

それは、以下のような点があるかもしれません。

 

キャリアコンサルタントが相談者Aの家庭状況や支援体制について十分に把握していないため、表面的な解決策として「ワンオペ育児」を提案した可能性があります。

 

相談者Aの夫が単身赴任になることで、必然的に相談者が一人で育児を担うことになると考え、これを前提に話を進めたのかもしれません。

 

相談者Aの状況は、夫の転勤や育児、キャリアアップの意欲などが絡み合っており、非常に複雑です。

 

キャリアコンサルタントがその複雑さを十分に理解しないまま、急いで解決策を提示しようとした結果、適切ではない提案に繋がった可能性があります。

 

キャリアコンサルタントが、相談者Aの主たる不安を「夫がいなくなることで一人で育児を行わなければならない点」と捉え、その不安に対応しようとした結果、「ワンオペ育児」という提案に繋がった可能性があります。

 

しかし、相談者Aはむしろ「仕事と育児の両立」や「キャリア形成」に関心があり、そのニーズを見誤った可能性があります。

 

「ワンオペ育児」の提案は、他の選択肢や支援策を十分に検討せず、短絡的に解決策を提示した結果とも考えられます。

 

本来であれば、テレワークの活用や外部のサポート、会社内の制度利用など、複数の選択肢を検討するべきだったでしょう。

 

このように、キャリアコンサルタントが相談者のニーズや状況を十分に理解しないまま、一つの解決策に飛びついてしまった結果、「ワンオペ育児」を提案したのではないかと考えられます。

 

(続く)