今回は、第11回1級キャリアコンサルティング技能検定実技(論述)試験事例1必須問題問1の解答例の続きを考えてみます。
前回、「相談者視点」と「事例相談者視点」で、解答例を考えてみました。
「相談者視点の解答例」
日本の新卒採用市場での就職難と留学ビザの問題で悩んでいる。Aは日本での就職を希望しており、これまでの新卒採用活動での失敗に不安を抱えている。留学ビザの有効期限が迫っており、それまでに就職が決まらなければ日本での滞在が困難になる可能性があり焦りもある。
「事例相談者視点の解答例」
日本の新卒採用市場での年齢と経験不足からくる就職難、留学ビザの期限が迫ることによる焦り、大手企業への強い拘りや中途採用枠への切替ができないことが内定獲得を難しくしている。さらに、Aの採用面接での意思疎通の不十分さとして、就職の意図や希望の正確さを欠いている。
(その2)では、事例指導者視点での解答を考えてみます。
受検者の皆さんが勤務している職場の職業相談の窓口で、相談者から次のように悩みを打ち明けられたと想像してください。
「3 月頃からエントリーシートを提出してきましたが、なかなか次のステップに選考が進みません。たまに面接に進んでも、ほとんどが 1 次で不合格となってしまいます。中途採用枠のほうが採用の可能性が高いのでは、と言われたこともあります。日本では、新卒採用で私ぐらいの齢で就職することは難しいのでしょうか。」
この文章には、4つのメッセージが含まれています。
①3 月頃からエントリーシートを提出してきましたが、なかなか次のステップに選考が進みません。
②たまに面接に進んでも、ほとんどが 1 次で不合格となってしまいます。
③中途採用枠のほうが採用の可能性が高いのでは、と言われたこともあります。
④日本では、新卒採用で私ぐらいの齢で就職することは難しいのでしょうか。
キャリアコンサルタントは、相談者Aのこの訴えに応答して、
(確かに、新卒としては難しいかもしれませんね…。)
と、④に焦点を当てています。
確かに、このキャリアコンサルタントは、相談者Aの抱えている問題の一つに焦点を当て、解決しようとしています。
では、このように返答された相談者Aはどのように反応したのでしょうか?
「大手であれば、どんな企業でもいいんです。」
この2つの応答には、共通点が見当たりません。
つまり、意思疎通が行われていないのです。
では、意思疎通を図るとすれば、どのメッセージに焦点を当てたらいいのでしょうか?
この相談者Aの4つのメッセージの中で、相談者Aの苦痛や不安を引き起こしている問題は何でしょう。
例えば、エントリーシートが上手に書けて、面接でも1次を突破できたら、③の中途採用枠や④の新卒採用で年齢のことなどは、問題にはならないのです。
つまり、相談者Aが抱えている本質的な問題は、①のエントリーシートと②の面接のことなのです。
従って、
②「たまに面接に進んでも、ほとんどが1次で不合格となってしまいます。」
このメッセージに焦点を当てることで、以下の点に対応できるようになります。
エントリーシートの内容が面接に進むために十分であるかを確認し、改善する必要があります。
具体的なアドバイスやフィードバックを提供することが重要です。
面接での応答内容やスキルが不足している可能性があるため、模擬面接を実施して具体的なフィードバックを提供します。
特に、日本企業が重視するポイントや質問に対する的確な回答を練習します。
日本の企業の文化やビジネス習慣についての理解を深め、自己PRが日本の基準に合致しているかを確認します。
具体的な事例や成果を基に、自己PRの改善を図ります。
具体的なアプローチとしては、
「面接で1次不合格が多いとのことですが、まずはエントリーシートを見直し、内容の質を高めるためのフィードバックを行いましょう。また、模擬面接を通じて具体的な改善点を明確にし、企業が求めるスキルや適応力を示せるように準備しましょう」
といった形で進めると効果的です。
キャリアコンサルタントが初めに注目をしたのは、中途採用の可能性を示すことが重要だと考え、④の新卒採用の点に焦点を当てる必要があると感じました。
相談者Aの発言から、面接で1次不合格が多い点に焦点を当てることで、具体的な支援策を提示できると考えることが大切です。
エントリーシートや面接スキルの改善が内定獲得に直結するため、この点に注力することが重要だと判断することが求められているのです。
このキャリアコンサルタントは、中途採用枠への切り替えを提案しましたが、具体的なエントリーシートの書き方や面接準備に関する詳細な支援が欠けていました。
これらの具体的な対応策を提供することで、相談者Aの納得感を高められると考えられます。
このように、相談者Aのメッセージの中でどれに焦点を当てるかで、問題の本質に対する理解を深め、より具体的で実践的な支援策を提案することが可能となります。
このような考え方で、事例指導者は事例相談者に関わることで、効果的に働きかけることができます。
つまり、受検者はキャリアコンサルタントとしての実務経験があり、具体的なケースに基づいた洞察力を持っているはずです。
現場での直接的な経験は、問題の本質を理解するのに非常に役立ちます。
受検者は具体的な事例に基づいた実践的な知識を持っており、相談者Aの状況に対する適切なアドバイスを提供できます。
例えば、エントリーシートや面接スキルの改善が重要であることは、現場での経験から得られる知識です。
受検者のフィードバックにより、事例相談者は最初の応答の不足点を明確にすることができます。
このフィードバックを事例相談者が受け入れることで、問題の本質により深く焦点を当てた解答が可能になります。
事例相談者の思考は、相談者Aの否定的な側面である新卒採用に焦点を当て、アプローチを提供することが多いです。
しかし、相談者Aのメッセージの中の肯定的な側面である1次に進むことがあるという点に注目して、事例指導者の具体的な指摘により、事例相談者が柔軟に対応し、より具体的な解決策を提供することができるのです。
事例相談者は相談者Aの状況に共感し、問題の深層にある感情や動機を理解しなければなりません。
この理解は、効果的なアドバイスを提供するために重要です。
従って、受検者のキャリアコンサルタントとしての実務経験と具体的な知識が、相談者Aの問題に対してより実践的で効果的なアドバイスを提供する上で重要な役割を果たします。
事例相談者の思考と受検者の経験が組み合わさることで、より深い理解と具体的な解決策が得られると考えます。
問1の解答からは、少し外れましたので、元に戻します。
外国人留学生が就職活動で一番障害になるのが日本語によるコミュニケーションの問題です。
これが、問題作成者が考えているこの事例の中心的なテーマになっています。
事例相談者Bは、面談経過では、
「日本語検定 1 級を取得しているとのことだったし、面談でも会話はスムーズだったので意思疎通はできていると思っていたが、今思うと模擬面接をして確認しておけばよかったと後悔している。」
と言い、所感では、
「今となっては、面談で意思疎通ができていたのか自信がもてない。外国人留学生の支援について、どのように行えばよかったのか、指導を受けたい。」
と言っており、相談者Aの問題は日本語での会話能力だということを示唆しています。
この事例相談者視点と相談者Aのメッセージにあるエントリーシートと面接の相談者視点の問題を結び付ければ、共通の問題に焦点を当てることが可能になります。
また、相談者Aは、
「学内の留学生センターにも相談に行ったのですが、やはり同じようなことを言われました。日本の大学は、留学生に対してのサポートが不十分だと感じています。外国人雇用サービスセンターというところも紹介されたのですが、そこに行けば就職出来るのでしょうか。」
と言っており、日本の大学の留学生に対してのサポートが不十分だということに、強い不満を抱えているのです。
この不満が何を意味しているかというと、留学生支援センターでも事例相談者Bが勤務しているキャリアセンターでも、
(中途採用なら、何とかなるかもしれませんが…。)
と言われたことが原因になっていますが、「留学生に対してのサポートが不十分」が具体的には何を指しているのかが明確ではありません。
例えば、中途採用に対する助言ではなく、エントリーシトや面接での就職支援のことだとしたら、どうでしょうか。
事例相談者Bが後悔している(模擬面接をして確認しておけば)(意思疎通に自信が持てない)という悩みと、相談者Aの真の問題と通じることがあるのではないでしょうか?
つまり、企業が相談者Aにエントリーシートや面接で行う質問、
「5年後、10年後の自分は何をしたいですか」
に対して、事例相談者Bが危惧している
(数年企業で働いたら辞めて、起業したいというお考え)
(それでは、企業側も採用しにくいのかもしれませんね)
という考え方による面接での相談者Aの答え方の不十分な点と符合するのではないでしょうか。
事例相談者Bが、相談者Aとの対話で感じた、
(日本語検定 1 級を取得しているとのことだったし、面談でも会話はスムーズだったので意思疎通はできていると思っていた)
という事例相談者Bの先入観が、この面談で相談者Aをさらに不安にしたのではないかと考えます。
では、以上のことから、以下の問1に答えます。
問1 相談者Aが訴えた「問題」は何か、記述せよ。
留学生に対する日本の大学の就職支援が不十分であることに加え、日本語検定1級を取得しているにもかかわらず、会話能力の不足により、Aの意図や希望が企業には十分に理解されず内定を得られていない。つまり、数年で起業するつもりはないのに、誤解が内定を得られない原因になっている可能性があり、面接における応答に不安を抱えている。
今回は、多角的に多面的に客観的な観点から、このような解答例を考えました。
(続く)