昨日に続き、第12回1級CC論述試験事例1必須問題の問4についての解答を考えます。

 

前回までに、問1、問2、問3の問題を、以下の通り記述しました。

 

問1 相談者が訴えた「問題」は何か、記述せよ。(10点)

 

Aはテレワークの働き方と家族との時間を大切にしたい思いもあり、ワークライフバランスに調和が取れないことから、今後のキャリア形成に迷いがある。「昇格することへ魅力を感じていない」「八方塞がりになってしまう」「突破口がない」など、昇格という現実から逃避することで、自立的な意思決定ができなくなっている。

 

問2 あなたが考える見立てに基づき、相談者Aが「問題」を解決するために取り組む

前回に続き、第12回論述試験事例1必須問題問4についての捉え方を述べていきます。

Aは、「このペースが続くと正直しんどい」との思いがあり、仕事と生活との境界を設けることができず、メンタル不調も抱えていることから、テレワークが続く限り、当面の問題として仕事の場所と生活空間を分けることでストレスを軽減する必要がある。今後の働き方として、「家族を養う必要がある」「教育費で先の不安もある」ことから、子ども達の成長と長女の自立の期間を考えて、自らのキャリア形成とライフスタイルの両面から、60歳定年までのキャリアパスを構築することが重要である。そのためには、魅力を失くしている昇格を含めた、キャリアアンカーの再構築に取り組むべきである。

 

問3 相談者Aを支援するために必要なネットワークは何か。相談者Aの置かれた環境への働きかけについて関係機関や関係者との連携も考慮し、記述せよ。(20点)

 

①専門セミナーや研修の受講、専門書や文献の活用が必要である。Aの中年期の危機に対する発達課題に対応するため、キャリアコンサルタント自身が専門セミナーや研修に参加し、最新の知識やスキルを習得する。また、その問題に関する専門書や文献を参照し、Aの状況に適したキャリア開発や形成の支援方法を学ぶ。②ファイナンシャルプランナーとの連携が必要である。教育費や生活費の見直し、将来的な独立を視野に入れたライフプランを立てるために、Aが直接、資金管理の専門家との相談が有益である。家族の経済的な不安を軽減し、BはAが安心してキャリアを考える基盤を提供する。これらのネットワークを活用し、Aが抱える問題に対して多角的で効果的な支援を提供し、持続可能な解決策を見出すことができると考える。

 

設問は下記の第13回論述試験の問4の内容を用いて考えていきます。

 

問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。(25点)

 

では、事例を用いて、事例相談者Bの相談者Aへの応答を振り返ります。

 

「今まで育児は妻に任せっきりでしたので、これからは家族との時間を大切にしたいと思っています。」 

 

(テレワークになって過ごし方にも変化があったことで、ご家族との時間を大切にしたいという思いが強くなってきたのですね。)

 

「ええ、そうなんです。」

 

BはAの訴えた発言をそのまま受け止めて、そのまま伝え返ししていますから、次のAの発言も気持ちの相違がないことを認めています。

 

次の応答は、「それはそれで大変です。休日に仕事をするときも結構あります。」

 

 (休日もお仕事をやらなくてはならないほど、お忙しいのですね。)

 

「ええ、しかも会社は働き方改革の推進をしているので、部下の残業時間管理も強く言われています。」で、この応答も相互理解ができています。

 

次は、「部下も多忙なので、頼んでいる業務がオーバーフローすれば、最後は私の責任になるので、結局自分がやっています。」

 

 (部下のオーバーフロー分の業務は引き取らなくてはならない状況なのですね。A さんご自身 の残業時間は大丈夫ですか。)

 

ここまでの応答は、オーム返し的な応答ですが、特別に問題視する応答はありません。

 

次の、 「家族と過ごす時間が増えたのはいいことだけど、このペースが続くのはしんどいと思っています。」 

 

(例えばご自身の作業時間を削減することができる部分など考えたことはありますか。)

 

この事例相談者Bの応答には問題があります。

 

Aは「しんどい」ということで、「ひどく疲れを感じているし、面倒が多いさま」を訴えており、肉体的・精神的に負担を感じ、その負担が長く続くのは嫌だと感じられるさまを表現していて、心身状態が不全であることを表明しているのです。

 

この言葉は、関西地方の方言で、体に重い荷物がのしかかっているかのようにだるいし、疲れて体が動かしにくいので、くたびれたという感じではないでしょうか。

 

このようなAに、Bは以上のように応答して、Aの抱えている問題を解決する方向で(作業時間を削減する)質問をしています。

 

この対応は、Aの現在抱えている真の問題の一面を理解していますが、一方で、Aの心労を受け止めていないのです。

 

つまり、Aは心の柔軟性を失い、精神的に不健康な状態にあり、自分がどのような行動を起こしたらいいのか気づくことができなくなっているのです。

 

それで、AはBの質問に応じて自分の作業時間を減らすとともに、部下の残業時間にまで問題がおよび、これまで対策として考えていた増員ということに話が進み、上層部の人員削減の考えが語られ、反対されていて苦労していることが語られるのです。

 

それが、次の応答で、 「むしろ上層部は、現在の顧客の利益率が低いので、人員削減を検討した方がよいという考えのようだし、安易に増員はできないです。」

 

 (それはお辛いですね。)と、Bは返答してAの心情を理解しているようです。

 

しかし、結果的にAが業務を抱え込み管理職としての責任やしわ寄せの実態に焦点を当てており、Aの「このペースが続くのはしんどい」という感じ方に焦点を当て、その言葉の持つ意味を深めようとしていませんので、「今、ここ」での問題が明確になっていません。

 

Aは、年齢が44歳になっている肉体的な疲れと、営業部長と家長という責任の重さから精神的な辛さや厳しさを感じているのです。

 

その精神的な辛さや厳しさという感情には、家長の役割から家族を大切にしたい思いがあるが、それを重要視すると、仕事の時間を削減しないといけなくなるので、営業部長の立場から、仕事に支障を及ぼすことはできないと考えているのです。

 

このような状態のAに対して、これをどのように変えたいのか、変えることができるのかなどの質問をして、Aの抱えている問題を共有して、面談を進めていくことが大切なのです。

 

その結果、家族を大切にしたい思いを受容的・共感的に理解して、信頼関係が構築できるのです。

 

これまでの前半の現在の相談者Aの問題に対する事例相談者Bの対応の問題をまとめます。

 

Aが業務を抱え込み管理職としての責任やしわ寄せの実態に焦点を当てており、Aの「このペースが続くのはしんどい」から、家族を大切にしたい思いや今後のキャリアに対する不安や悩みへの受容的態度や共感的理解に欠け、関係構築が不十分と思われる。

 

それから、面談経過は将来の問題に進んでいきます。

 

 「妻は専業主婦なので家族を養う必要もあります。現在の給与は割とよい方だと思いますが、教育費などを考えると先の不安もあります。」と、

 

養育費と教育費の不安があることを話しています。

 

「いずれは、自分で独立してやっていこうという考えもなくはないですが、現在の給与水準を維持し家族を養うためにも、直ぐに会社を辞めるという気持ちはありません。八方塞がりになっています。」から、

 

独立すること、給与を維持すること、会社を辞めることに対する対策を考えている様子がうかがえますが、何の解決策も考えられずに「八方塞がり」という状態に陥っているのです。

 

ここでの対応も、Bは、Aの「八方塞がり」という言葉の意味を深める関りができていません。

 

それで、次のように返答しています。

 

 (なるほど、現状の中でご家族との時間を確保しつつ、今の会社は辞めずに続けていきたいと思っているのですね。でも独立された方が時間は有効に使えるし、一人で仕事が出来る方が自由ですよね。) 

 

Bは、Aの家族と時間を大切にしたいという思いを表面的には受け止めているような見方もできますが、家族との時間が子供の成長につれて、どのように変化していくかを深められていませんから、Aの家族との時間の真の問題がどこにあるのかを明確化することが必要なのです。

 

また、会社を辞めずに続けていきたい思っていることを理解しているというような見方もできますが、会社で続けていくためにはどのように行動すべきかということに焦点を当て、どのようにしたら「八方塞がり」を打開できるか、戦略を講じることが大切なのです。

 

それで、Bが独立を推奨したことに、Aは次のように発言しています。

 

「ええ、そうですね。今は以前のように昇格することに魅力を感じていませんが、しかし辞めるとなるととても迷います。なにか突破口がないかと思うのですが…。」

 

このAの発言で、面談経過の応答は終了していますので、この事例内容から、相談者と事例相談者の抱えている問題を明確にすることが必要です。

 

以上から、Aは、会社に残ってどのような目標に向かって続けるのか、また、会社を辞めて独立するためにはどのような要件を満たさなければならないのかなど、具体的なキャリア形成に関するAの抱えている複数の問題や課題に対する不安や悩みを受容して、共感的に理解することで信頼関係を深めることが大切です。

 

それで、Bは所感で(このあとの支援をどのように進めればよいのかわからないので、指導を受けたい)と言っていますから、所感から、事例相談者Bの抱えている問題をについて考えます。

 

Bは、所感で以下の通り、記録しています。

 

①Aさんは責任感がとても強いと感じた。

 

②働き方改革の影響で部下の残業時間の管理が強化されているため、作業が終わらないものは Aさんが対応しており、シワ寄せが管理職にきている実態も把握できた。

 

③テレワークを活用し家族との時間も大切にしたいという思いは聞けたと思っている。

 

④八方塞がりだという今の状況を打開するために Aさん自身ができることはない、ということであれば独立した方がいいとも思うが、このあとの支援をどのように進めればよいのかわからないので、指導を受けたい。

 

この中で①と②については、A自身が「部長職としての責務を果たすことはきちんとやりつつ」と発言していますし、Bも部下のオーバーフロー分についても、自分が引き取らなくてはならない状況なのですということから、問題となるところはありません。

 

③については、(ご家族との時間を大切にしたいという思いが強くなってきたのですね)とか、(ご家族との時間を確保しつつ)などと返答していますから、この思いは聞けていると思われます。

 

④については、Aさんの「できることはない」という発言を切り取って、「独立」された方が時間は有効に使えるという見方から、一人で仕事ができる方が自由ですよねというBの考えに同意を求めて共有しようとしています。

 

Bは、Aの「八方塞がり」を打開するために独立という選択肢を選んだのですが、Aにとっては、独立をするためには、会社を辞めることになるので、辞めるということに悩んでいるAの不安を、さらに不安を掻き立てることになるのです。

 

また、Aは、「今は以前のように昇格することに魅力を感じていません」という認識を持っていることを、敢えて言葉にしてBに伝えていることから、次の「辞めるとなるととても迷います」という言葉につなげていますから、会社で昇格する選択肢に魅力がないことを強調しつつ、辞めることにも躊躇していることを訴えているのです。

 

さらに、「突破口」がないと言うことで、「八方塞がり」の状態をBに理解してもらう目的と、それに自問自答することで、本当に「突破口」がないのか再認識する目的があったのではないでしょうか。

 

それで、昇格することを「突破口」とすると、家族との時間を確保できないという過去の失敗体験を思い出し、その思いを打ち消そうとした発言ではないかと考えます。

 

でも、昇格するという選択肢にも諦めきれない思いもあるのです。

 

しかし、Bから独立する選択を提案されたことから、自分の都合のいいように、どちらともとれるような「なにか突破口がないかと思うのですが…。」と含みを残した発言をしているのです。

 

Bの「独立」の提案は、「八方塞がり」「突破口がない」という現状について、家族との時間を優先させた場合には、その選択がAにとっては効果的に思えるのです。

 

でも、Aが、その「独立」を選択しようとしても、その後のキャリア形成やライフスタイルを明確にできていないので、Aはそれを行動に移すことを促すことにはつながらないのです。

 

従って、Aは自分の方向性として、昇格を目指して会社での仕事を続けるのか、辞めて独立を目指すのか、二つの選択肢について決断ができない状態なのです。

 

当然として、事例相談者BのAの自立的な意思決定を促がせていないことは明白です。

 

将来のキャリア形成に悩む相談者Aへの、事例相談者Bの対応の問題と抱えている問題は以下の通りです。

 

「Aさん自身ができることはない」から、八方塞がりを打開するために独立の助言をしたことで、さらに突破口がないという不安を掻き立て、昇格することに魅力を感じていない自己認識を助長させ、合理化する状況を提供している。Aの現状を解決する支援に目を向けているため、将来に対するキャリアビジョンに注目することが欠けており、A自身の行動変容を促がすためには、A自らの自立的な意思決定を支援することが必要である。

 

これで、前半の現在に関する問題点と後半の将来に対する問題点が、明確にできましたので、二つを統合すると以下の解答になります。

 

問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。(25点)

 

Aが業務を抱え込み管理職としての責任やしわ寄せの実態に焦点を当てており、Aの「このペースが続くのはしんどい」から、家族を大切にしたい思いや今後のキャリアに対する不安や悩みへの受容的態度や共感的理解に欠け、関係構築が不十分と思われる。「Aさん自身ができることはない」から、八方塞がりを打開するために独立の助言をしたことで、さらに突破口がないという不安を掻き立て、昇格することに魅力を感じていない自己認識を助長させ、合理化する状況を提供している。Aの現状を解決する支援に目を向けているため、将来に対するキャリアビジョンに注目することが欠けており、A自身の行動変容を促がせていないため、A自らの自立的な意思決定を支援することが必要である。

 

以上で、問4への解答を終わります。

 

次回は、問5についての解答例を考えます。

 

(続く)