昨日に続き、第12回1級CC論述試験事例1必須問題の問3についての解答を考えます。

 

前回までに、問1と問2の問題を、以下の通り記述しました。

 

問1 相談者が訴えた「問題」は何か、記述せよ。(10点)

 

Aはテレワークの働き方と家族との時間を大切にしたい思いもあり、ワークライフバランスに調和が取れないことから、今後のキャリア形成に迷いがある。「昇格することへ魅力を感じていない」「八方塞がりになってしまう」「突破口がない」など、昇格という現実から逃避することで、自立的な意思決定ができなくなっている。

 

問2 あなたが考える見立てに基づき、相談者Aが「問題」を解決するために取り組むべきことは何か、記述せよ。(20点)

 

Aは、「このペースが続くと正直しんどい」との思いがあり、仕事と生活との境界を設けることができず、メンタル不調も抱えていることから、テレワークが続く限り、当面の問題として仕事の場所と生活空間を分けることでストレスを軽減する必要がある。今後の働き方として、「家族を養う必要がある」「教育費で先の不安もある」ことから、子ども達の成長と長女の自立の期間を考えて、自らのキャリア形成とライフスタイルの両面から、60歳定年までのキャリアパスを構築することが重要である。そのためには、魅力を失くしている昇格を含めた、キャリアアンカーの再構築に取り組むべきである。

 

今回は、次の問3の設問の解答を考えます。

 

問3 相談者Aを支援するために必要なネットワークは何か。相談者Aの置かれた環境への働きかけについて関係機関や関係者との連携も考慮し、記述せよ。(20点)

 

では、事例相談者Bのネットワークに働きかけると共に、それがどのように相談者Aの環境への働きかけとなるかを考えます。

 

事例相談者Bのネットワークとは、企業分野領域に所属するキャリアコンサルタントであれば、対象となるのは相談者Aが勤務する会社に働きかけることが、相談者の環境ということになるのでしょう。

 

例えば、相談者Aを支援するために必要なネットワークとして、会社内部のリソースとの連携を考えると

 

人事部門が考えられます。働き方改革の推進や業務効率化のサポートを得るために、事例相談者Bが人事部門と連携する。例えば、Aさんの負担を減らすために業務プロセスの見直しや、リモートワークのさらなる活用を提案する。

 

管理職のサポートでは、他の管理職との情報共有や協力体制を構築し、Aさんの業務負担軽減を図る。BがAさんの上司と定期的に連絡を取り、Aさんの現状やニーズを伝える。

 

でも、この事例相談者Bは、相談者Aに独立を推奨しているから、企業分野のキャリアコンサルタントと特定することは、考えにくいと思います。

 

事例相談者Bが、教育機関分野のキャリアコンサルタントであれば、対象となるのは相談者Aが在籍する大学やキャリアセンターに働きかければ、それが学生の相談者の環境への働きかけになりますが、これは、この事例ではあり得ません。

 

では、事例相談者Bが、需給調整機関分野のキャリアコンサルタントであれば、対象となる関係機関や関係者にどのように働きかければ、相談者Aの環境への働きかけになるのでしょうか。

 

需給調整機関分野には、事例相談者Bのネットワークとしてハローワーク、民間の職業相談や就職支援機関、派遣会社などが考えられますが、その関係機関や関係者を相談者Aの環境として、どのようなつながりを持たせることができるかが、具体的な働きかけとなります。

 

ここで、相談者Aは、企業の在職者か失業している求職者ですから、事例相談者のネットワーク環境の中には、相談者Aは存在していません。

 

つまり、事例相談者Bの環境と相談者Aの環境には、直接的に何が同じ環境となり得るのかを見出すことが困難です。

 

では、事例相談者Bの環境と相談者Aの環境が、間接的に同じ環境と考えられるものを関係機関や関係者として見出せるでしょうか。

 

例えば、相談者Aは44歳という年齢ですから、現在の会社の中では営業部長職にあるので中間管理職という立場にあります。

 

また、家庭の中では、家庭人、父親、配偶者という役割があり、妻や子供と生活を営む上では、人生の中年期にあたるわけです。

 

つまり、仕事では中間管理職、家庭生活では中年期としての悩みを抱えているのです。

 

また、両者の環境を物理的に、事例相談者Bの所属団体と相談者Aの勤務する会社を同じ環境とすることは不可能です。

 

しかし、事例相談者Bの経験や能力、知識やスキルを活かして、相談者Aの思考・感情・行動に論理的に働きかけることは可能です。

 

具体的には、相談者Aが中間管理職として抱えている問題は、家族との生活を加味して考えると中年期の自身の今後のキャリア形成とライフプランの問題です。

 

この相談者Aは、仕事と家庭のワークライフバランスの調整がとれず、将来の働き方を見直そうとしていますが、会社の中での「突破口」を考えずに、会社を辞めて「独立」するという「非現実的」な思考をしています。

 

例えば、若い時から出世を目指して頑張ってきた会社員が、管理職になったとたん会社と部下との板挟みに直面して、精神的な悩みから逃げ出そうとして、「そばの麵打ち」を学び、蕎麦屋を開業して失敗する例をよく目にします。

 

他には、学校で教員として勤務していたが、生徒の教育の問題から教員を辞めて、カレー店を開業して失敗したり、中年期に独立する選択肢を選択したばかりに、家族まで巻き込んでしまう「中年期の危機」が、この相談者Aにも忍び寄っているのです。

 

確かに、このキャリアコンサルタントが推奨するように、家族との時間を確保するのには「独立」という選択肢も考えられますが、相談者Aが成功するという前提が必要です。

 

でも、成功するには長い時間がかかる場合もあり、家庭の経済面の不安が重くのしかかってきます。

 

たとえ短期間で成功しても、今度は経営者としての責任が発生し、運営の問題などで忙しくなり、家族との時間を確保することが難しくなるかもしれません。

 

「独立」には、このような沢山のリスクがあります。

 

このキャリアコンサルタントは、「独立」することのリスクまで考え及んで、相談者Aに勧めたのでしょうか。

 

以上から、このキャリアコンサルタントには、中年期の発達課題として「中年期の危機」に関する知識やそれを乗り越えるスキルを与えることができる能力を備えることが重要なのです。

 

「独立」以外の選択肢としては、会社を辞めないで「今は昇格には魅力を感じていない」という見方をしている相談者Aに、昇格のベネフィットについて考えさせ、「昇格」について再考させる支援が必要ではないでしょうか。

 

さらに、その相談者Aの思考を変えるためには、将来の経済面の収支のことを直面化するかかわりが大切です。

 

では、結論を記述します。

 

問3 相談者Aを支援するために必要なネットワークは何か。相談者Aの置かれた環境への働きかけについて関係機関や関係者との連携も考慮し、記述せよ。(20点)

 

①専門セミナーや研修の受講、専門書や文献の活用が必要である。Aの中年期の危機に対する発達課題に対応するため、キャリアコンサルタント自身が専門セミナーや研修に参加し、最新の知識やスキルを習得する。また、その問題に関する専門書や文献を参照し、Aの状況に適したキャリア開発や形成の支援方法を学ぶ。②ファイナンシャルプランナーとの連携が必要である。教育費や生活費の見直し、将来的な独立を視野に入れたライフプランを立てるために、Aが直接、資金管理の専門家との相談が有益である。家族の経済的な不安を軽減し、BはAが安心してキャリアを考える基盤を提供する。これらのネットワークを活用し、Aが抱える問題に対して多角的で効果的な支援を提供し、持続可能な解決策を見出すことができると考える。

 

今回は、以上の解答例を考えました。

 

事例記録に記述してある表面的な相談者Aの問題を解決するネットワークや環境への働きかけだけではなく、相談者Aと事例相談者Bの深層心理を理解した専門家としての観点から、解答することが大切です。

 

海面に浮かんでる氷塊の沈んでいる部分にあたるような思考が必要です。

 

それが、問題作成者が意図とする社会的な問題を秘めている可能性がありますし、カウンセリング心理学の観点から、この事例相談者Bの指導を構築することが重要です。

 

(続く)