前回は「聴く」ということについて考えてみました。

 

次は「聴く」に連動することとしての「こたえる」ということについて考えみます。

 

1級事例指導では、相談者と事例相談者の2人が相談者です。

 

だから、事例相談者は相談者の話に、事例指導者は事例相談者の話にこたえなければなりません。

 

「こたえる」を漢字に直すと「応える」「答える」の2つの表記ができますが、意味は違います。

 

事例指導のカウンセリングという関係の中では、キャリア形成支援の本質に関わるぐらいの大きな意味があります。

 

「答える」は、相談や質問されたことに解答を与えることを意味しますが、カウンセリングで扱う相談者の内的な問題である悩みや迷い、不安や葛藤など感情面の問題については、支援者が解答を与えるという行為は無理があるということが挙げられます。

 

それは、相談者の内面の世界は、きわめて私的で個別的なものであるからという理由からです。

 

他者が相談者の内的な世界を窺い知ることはできないのは明らかです。

 

そのような相談者の見えない世界に答えを与えることは、誰もできません。

 

相談者は複数の問題を抱えて相談にきますが、自分の内的世界を表現したとしても、その内的世界を全て表現できたかどうか、わかりません。

 

相談者が発言した表面的な情報を手掛かりに、支援者が相談者に答えを求められても答えることはできません。

 

キャリアコンサルタントや事例指導者が、相談者と事例相談者の内的な問題をどのように理解できるかという「クライエント理解」が「応える」ことに適切な対応ではないでしょうか。

 

例えば、相談者がリモートワークができなくなるので、リモートワークができる会社に転職したいという悩みについて、コロナが収束した現状では元の通勤型に戻っている会社が多い中で、相談者の希望を叶える転職はかなり難しい支援になることは明らかです。

 

したがって、相談者の転職にこたえようとするとき、転職先はあるのかという心配や不安が支援者には湧きおこります。

 

しかし、この時に相談者の悩みがどのようなことから起こっているのか、その悩みはどのようなものなのかという相談者の内面に目を向けなければ、適切にこたえることはできません。

 

つまり、相談者がどう悩み、どうして欲しいと思っているのか、支援者が内面の問題を理解しようとするこたえ方として「応える」ことが求められるのです。

 

相談者の内面を理解しようとする「聴く」という姿勢が、相談者のこたえて欲しいという希望に「応える」ことになるのです。

 

すなわち、「聴く」という傾聴の技法は、相談者の内的な問題に「応える」ことに繋がっているのです。

 

続く