今回も、第13回1級キャリアコンサルティング技能検定実技(論述)試験の問題をシュロスバーグ博士の転機(トランジッション)の理論を用いて考えていきます。

 

第13回論述検定試験の問4の設問は次の通りです。

 

問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。(25点)

 

問4と問5には25点が配点されており、両方で50点になるので、この2つの問の解答が論述の到達の命運を分けることになります。

 

問4の設問から、事例相談者Bの対応の「問題」だけに焦点をあてて解答すると、総合的な視点が取得できません。

 

第12回必須問題問2の「対応」の問題と選択問題問1「抱えた問題」の2つの問題が抱合された設問であることを認知することで、問題作成者の視点が垣間見えてきます。

 

ただ、これまでのように一般化した解答で、どのような事例相談者にも適用できるような解答ではなく、この事例の個別性を大事にした解答が望まれます。

 

それでは、シュロスバーグ博士の転機(トランジッション)を用いて、事例相談者Bの「対応」の問題を考えます。

 

事例相談者Bは相談者Aの状況(Situation)や自己認識(Self)を深く掘り下げておらず、Aの支援ネットワーク(Support)や具体的な戦略(Strategies)を明確にしていないことが問題なのです。

 

具体的に解説していきます。

1. 相談者Aの状況(Situation)の掘り下げ不足

事例相談者Bは相談者Aの表面的な状況については理解しているものの、Aの置かれている具体的な状況や背景について十分に掘り下げていません。

 

例えば、Aが過去に経験した予算未達のプロジェクトの詳細や、どのような具体的な問題があったのかを聞き出していません。

 

また、Aの家族構成や経済的なプレッシャーについては知っているものの、それがどの程度Aに影響を与えているのかを詳細に理解していません。

 

これにより、Aが直面している問題の全体像を把握できておらず、適切な支援ができていません。

2.相談者Aの自己認識(Self)の掘り下げ不足

事例相談者Bは相談者Aの自己認識に対しても十分な掘り下げをしていません。

 

例えば、Aの強みや価値観、職業上の欲求や目標などを深く掘り下げて理解していないため、Aが管理職に対してどのような感情を抱いているのか、その根底にある心理的な要因を見逃しています。

 

Aがスペシャリストとして働き続けたいという希望に対しても、その理由や背景を詳細に探ることなく、表面的な希望としてしか捉えていません。

3. 相談者Aの支援ネットワーク(Support)の明確化不足

事例相談者Bは相談者Aが利用できる支援ネットワークを明確にしていません。

 

例えば、Aの社内外でのサポート体制や、家族からの支援、職場でのメンターなどを具体的に把握していません。

 

Aがどのような支援を得られるのか、その支援をどう活用できるのかについてのアドバイスが不足しています。

 

また、B自身がAに提供できるサポートについても明確に示していないため、Aが安心して相談できる環境が整っていません。

4. 相談者Aへの具体的な戦略(Strategies)の欠如

事例相談者Bは相談者Aに対して具体的な戦略を提供していません。

 

例えば、予算管理のスキルを向上させるための具体的なステップやリソース、管理職になるためのキャリアパスに関する具体的なアクションプランを提示していません。

 

また、Aがスペシャリストとしてキャリアを築くための具体的なプランや、その場合の給与やキャリアアップの可能性についても明確にしていません。

 

このため、Aは自身のキャリアについて具体的なビジョンを持つことができず、不安が解消されていません。

 

結論として、事例相談者Bは、相談者Aの転機に対する支援において、Aの状況(Situation)、自己認識(Self)、支援ネットワーク(Support)、および具体的な戦略(Strategies)についての掘り下げが不足していることが問題です。

 

これにより、Aは自身のキャリアに対する明確なビジョンを持つことができず、不安を感じ続けています。

 

Bはこれらの要素をしっかりと掘り下げ、具体的な支援策を提供することが求められます。

 

それでは、以下の問4の解答を転機理論からヒントについて述べてみます。

 

問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。

 

事例相談者Bの対応にはいくつかの問題があります。

 

まず、BはAの不安を受け止めようとしていますが、Aのキャリア選択に関する深刻な悩みを十分に理解していません。

 

転機理論の「4S」システム(Situation, Self, Support, Strategies)の視点から見ても、BはAの状況(Situation)や自己認識(Self)を深く掘り下げておらず、Aの支援ネットワーク(Support)や具体的な戦略(Strategies)を明確にしていません。

 

具体的には、BはAの予算管理に対する苦手意識を共有し、自身の経験を交えて話すことで共感を示そうとしていますが、Aのキャリア選択における本質的な問題を十分に受け入れていません。

 

また、Aの「ずっとプレイヤーとして働いて、スペシャリストでやっていければと思います。」というキャリアプランを深く吟味せず、Aの主体的な意思決定を支援するための適切な戦略を提供していません。

 

Bは、Aの将来的なキャリアパスについての具体的な支援策を提示できておらず、Aの不安を解消するための具体的なサポートを提供できていません。

 

さらに、BはAの苦悩や不安を十分に傾聴せず、次回の面談で予算管理について詳しく見ることを提案したが、これがAにとって負担となり、予約がキャンセルされる結果となっています。

 

このことからも、BはAの支援ネットワークを強化するための具体的なアクションを提案できていないことが問題であります。

 

転機理論の視点から見ると、BはAの転機に対する適切な支援を提供できておらず、Aのキャリア形成を総合的にサポートするための重要な要素を見逃している点が大きな課題であると考えます。