これからは、第13回1級キャリアコンサルティング技能検定実技(論述)試験の問題をシュロスバーグ博士の転機(トランジッション)の理論を用いて考えていきます。

 

第13回論述検定試験の問1の設問は以下の通りです。

 

問1 相談者Aが訴えた「問題」は何か、記述せよ。(10点)

 

まず、相談者Aが訴えた問題は、管理職になることに対する強い不安とプレッシャーです。

 

特に「予算管理」に対する苦手意識が強く、過去に予算未達の経験があることから、その責任を担うことに対する大きな不安を感じています。

 

また、家族の生活費を自分一人で支えているという経済的なプレッシャーもあり、管理職になることは収入面で魅力的である一方、予算管理に対する苦手意識がその決断を難しくしています。

 

シュロスバーグ博士の転機理論では、転機に対処するためのリソースとして「4S」と呼ばれる四つの要素を点検します。

 

これに基づき、相談者Aの状況において点検すべきリソースは以下の通りです。

 

状況(Situation):Aの現在の職場の状況は、特に課長からの「管理職への昇進を見据えた予算管理の担当」という指示があったということです。

 

Aの家族状況(妻と中学生の2人の娘がいること)から、家族の生活費を一人で賄っているという経済的プレッシャーがあるということです。

 

過去の予算未達の経験があることも言っています。

 

自己(Self):A自身の予算管理に対する強い苦手意識と過去の経験から来る自信のなさが感じられます。

 

自分の仕事のやりがいや価値観(顧客に対してより良いものを作ることに意識を向けている)も持っています。

 

自分のキャリアビジョン(プレイヤーとしてのスペシャリスト志向)として、漠然とした考えを持っています。

 

支援(Support):職場における支援システム(キャリア相談窓口のBのサポート)が不十分です。

 

上司である課長のサポート(「大丈夫だよ、なんとかなる」という励ましの言葉)が、具体性を欠いており効果的な助言が不足しています。

 

家族の理解と支援を必要としますが、そのことについては語られていません。

 

戦略(Strategies):予算管理のスキル向上に向けた具体的な学習やトレーニングの計画が必要です。

 

管理職への昇進を前提としたキャリアプランニングが描くことが必要です。

 

現在の不安やプレッシャーを軽減するためのメンタルサポートやストレスマネジメントの方法についても講じる必要があります。

 

これらのリソースを点検することで、相談者Aが直面している問題に対するより具体的な解決策や支援の方向性を見出すことが可能になります。

 

では、そのことを踏まえて問1の解答を考えてみます。

 

相談者Aが訴えた問題は以下のとおりです。

 

予算管理に対する強い苦手意識とプレッシャーがあります。

 

過去に予算未達の経験があり、その結果、自分が予算管理の責任を担うことに対して強い不安を感じています。

 

予算管理のスキルが不足していると感じ、管理職になることに対して非常に大きなプレッシャーを感じています。

 

管理職への昇進に対する不安と経済的な悩みを抱えています。

 

管理職になることが避けられない現実に直面しており、もし管理職にならなければ給料が増えないため、家庭の経済状況に対する悩みがあります。

 

管理職になることで得られる収入増加は魅力的だが、予算管理のプレッシャーと自信のなさがその決断を難しくしています。

 

キャリアビジョンと現実とのギャップが感じられます。

 

A自身はプレイヤーとしての仕事を好み、管理職になることよりもスペシャリストとしてのキャリアを望んでいるが、経済的な理由から管理職への昇進を避けられないと感じています。

 

管理職への昇進を避ける場合、将来的には転職を考えなければならない可能性があることも懸念しています。

 

以上の問題は、Aのキャリアの進路と家族の経済的安定の両方に関わる重大な課題であり、特に予算管理に対する苦手意識が、管理職への昇進に対する大きな障壁となっています。

 

これらの問題に対処するために、シュロスバーグ博士の転機理論に基づいて以下のリソースを点検します。

 

状況(Situation):

Aの職場での役割と上司からの期待(管理職への昇進と予算管理の担当)。

家族構成と経済状況(専業主婦の妻と中学生の娘2人)。

 

自己(Self):

予算管理に対する自身のスキルと苦手意識。

プレイヤーとしての仕事のやりがいや価値観。

管理職としての役割に対する自己認識と自信の不足。

 

支援(Support):

職場内のキャリア相談窓口のシニア社員(B)のサポート。

上司(課長)の理解と励ましの言葉。

家族からの理解と支援の可能性。

 

戦略(Strategies):

予算管理スキルを向上させるための具体的な学習やトレーニング計画の策定。

管理職への昇進を前提としたキャリアプランニングとメンタルサポートの方法。

プレッシャーを軽減するためのストレスマネジメント技術の導入。

 

これらのリソースを活用し、相談者Aが直面する問題に対して適切なサポートと戦略を提供することが重要です。

 

相談者Aが訴えた問題は、管理職への昇進に伴う予算管理に対する強い苦手意識と不安、経済的プレッシャーから管理職になって収入を増やすべきか、好きなプレイヤーの役割を続けるかという葛藤とキャリア選択の悩みです。転機理論に基づき、管理職への昇進と経済状況や、予算管理への不安とスキル不足の自己認識、上司の励ましや家族の理解の支援、スキル向上とキャリアプランの見直す戦略を点検する必要があると考えます。

 

以上のように、相談者Aが抱えている問題を特定して、それに対する受検者の見立てとして、シュロスバーグ博士の転機理論を用いることもできます。

 

一つの解答例として、受検者の皆さんの参考になれば幸いです。