今回は「事例指導」を、2020年以後の「1級キャリアコンサルティング技能検定試験の試験科目及びその範囲並びに細目」について、理解を深めてみます。

 

私は、事例指導とは、対応指導と育成指導の2つに分けられ、いわゆる「対応指導=相談者と事例相談者」と「育成指導=事例相談者と事例指導者」の2重関係を表したものだと考えます。

 

実技試験のキャリアコンサルティング作業3事例指導には、

 

①「事例について面談の流れを理解し、見立てることができ、事例の評価と事例相談者に対する意思決定(助言・情報提供、目標設定の提示、専門家育成能力)が安定的かつ適切にできること。」

 

②「個人及び集団に対して、教育方法を活用し、個人又は集団に応じた事例指導(適切な介入、課題等に関する論理的・具体的・網羅的で簡潔な説明)が安定的でかつ適切にできること。」

 

③「個々の事例(専門領域を含む)に応じた環境、組織、家族、対人関係やシステム等)の問題点(現状とあるべきものとの乖離等)についての指摘、関係機関や関係者との協力関係を築きながら行う環境への働きかけ、及び解決策や改善案等の介入・指導が安定的かつ適切にできること。」

 

と定義されています。

 

①では「対応指導」について、次のように説明しています。

「事例について面談の流れを理解し、見立てることができ」

とは、面談のアプローチとプロセス、アセスメントのことだと思います。

 

アプローチに関しては、

学科試験で

Ⅱ-1のキャリアに関する理論、

Ⅱ-2のカウンセリングに関する理論

について必要な知識とされていますので、これを実技で活用できることが理解していることになります。

 

また、プロセスについては、

学科試験の

Ⅲ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能

2  相談過程において必要な技能には、 キャリアコンサルティングを進めるに当たって、相談過程全体の進行の管理として、

 

「①相談者が抱える問題の把握を適切に行い、相談過程のどの段階にいるかを常に把握し、各段階に応じた支援方法を選択し、適切に相談を進行・管理すること」

とあり、次の1)から8)までの技能についての知識を有することが求められています。

 

(1)相談場面の設定、(2)自己理解の支援、(3)仕事の理解の支援、(4)自己啓発の支援、(5)意思決定の支援、(6)方策の実行の支援、(7)新たな仕事への適応の支援、(8)相談過程の総括

 

ですから、実技試験では、事例相談者は相談者が8つの段階のどこにいるのかを把握し、その段階に応じた支援が出来ているかどうかをアセスメント(査定=見立て)することが必要です。

 

次に、「育成指導」については、

「事例の評価と事例相談者に対する意思決定(助言・情報提供、目標設定の提示、専門家育成能力)が安定的かつ適切にできること。」

です。

 

ここでの「事例の評価」とは、

実技試験

Ⅰ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能

2 相談過程において必要な技能

8) 相談過程の総括

「② 相談者自身が目標の達成度や能力の発揮度について自己評価できるように支援すること、キャリアコンサルタント自身が相談者支援の過程と結果について自己評価できるよう、事例相談者を指導できること。」

とあり、相談者の自己評価と事例相談者の自己評価の2つの評価のことを指しているのではないかと推測します。

 

また、事例相談者の相談者に対する対応や面談内容を認めることだと解釈することもできます。

 

次の、「事例相談者に対する意思決定」では、( )書きで、次の3点が表記されています。

 

①助言・情報提供

②目標設定の提示

③専門家育成能力

 

①の助言・情報提供については、

学科試験

Ⅱ キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

3 職業能力開発(リカレント教育を含む)

4 企業におけるキャリア形成支援の知識

5 労働市場の知識

6 労働政策及び労働関係法令並びに社会保障制度の知識

7 学校教育制度及びキャリア教育の知識

8 メンタルヘルスの知識

9 中高年齢期を展望するライフステージ及び発達課題の知識

10 人生の転機の知識

11 個人の多様な特性の知識

 

の9項目の知識が必要とされ、その知識を活用して助言したり情報提供したりできることが、実技試験では求められます。

 

②の「目標設定の提示」については、

 

実技試験

Ⅰ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能

2 相談過程において必要な技能

5) 意思決定の支援

 

①自己理解、仕事理解及び啓発的経験をもとに、職業だけでなくどのような人生を送るのかという観点や、自身と家族の基本的生活設計の観点等のライフプランを踏まえ、相談者の中高年期をも展望した中長期的なキャリア・プランの作成を支援することができるよう、事例相談者を指導することができること。

 

②相談者のキャリア・プランをもとにした中長期的な目標や展望の設定と、それを踏まえた短期的な目標の設定を支援することができるよう、事例相談者を指導することができること。

 

③相談者の設定目標を達成するために必要な自己学習や職業訓練等の能力開発に関する情報を提供するとともに、相談者自身が目標設定に即した能力開発に対する動機付けを高め、主体的に実行するためのプランの作成及びその継続的な見直しについて支援することができるよう、事例相談者を指導することができること。

 

以上の①②③の3つの観点から、事例相談者がどのようなことが出来ていないかを把握し、その対応の特徴(クセや偏り)に対して、どのようにすれば改善できるのかを指導することであり、論述試験の選択問題問2の「優先して取り組むべき目標」のことを示唆しているのだと考えます。

 

また、事例相談者の抱えている問題には、事例の対応だけではなく、自己評価と結果の違いが及ぼす心理的な問題があるので、下記の基本的技能であるカウンセリングの技能と関連付けて目標設定することも必要です。

 

実技試験

Ⅰ キャリアコンサルティングを行うために必要な技能

1 基本的技能

1) カウンセリング技能

 

③の専門家育成能力については、

 

学科試験

Ⅰ キャリアコンサルティングの社会的意義

2 キャリアコンサルティングの役割の理解

にキャリアコンサルタントの専門家としての役割が表記されていますし、

 

Ⅱ キャリアコンサルティングを行うために必要な知識

12 教育指導及び事例指導

(1) 教育指導

(2) 事例指導

にあるように、専門家としての2つの指導能力の知識と実践力が求められています。

 

実技試験では、

「事例相談者との教育指導関係構築、事例相談者の抱えている問題の把握、事例相談者への育成的な目標を設定する等、具体的な指導を行うことが適切かつ安定的にできること。」

が評価され、合否の判定が決定されます。

 

2024年12月の検定試験の本番までには、まだ時間がありますので、もう一度じっくり「試験科目及びその範囲並びにその細目」を熟読することで、ボキャブラリーを増やすことに繋がり、論述試験の解答を記述するときやロールプレイの実技指導の際の応答の手助けになります。

 

次回は、②について考えます。

②「個人及び集団に対して、教育方法を活用し、個人又は集団に応じた事例指導(適切な介入、課題等に関する論理的・具体的・網羅的で簡潔な説明)が安定的でかつ適切にできること。」