第13回実技(論述)試験問4を読み解いていきます。
これまで、問1、問2、問3について下記の通り解答しました。
問1 相談者Aが訴えた「問題」は何か、記述せよ。(10点)
Aは管理職の職務として予算管理の克服と家族関係から収入の面を不安視し、将来の転職も考え、キャリア・サバイバルの問題を抱えている。職務と役割のプランニングが不足しているため、管理職かスペシャリストか、外的キャリアと内的キャリアの選択で意思決定できずにいる。
問2 あなたが考える見立てに基づき、相談者Aが「問題」を解決するために取り組むべきことは何か、記述せよ。(20点)
管理職としてのマネージメントかスペシャリストとしての専門性か、どちらに関心があるのか明確にする。仕事と家庭の両立の点で何をやっている自分に価値観を感じるのか向き合わせる。キャリアの棚卸しを行い、自分の経験と能力から何が得意なのか整理することで自己概念を点検する。さらに、管理職とスペシャリストのそれぞれについて、それを選択した場合の予測を自己概念に照らし合わせて評価し、選択を決定することに、主体的な意思決定を支援する。
問3 相談者Aを支援するために必要なネットワークは何か。
相談者Aの置かれた環境への働きかけについて関係機関や関係者との連携も考慮し、記述せよ。(20点)
Bは管理職を目指す社員のための能力開発を人事部担当者と協働して実施する。Aは予算管理能力が不足していることから自信を喪失し、キャリアパスをスペシャリストでのキャリア形成を考えている。Bや課長、管理職を目指す社員の多くが、予算管理の職務能力を経験値で乗り超えており、非能率的だと考えられるので、経営に関する知識やスキルを身につけさせるためのセミナーやトレーニングを行い、外的キャリアに関するキャリア形成を支援するために必要。
問4の設問は以下の通りです。
問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。(25点)
第12回までは、必須問題の問2は以下の通りでした。
問2 この事例相談者の相談者Aへの対応について、どのような問題があるか、あなたの考えを記述せよ。(15点)
この2つの設問を比較すると、ほとんど変わりはありませんが、配点が15点から25点になり、10点も高い配点になっています。
行数はどちらも7行で変わりがありません。
違っているのは、「事例に基づいて」という表現です。
「基づいて」という意味は、
「原因や発端、根拠などがそこにあるさま。」
「それを拠り所にしているさま。」
ですから、事例の中での事例相談者の相談者への対応で、受検者が「問題」だと思うことは何かを解答しなければなりません。
いわゆる事例相談者の相談者へのキャリア形成支援の問題を見立てることです。
つまり、事例相談者の本質的な問題を明確にすることです。
では、キャリアコンサルタントBのプロフィールを確認してみます。
【事例相談者B】
男性(62歳)、大学卒業後、Aが勤める会社にシステムエンジニアとして入社し、事業部長まで務め60歳以降は再雇用社員として、社員のキャリア相談を受けている。キャリアコンサルタントの資格を取得し、現在相談歴2年。
システムエンジニア、事業部長、再雇用社員というキャリアパスを経験しているキャリアコンサルタントです。
それで、外的キャリアを選択した人物です。
相談者Aのプロフィールは、以下の通りです。
【相談者A】
男性(42歳)、情報系の大学を卒業した後、新卒で社員数約700人のIT企業に入社。
システムエンジニアとして勤務し、現在は主任。プロジェクトリーダーとして6年目。
相談者Aは、事例相談者Bと同じシステムエンジニアですから、今後シニア社員のBと同じキャリアパスを歩む可能性があります。
だから、キャリアコンサルタントは相談者Aに予算管理ができるようになって、管理職を目指して欲しいと考え、次の所感を述べているのです。
【事例相談者Bの所感】
Aは責任感が強く仕事ぶりもきっちりしているが、考え方に余裕がないと感じた。自分自身の経験からも、予算管理についてAは難しく考えすぎの印象があったため、面談ではまずAとの関係構築に努め、予算管理について受け入れやすいように、そしてもう少し気楽に考えられるように、家計管理に喩えて話を持って行った。
しかし、この赤字の言葉は、相談者Aの問題とは全く関係のない別の問題で、自分の経験や家計管理を比喩しているため、相談者Aが述べた以下の訴えに対しては、対応していないことになります。
①顧客とのやりとりや、メンバーへの指示や指導は嫌いではないし、自ら率先してプレイヤーの作業も行うが、とりわけお金の話になるとプレッシャーを感じて思うように仕事ができなくなると訴えた。
②「自分の給料だけで生活しているので、管理職にならないと収入が増えないから悩ましい」と、Aは力のない声で訴えた。
③「ずっとプレイヤーとして働いて、スペシャリストでやっていければと思います。でも、給料はあまり増えないので、どこかで転職を考えないといけなくなるかもしれません」と答えた。
上記の3つのことから、相談者Aは現場の仕事やプレーヤーはできるのでスペシャリストとしてやりたいと訴えているのであり、転職のことも考えているのです。
そして、お金のこと(予算管理)にはプレッシャーを感じて仕事ができなくなる、管理職にならないと収入が増えないから悩ましいなどと言っているので、相談者Aはお金のことに強い興味・関心があることが理解できます。
このような心理状態の相談者Aに対して予算管理の苦手意識を解消していきましょうと提案しても、受け入れるはずがありません。
その原因は、相談者Aの管理職に関するお金のことのプレッシャーを受け止めていないからです。
キャリアコンサルタントのBは、相談者Aが自分の悩ましいと考えている「管理職になるかならないか」ということを受け止めていないし、受け入れていないから、相談者AはキャリアコンサルタントBの提案を受け入れられないのです。
キャリアコンサルタントは、相談者の悩みや苦悩を受け止めて、受け入れることで、相談者がキャリアコンサルタントのことを受け入れるようになる「受容・共感」の態度が不足しているのです。
事例相談者の主訴は、【事例相談者Bが事例指導者に相談したいこと】の中の
「Aの翌月の予約はキャンセルとなり、その後連絡がないことが気になっている。」
ということです。
そして、その原因が、
『温かい雰囲気で話を聴くことに注力したが、予算管理が苦手だという訴えに対して「予算管理のどこが苦手なのか詳細を見てみよう」と次回の面談に向けて課題設定をしたことが負担だったのかもしれない。』
と自己評価したことにあるのです。
「予算管理が苦手だ」という訴えに焦点をあて、自分の経験談や家計管理に喩えることで、相談者Aの「お金のことにプレッシャーを感じる」という本質の問題点に焦点をあてていません。
つまり、心理学的に捉えると、「チャンクアップ」といって、マクロな視点に持って行かせようとしているので、相談者Aの視点ではなく傍観者的な感じの立ち位置になっているのです。
例えば、「お金の話になるとプレッシャー」や「収入が増えないから悩ましい」という具体的なエピソードに視点をあてると「チャンクダウン」といって、ミクロな視点になるので、感情や感覚のシンクロ度合いが高まり、両者で共有できるようになるのです。
以上のことから、下記の事例相談者Bの所感を読み解くと、
『事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。』
という設問に対しての解答が記述できると思います。
【事例相談者Bの所感】
Aは責任感が強く仕事ぶりもきっちりしているが、考え方に余裕がないと感じた。自分自身の経験からも、予算管理についてAは難しく考えすぎの印象があったため、面談ではまずAとの関係構築に努め、予算管理について受け入れやすいように、そしてもう少し気楽に考えられるように、家計管理に喩えて話を持って行った。ただ、翌月の予約はキャンセルとなったことから、自分の対応に何か問題があったのではと気になっている。
問4 事例相談者Bの相談者Aへの対応について「問題」だと思うことは何か。事例に基づいて記述せよ。(25点)
Bは予算管理について、誰でも通る道だと自身の価値観で共有し、自分の経験から苦手だと自己開示して、家庭の予算に興味を示すことで、Aの負担や不安を受け止めようとしている。しかし、Aのキャリア形成に伴う管理職かスペシャリストかのキャリア選択において、苦悩や悩みを引き起こしている問題を受け入れていない。そのため、Bはキャリアコンサルタントしての傾聴の態度が不足しているので、予約がキャンセルとなり、Aとの信頼関係が築けていない。また、Aの「ずっとプレイヤーとして働いて、スペシャリストでやっていければと思います。」というキャリアプランを吟味していないため、主体的な意思決定の支援ができていない。