髙橋健文句集
『一本の櫂』より一句鑑賞
手のひらを水平にして雪迎ふ
手を広げ、何を求めているのか。何を許容しようとしているのか。自然体に水平に差し出した手のひら。しんしんと雪が降り積もる景色。そこから見えてくるのは静謐な心の在り様。止むことなく降り注がれる雑多な眼前の現象をあるがままに受け入れる。しかし同時に、決して何ものにも執着しない。そんな作者の姿が見えてくる。今にして思うと雪は、過ぎ去った過去や、これから迎えようとする結末を象徴しているのかもしれない。畢竟、雪は手のひらに積もり、やがて水となり消えていく。言い換えれば、生も死もひとつ。自然の循環に過ぎない。そう喝破しているようにも思える。そして下五に事も無げに添えた「雪迎ふ」がいい。拒むことなく、むしろ積極的に潔く生への覚悟を表出している。さらに、華やかな言葉や派手な修辞をまとわない平明な物言いが、作者の真摯な心情を浮き彫りにしている。
ところで、作者は宮城県塩竃市出身。雪のかなたに大震災の記憶を見据えているのかもしれない。津波がすべてを飲みこみ、雪が降り積もっていたあの日のことを。そう考えると、手のひらを水平にする作者の行為は鎮魂とも祈りとも思えてくる。受け入れるものの重さを心に刻み込んでいるようだ。そして下五を再度味わいたい。読者はそこに重層的な感慨が収斂されていることを知るのである。
