芥川龍之介「あばばばば」
主人公・保吉が通勤途中に寄るタバコ屋に
店の主人の新妻とみられる女性が登場します。
それを保吉は
それも当世のお嬢さんではない。
五六年来迹（あと）を絶った硯友社趣味（けんゆうしゃしゅみ）の娘である。
と、描写しています。
「あばばばば」は大正12年の作品ですが
舞台は芥川が横須賀に勤務し出した、
大正5年ごろ、と思われます。
五六年来迹を絶った、というのは
明治から大正に変わった頃、になるわけですね。
さて、硯友社（けんゆうしゃ）は
「金色夜叉」の作者・尾崎紅葉を中心に設立され、
明治の文壇に多大な影響を与えました。
硯友社は尾崎紅葉が明治36年に亡くなって解体されましたが
その影響は明治の終わり頃まで残っていて、
大正になると廃れてしまった、のかな？
大正5年頃になっても明治を引きずっている感じの娘さん
と、いうわけですね。
今で言えば「昭和な感じ」？
ちょっと失礼な男ですね
保吉
娘さんは「西洋髪」に結っています。
西洋髪とは、こんな髪型
ありゃ～、やっぱり明治の髪型でした！
大正時代の髪型は
画像はこちらの記事からお借りしました。
明治・大正・昭和のヘアトレンド
明治時代の女性の髪型はまだ江戸時代の延長にあり
明治の終わり頃は、引き詰めて結った髪型で
髪飾りも地味なものに変わっていったそうです。
明治中期～末期は日露戦争など、戦時中ですからね。
大正に入ると都心で画像左の「ひさし髪」が大流行。
前髪と鬢（びん・側面の髪）を分けずに大きく膨らます髪型です。
東京育ちの保吉には
キュッと結った西洋髪は野暮ったく見えたことでしょう。
話を「硯友社趣味」に戻します。
硯友社趣味の女性、とは
尾崎紅葉の硯友社が出版した雑誌に執筆し
流行作家になっていった
幸田露伴
泉鏡花
徳田秋声
の作品に登場するような女性たち。
擬古典主義・江戸期の戯作風で
・はんなりとした美人
（美人画・浮世絵）
・着物姿
・品のある色気
・愁いを帯びた表情
が、特徴とまとめたら、わかりやすい。
保吉はばら銭を探りながら、
「たけくらべ」、
乙鳥の口風呂敷包み、
燕子花、
両国、
鏑木清方、
――その外いろいろのものを思ひ出した。
小銭を探しながら
娘さんをチラ見して
色々連想してた、ってこと？
やっぱり失礼な男だな、、保吉
「たけくらべ」
樋口一葉の「たけくらべ」
主人公の美登利（みどり）の髪型の描写があります。
解かば足にもとゞくべき毛髮を、
根あがりに堅くつめて前髮大きく髷おもたげの、
赭熊といふ名は恐ろしけれど、
此髷を此頃の流行とて良家の令孃も遊ばさるゝぞかし･･
花魁の姉を持つ主人公が
髪の根本を固くひっつめて
前髪を大きく鬢が重たげの髪型・・・
ひっつめ髪は明治の髪型・・・を連想していたんかい
乙鳥の口風呂敷包み
燕子花（かきつばた）
鏑木清方
結論
若奥さん、可愛い娘さんだったんでしょうね
引用元です～
画像をお借りしました。
「燕子花（かきつばた）」は
中沢弘光が1918年に制作した絵画です。
東京国立近代美術館・所蔵。
画像をお借りしました。
「鏑木清方」は
近代日本の美人画家として上村松園、伊東深水と並び称せられています。
画像検索して出てきた代表作の美人画の画像をお借りしました。
「両国」は・・・
検索しても相撲関係の記事・画像しか出ず
カバー画像は著作権フリーで検索して出てきた
明治・大正時代の女性の画像から
今回の「硯友社趣味」のテーマで
一番私のイメージに近い画像を選びました。
モデルは芸者さんなので、
「あばばばば」の若奥さんは、
こんなには色っぽくはないだろうけど
雑誌を読みながら店番、してるイメージで。
「あばばばば」２
で若奥さんが登場してます！！