5/12(日)

 

午前中、上田へ。電車の中で野沢尚「烈火の月」読む。この小説、なんと『その男、凶暴につき』の脚本家自身による小説化である。我妻と女性麻薬捜査官とのバディものになっている!

川上麻衣子が演じた心の病を抱えた妹は登場しない代わりに、我妻のDVが原因で別れた元妻との間に小さな娘がおり、彼女は自分への破壊衝動を抑えきれない障害を抱えているという設定になっている。重い。

 

12:20上田映劇(トゥラム・ライゼ)で濱口竜介『悪は存在しない』観る。前半こそ静かな映画過ぎて、集中できず、ついつい「素顔のままで」の安田成美のことを思い出して落涙したりしてしまったが、宿泊施設を作ろうとしている東京の芸能事務所の代表者たちが住民説明会から東京に戻ってきてのミーティング場面で、それまで構図的には「悪」だった人間の別の面が見えてくる。その辺から引き込まれた。しかし、あの幕切れ…。濱口さんが『気のいい女たち』の影響を公言しているのを知らなかったら、もっと驚いたかもしれないが。

これでいいのか…と判然としない愉しみ。




観終わって、シングル盤付のパンフ購入。

 

5/13(月)

 

早朝に起きてしまったので、VHSで椎名桜子『家族輪舞曲』観る。おもしろくはない。おもしろくはないけど、原作・脚本・監督兼任者がそもそも「おもしろく」しようとした痕跡が全くない。それに反して林淳一郎の信じがたい程豊かな撮影、しゃれたロケーション、美術などスタッフワークの凝り方は尋常なものではない。ある種の森田芳光作品のように、ひやりとした空気感の中に生きる人間たちの距離感に焦点を絞った作品として練られていたら、ひょっとしたらこれは傑作になったかもしれない。いや、現状の作品も僕には十分魅力的だった。この美しく、退屈で意味不明な時間にもっと浸っていたい…。

朝四時とかにぼんやり見てると、ちょうどいいです。しまだゆきやすさんのお気に入りだったというのも大いに納得。

 

5/15(火)

 

実店舗&ネットで10年間探していた『ときめきに死す』のOSTレコード(未CD&配信)を、名古屋のヘアカット兼レコード屋の通販サイトで4000円弱で見つけたときは、「これは嘘だ。どうせ本当は売り切れてるに決まっている」と半信半疑だったのだが、注文してあっさり買えてしまい、家に届いてからというもの、毎日嗚咽しながら聴いている。

とにかく素晴らしい。たぶん、「映画音楽」というジャンルの世界最高傑作だろう。プロデューサーの三沢和子さんは『戦場のメリークリスマス』と比較されたり、真似してると言われたことが当時ショックだと語っていたが、逆に言えば坂本龍一の開拓した映画音楽のフィールドに耳慣れた海外のリスナーの心もつかめる作品だと思う。今からでも遅くないから、正式海外リリースを。B面が劇中の台詞付きという、同時代の角川映画のOSTと通じる作りなのも嬉しい。

 

 

長年探していていて、未だに見つけられてないOSTは、もう石井聰亙『水の中の八月』のCDだけになってしまった。これはこれで淋しい。

 

夕食後、林海象『ZIPANG』がアマプラで観られることが発覚し、急遽観る。

たむらまさきのアナーキーな撮影が異様なまでに「三里塚」している冒頭から数分間のアクションシーンは、たしかに興奮した。最初の数分は…。安田成美演じる女ガンマン鉄砲お百合の威勢のいい芝居は確かにカッコいい。しかし、90年代のTVドラマの安田成美の優れた繊細な仕事を見てしまった今となっては、全盛期の彼女がこんなバカ映画の華を添えるために登用されてしまった事実を痛ましく思うだけ。

それにしてもタイムワープシーンの凝った伊藤高志風の映像は凄いな、と思ってたら本当に伊藤高志の仕事だから驚いた。『家族輪舞曲』と共に、出来はともかく何とか傷跡を残そうとしているスタッフ・キャストたちの熱気は伝わってくる。