4/13(月)

 

いきなり激寒かつ大雨が降り出して、塞ぎこんだ気持ちがさらに倍加される。今のところなんとか無事だけど、スペイン風邪みたく何年も続いてずっとずっとこの状態が続いて保障も受けられなかったら、どうしよう。数少ない友だちにも会えず、毎日毎日ひとりぼっちだったら、どうなってしまうだろう。これほど時間ができたら、小説家は小説を書き、詩人は詩を書く。画家は絵を描き、音楽家は作曲したり演奏したりするだろう。映画作家なら構想を練るだろう。恋をする人間なら誰かのことを想うだろう。家族を愛する者は家族と一緒に過ごすだろう。では私は?四六時中、からっぽな自分と向き合わなきゃいけないのが辛い。実情は知らないのだけど、世界中の少なくない人々に広がっているだろうこの鬱々とした気持ちは、粗雑な薬物を蔓延させる原因になってたりしないのだろうか。虚無は何よりもタチが悪く心を蝕む。ドラックでもしないとやってらんない。そんな気持ちでいる人間の家の扉をコンコンと売人が叩く。マスクをつけた売人が「おたく、新聞とってます?」みたいなテンションで家を回る光景を想像するのは難しくない。ディックの小説みたい。みんな閉じこもってパーキー・パットで遊んでいる。それは今も似たようなもんか。

 

長靴と防寒着を着込んで、近所のブックオフに行く。客は僕ひとり。当たり前か。江古田のブックオフは、何故かオールナイターズのセクシー写真集とか村西とおるがいた時代のクリスタル映像所属女優のヌード写真集とかが連日棚に追加されており、どうしても気になって行ってしまう。もちろん袋づめされて中身は見えないし、(ほとんど)買わないのだけれど、「おお、こんなものが!」という驚きは味わえるので目が離せない。「戦時下」(大嫌いな言葉だが)にこの振る舞い。世間一般の価値観なら信じられないくらいバカなんだろう。場所が場所ならぶん殴られかねない(そういうニュースも聞く)。ジャイアンみたいな奴にぶん殴られて80年代のAV女優のセクシー写真集を落とし、嘲笑われながらふんずけられる。ドラえもんのいないのび太くんは泣きながらただ人生を呪うばかりだ。

 

基本的にはこの手のものは買わないのだが寂しくて仕方なく、80年代のロマンポル女優 山本奈津子の写真集を500円くらいでつい買ってしまう。

 

 

大ファンというわけではないけれど、いまはなき新橋文化ロマンで那須博之『美少女プロレス 失神10秒前』を見て以来、山本奈津子さんには特別な共感を持っている。『美少女プロレス 失神10秒前』の素晴らしさはここに書ききれない。「これって一応ポルノなんだよね…?」と絶句してしまうくらい、『カルフォルニア・ドールズ』オマージュの本気のレスリング映画。猛特訓の果てに「ウオ〜!」と山本さんがリングに上がるシーンには本気で感動した。(ちなみにいまおかしんじさんが学生時代に撮った8mm映画『汗ばむ破壊者』は、自分自身と山本奈津子さんに捧げられている)。まあとはいえ穏やかな表紙に反して中身はバリ島ロケのありきたりなセクシー写真集。なんだかなあと思いつつ、いなたすぎる出来故に何となく眺めていると心が和む。特に最後に乗っている幼少期の写真の妙な味はいい。

 

 

ちょっとダイナソーjrのジャケっぽいけだるさ。なんでこの写真だったんだろう。にっこり微笑んでいる写真だってあったろうに。

 

DVDで増村『最高殊勲夫人』観る。増村のシリアス系の作品で、特に増村=あややコンビの『清作の妻』とか『妻は告白する』とか『赤い天使』とかはほとんどがオールタイムベストくらいに好きなのに反し、『巨人と玩具』とか風刺風俗劇路線はどうにもピンとこない。のでこの映画もずっと敬遠してた。結果苦手感はあまり是正されなかったけど、会社とかバーとか恋愛観とか、この時代の風俗を知れる意味での楽しさはピカイチなように思う。とはいえ会社に入って資産とか家柄とか、結婚条件を考慮して手ごろなところで手を打つ、みたいな思想をみんな露骨に出すこの時代の結婚観はお世辞にも褒められたもんじゃなく、おぞましいと感じる。例え主人公たちの純情さを強調する意図があるとしても。娘を「片付ける」という言葉を使って早く嫁に出そうとする、小津映画の根底にある殺伐さも思い出す。

 

4/14(火)

 

午前中DVDでピート・ウォーカー『拷問の魔人館」観る。過激というよりひたすら陰鬱で寒々としており、今の気分にぴったりっちゃぴったり。元裁判所の拷問館を、周囲の人もみんな何故か病院と誤解している(故に登場人物たちが行ってしまう)軽薄なご都合主義もすごい。中盤の、後のフリードキン『L.A.大捜査線/狼たちの街』を彷彿とさせるトリッキーな(ちょっと反則技な)構成にも結構驚く。フリードキンは見ていたのだろうか。

 

午後池袋に出て平日はやっているジュンク堂へ。前から欲しかった杉田俊介「ドラえもん論 ラジカルな「弱さ」の思想」購入。ほんとはどんな本か確かめたかっただけなのだけど、どこにあるかわからず店員さんに訊いたら、棚を案内されるのではなく実物を持ってこられてしまったので購入せざるをえなくなる。一階のずらりと並んだレジの前すべてにビニールの仕切り(やり取りをするスペースだけに隙間が出来ている)が下げられていてちょっと異様な光景(当然店員さんはみんなマスクしている)。今後営業する店はどこもこんな風になるのかもしれない。きっとそうなるんだろう。すべての人間がガスマスクを携帯するようになるビジョンが描かれる『ゴジラ対ヘドラ』にだんだん近づいているような終末的な気分にすらなる。

 

夕方に帰ってまたブックオフ江古田店のタレント写真集コーナーをチェック。上述した通り基本的には買わないようにしているのだけど、この日まで全然存じなかった、90年代はじめのあるアイドルの写真集の表紙を見て一目惚れしてしまい、思わずレジに持って行ってしまう。誰のかはヒミツ。誰も特に知りたくないでしょうが。

 

TSUTAYAで借りた「ウルトラマンA」をだらだら見てたら深夜に。このシリーズは全くの初見。噂通り、他のシリーズに比べて怪獣のデザインが派手派手しいばかりで雑で、スカム感が強い。悪の組織とか出てくるし、ノリはどっちかというと仮面ライダーとかゴレンジャーとかのノリに近い。男女が合体して変身するという設定は(実際には見ていなかったのにも関わらず知識だけはたぶん保育園児の頃からあったので)、期待してドキドキして見ていたのだけど、やっぱり恋愛関係とかが特に濃く描かれるわけでもないので盛り上がりに欠ける。ドラマ的に平坦なので興奮できないロマンポルノの濡れ場みたいなもんか(うう、下品な例え。ごめんなさい…)。南夕子役の星光子さん、せっかくかわいいのに。特に印象的なおかっぱが素敵。地球平和の任務の合間にかなりの頻度でそこそこ高級な美容院に行っていると見た。当然いつ超獣が出ても大丈夫なようにレザー銃は携帯しているのだろう(実際にそういう日常が描かれる回もあるのかもしれない)。