売上は伸びているのに、利益が残らない。新製品を出せば出すほど個別対応が増え、現場の稼働は逼迫、在庫も人員も膨らむ――。多くの日本企業で、会議の議題は「コスト削減」「販促強化」の往復運動になりがちです。為替・原材料高・人手不足・人口減という逆風の中で、努力を積み重ねても体感的には楽にならない。これは、あなたの会社が収益逓減(ていげん)型の重力に縛られているサインかもしれません。

そしてこのような光景は、今や日本中の企業で日常的に繰り広げられています。

 

日本企業が直面する厳しい現実

データが示す日本企業の現状は、決して楽観視できるものではありません。

製造業の営業利益率は、米国やドイツと比べて一貫して低い水準にあります。2023年度の調査では、日本の製造業全体の平均営業利益率はわずか4.0%。しかも、中小製造業の4分の1が赤字経営という厳しい状況です。

さらに深刻なのは、約22万8000社に上るゾンビ企業の存在です。これらの企業の多くは、売上が伸びても利益が増えない、いわゆる「収益逓減型」のビジネスモデルに陥っています。売上が2倍になっても利益は1.5倍にしかならない、規模が大きくなるほど効率が悪化する─そんな構造的な問題を抱えているのです。

 

世界競争力ランキングでも、日本の地位は年々低下し続けています。特に「企業の意思決定の迅速性」では67カ国中最下位、「変化する市場への認識」も65位と、ビジネス環境の変化への対応力の弱さが浮き彫りになっています。

 

なぜこのような状況に陥ったのか?

多くの日本企業が苦境に立たされている根本的な原因は、「収益逓減型」のビジネスモデルから抜け出せないことにあります。

従来の日本企業の強みであった「ものづくり」は、確かに高い技術力と品質を生み出しました。しかし、グローバル化とデジタル化が進む現代において、「作って売る」だけでは持続的な成長は困難になっています。製品ライフサイクルの短縮化、価格競争の激化、新興国メーカーの台頭に加え、製品のコモディティ化が加速したことにより、かつて通用した成功法則が通用しなくなっているのです。
 

フライホイール経営:着実に成長を続ける企業

しかし、このような厳しい環境下でも確実に利益を積み上げている企業があります。その共通点は実にシンプルです。彼らは事業活動を単発の「売って終わり」ではなく、売上が次の売上と利益につながる「フライホイール(飛車輪)効果」を中核に据えています。
 

フライホイール経営とは、自社の価値を生み出す主要な要素──たとえば顧客獲得、データ蓄積、製品改善、リピート利用──を連動させ、小さな回転力を一度回し始めると次第に勢いを増して大きな回転力を生む仕組みです。たとえば新規顧客が製品を使う⇒顧客データが蓄積される⇒サービスが改善される⇒既存顧客の満足度と継続利用が高まる⇒追加投資により販管費効率が向上し、さらに顧客獲得コストが下がる──という好循環が生まれると、そのフライホイールは自走的に回り続けます。
 

この「フライホイール効果」を意図的に組み込むことが、まさに収益逓増(ていぞう)型ビジネスの本質です。事業規模が拡大するほど(=フライホイールが大きく回転するほど)、利益率が高まり、成長すればするほど勝手に強靱になっていきます。ネットワーク効果で顧客同士が価値を高め合い、データ学習で使うほどサービスが賢くなり、固定費レバレッジで規模拡大の利益をそのまま取り込む──これらの要素が互いに連鎖し、フライホイールにさらに強い回転力を与えるからです。

結果として、競合が追随を試みても巻き返しが難しくなり、価格競争に巻き込まれても自社の収益は雪だるま式に増加し続けます。これこそが、厳しい市場環境にあっても揺るがない「収益逓増型ビジネス」の強みなのです。

多くの経営者が気づいていない重要な事実

実は、事業に携わる多くの方が、自社のビジネスが「収益逓減型」なのか「収益逓増型」なのかを明確に意識できていません。

「うちの売上は伸びている」

「利益も出ている」

「業界ではそこそこのポジションにいる」

そう思っていても、実際には収益逓減の罠にはまっている可能性があります。

売上が増えても利益の伸びが鈍い、競合他社との差別化が困難、価格競争に巻き込まれやすい─これらはすべて収益逓減型ビジネスの典型的な症状なのです

 

本書が提供する価値

本書は、フライホイール経営により、この「収益逓減」から「収益逓増」への転換を実現するための実践的なガイドブックです。
チェックシート演習や3つのケーススタディから価格競争から抜け出すための実践的手法が学べる一冊です!