「売上は伸びても利益がついてこない企業」と、「売上が伸びるほど利益率も上がっていく企業」。
この差は、長期的な企業価値に大きく影響します。後者のように、規模が大きくなるほど収益性が高まる構造を持つ企業は「収益逓増型ビジネス」と呼ばれ、投資家や経営者にとって魅力的な存在です。

今回は、日本の上場企業の中から、このモデルをすでに確立している企業、そして確立しつつある企業を調査し、その特徴と注目ポイントを整理しました。


収益逓増の4つの源泉

収益逓増型ビジネスが成り立つ背景には、主に4つのメカニズムがあります。

  1. ネットワーク効果
    利用者が増えるほど、サービスの価値が高まり、さらに利用者が増える好循環。
    例:求人サイト、C2Cマーケットプレイス、医療情報プラットフォームなど。
     

  2. SaaS型スケール経済
    サービス提供の固定費が大きく、顧客が増えるほど1顧客あたりのコストが下がり、利益率が上昇。
     

  3. プラットフォームの固定費レバレッジ
    集客や物流などインフラ部分は固定費が中心。取扱量や流通総額が増えると利益が一気に伸びる。
     

  4. 購買・物流の規模の経済
    仕入れや在庫管理、配送網が規模拡大で効率化され、粗利率が改善。


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確立済みの代表企業

すでに収益逓増モデルが機能し、高利益体質を維持している企業です。

  • M3(2413):国内医師の約8割が登録する医療プラットフォーム。広告・求人・治験支援まで多角展開。

  • リクルートHD(6098):Indeedを中心に、求人両面ネットワークと広告最適化で世界規模の収益基盤。

  • カカクコム(2371):価格.comや食べログの高集客力を武器に、利益率50%超のプラットフォーム運営。

  • メルカリ(4385):国内最大級C2CマーケットにFintechを組み合わせ、ARPU上昇を狙う。

  • MonotaRO(3064):B2B向け工具・部材EC。仕入れ・物流の効率化で着実に利益拡大。


確立しつつある注目企業

まだ成長過程にあるものの、収益逓増の兆しが見える企業です。

  • Sansan(4443):名刺管理から請求データ連携へ。エンタープライズSaaSとして拡大中。

  • RAKUS(3923):中小企業向けSaaS群で「Rule of 50」を目標に収益性改善。

  • Money Forward(3994)/freee(4478):会計を起点に業務全体のクラウド化を推進。

  • Visional(4194):ビズリーチの高い利益率とHRMOSの横展開。

  • 弁護士ドットコム(6027):クラウドサインの契約ネットワーク拡大。

  • ラクスル(4384):印刷・広告・物流の需給最適化プラットフォーム。

  • SORACOM(147A):IoT回線と管理PaaSを世界規模で提供。

  • インフォマート(2492):受発注・請求ネットワークを法制度追い風に拡大。


投資やビジネスのチェックポイント

こうした企業を見極める際には、以下の指標が有効です。

  • NRR(Net Revenue Retention)や解約率:既存顧客からの売上維持・拡大力。

  • ARPU(1顧客あたり売上)の上昇傾向。

  • 粗利率の水準と安定性:高粗利+安定が理想。

  • 営業利益率の逓増:成長と利益率改善が同時に進んでいるか。

  • LTV/CAC:顧客獲得コストの回収期間が短く、LTVが高いか。


まとめ

収益逓増型ビジネスは、一度モデルが確立すれば強い競争優位を築ける一方、初期の投資やユーザー獲得に時間がかかるという特徴もあります。
確立済み企業は安定的な成長を、確立しつつある企業は高い伸びしろを、それぞれ期待できます。

次の投資先や事業戦略を検討する上で、「スケールすればするほど強くなる構造」を意識して企業を選ぶことが、長期的な成功のカギになりそうです。
 

 

 




補足:各投資候補の詳細
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M3(2413)

  • 概要:医師・医療機関ネットワークを基盤に、製薬デジタルマーケ、治験支援、人材紹介ほかを多角化する医療プラットフォーム。

  • 収益性:2025/3期 売上2,849億円(+19.3%)、営業利益629億円(▲2.2%)。M&A連結や規制・費用増を吸収しつつ高収益を維持。エムスリー株式会社

  • 投資妙味:国内で強固な会員基盤+非広告領域の拡張余地。薬機・広告規制やPMIがリスク。中長期の逓増性は堅い印象。

リクルートHD(6098)

  • 概要:HR(Indeed/Glassdoorなど)を核に販促・SaaS等。求人両面ネットワーク×広告最適化が強み。

  • 収益性:FY2025 Q1はOperating income YoY+20.3%、EBITDA+Sマージンは売上比21.3%へ改善。景気感応はあるが収益性は逓増基調。リクルートホールディングス+1

  • 投資妙味:Indeed PLUS等によるARPU/マージン改善余地。景気後退や雇用市況悪化がボラティリティ要因。

カカクコム(2371)

  • 概要:価格.com・食べログの集客力に基づく広告・送客モデル。固定費レバレッジが効きやすい。

  • 収益性:2025/3期 上期は減損のれん調整除き営業利益+29%相当、実効で利益率回復基調。歴史的に高いセグメント利益率が魅力。Yahoo!ファイナンス

  • 投資妙味:景気や広告市況の影響は受けるが、トラフィック回復・予約送客MIXでの利益逓増が続く限りは妙味。

メルカリ(4385)

  • 概要:C2Cマーケットプレイス+Fintech(Merpay)。両面ネットワーク×決済・与信でARPU引き上げ。

  • 収益性:FY2025.6 Q4の調整後コア営業利益率38%(Hallo控除後43%)。Fintechはコア営業益45億円と通期目標超過。IR Pocket+1

  • 投資妙味:金融連携の利益寄与が顕在化。規制・競争・与信管理が主要リスクだが、プラットフォームの逓増性は強い。

MonotaRO(3064)

  • 概要:B2B MRO(工場・現場向け消耗品)EC。仕入れ・在庫・物流の規模の経済で高回転。

  • 収益性:2024/12期 売上+13.3%、営業利益+18.4%。販管費率低下で営業利益率改善。中期で安定的な逓増。モノタロウ 企業サイト+1

  • 投資妙味:DC投資の回収が進むほど利益レバーが効く。為替・調達ミックスは監視ポイント。


確立しつつある(伸長中)

Sansan(4443)

  • 概要:名刺SaaSを起点に「Bill One」など請求データ連携へ拡大。エンプラでのNRRが強い。

  • 収益性:2025/5期 通期 売上+26.2%、調整後営業利益+大幅増(Bill One寄与)。セグメント別でもSansan/Bill Oneがともに高成長。Sansan株式会社+1

  • 投資妙味:ワークフロー横展開でアップセル余地大。競争(会計・請求連携)と大型更改の季節性が注意点。

RAKUS(3923)

  • 概要:中小企業向けクラウド(楽楽精算・楽楽販売など)。SaaS多面展開でスケール。

  • 収益性:「Rule of 50」(成長率+営業利益率≥50)志向を明示、収益性重視へシフト。事業ポートフォリオの集中も進行。Yahoo!ファイナンスラクス

  • 投資妙味:SMB市場の深掘りでNRR・回収月数の改善余地。採用・開発投資の先行が利益率のブレ要因。

Money Forward(3994)

  • 概要:会計・請求・経費・人事などバックオフィスSaaS群。エコシステム化が進む。

  • 収益性:25/11期は四半期ごとに進捗開示。赤字縮小と粗利逓増の継続がテーマ。最新プレゼン資料で指標確認可能。株式会社マネーフォワード+1

  • 投資妙味:横断プロダクト連携でNRR>100%の持続を狙う局面。黒字化タイミングの見極めが鍵。

freee(4478)

  • 概要:SMB向け会計〜ERPのクラウド基盤。連携アプリ拡張でロックイン強化。

  • 収益性:直近の利益率は投資先行で薄いが、ARR成長と粗利の逓増が継続するかが焦点(最新IRで確認)。フリー株式会社 コーポレートサイト

  • 投資妙味:会計を起点に業務全体へ拡大する“面”の戦略。CACや競合の動きに敏感。

Visional(4194)

  • 概要:ビズリーチ(即戦力採用)×HRMOS(人事SaaS)。高収益HRプラットフォーム。

  • 収益性:FY2025/7通期見通しを上方修正。3Q累計営業利益率29.7%、BizReach単体は通期OPM40%見通し。Visional+1

  • 投資妙味:市況影響は受けるが高マージン継続。SaaS側の伸びが追加の逓増ドライバー。

弁護士ドットコム(6027)

  • 概要:契約クラウド「クラウドサイン」を中心に法務DXを拡大。ネットワーク型の粘着性。

  • 収益性:2025/3期 資料でARR約127億円規模、CS(クラウドサイン)ARR成長30%超の示唆。利益化は投資と並走。ベンゴシ4Yahoo!ファイナンス

  • 投資妙味:契約業務のSaaS化は長期追い風。競争激化と法改正の影響が留意点。

ラクスル(4384)

  • 概要:印刷・広告・物流の需給最適化プラットフォーム。アセットライトで固定費レバレッジ。

  • 収益性:2025/7期 3QでEBITDA過去最高水準、営業利益は23/7期比で約2倍に。利益伴走の成長へ移行。Yahoo!ファイナンス

  • 投資妙味:ID統合等によるクロスセルが伸びしろ。品質・需給コントロールが実務リスク。

SORACOM(5869)

  • 概要:IoT接続(eSIM/回線)×管理PaaS。グローバルでのリカーリング成長が軸。

  • 収益性:2025/3期 売上+13.4%の89.9億円、EBITDA8.3億円・営業利益0.7億円で6期連続黒字。26/3期は売上+25.7%、EBITDA+36.1%計画。Yahoo!ファイナンス株式会社ソラコム コーポレートサイト

  • 投資妙味:KDDI連携・M&A活用でスケール加速。大口価格競争・MNO依存は常時確認。

インフォマート(2492)


使い方(投資観点のヒント)

  • 「確立済み」で土台(安定逓増)を作り、「伸長中」でオプション価値(加速度)を組み合わせる。

  • 四半期ごとに①営業利益率のトレンド、②NRR/解約率、③ARPU、④固定費比率の逓減(販管費率)を点検。

  • 収益逓増は“プロダクト横展開”と“ネットワーク密度”が鍵。IRでコホートやNRRの開示が厚い銘柄ほど評価しやすい。

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